七章 侍道化と荒海の魔女 その5

 括正はルシアと初めて出会った海岸に戻ってきた。

「あれ? ルーちゃんもしかして海の彼方までぶっ飛ばされたのかな? ……潮が引いてる、引き過ぎてる。…この海岸から見て海の真ん中に大きな濡れた砂の道が…まさか…」

(アッハッハッハッハッハッハッハッ!)

「…! 耳の中で声が響く。ルーちゃん、念術で僕に話しかけてるね。海の彼方から。」

(ご名答ね。侍道化、か、つ、ま、さ。家の因果に巻き込まれるなんて、哀れ、あ、わ、れ。ただ家のせいで大変な目に遭ったのはお前だけと思わないことね。家はしがらみであり枷なのよ。)

「……家はそうだけど、家族は違うんじゃない? 僕の叔父と何があったか知らないけど、僕は叔父は好きだし、君と巡り逢ったのは不幸せとはとても思えないな〜。……もう帰るの? 話聞くよ〜。」

(アハハ。やっぱり哀れ、あ、わ、れ。女神たるアタシが人間のお前ごときと同じ土台で闘志を交えること事態がナンセンス! じきににアタシが作った大きな津波がお前のところにやってくる。ソドォームを滅ぼした大技だ。技の名は罪の裁き。逃げようと思わないことね、括正。アタシは国を滅ぼさないって約束したけど、あんたがそこから逃げるなら、波は必ず追いかける。不可抗力ってやつね。つまり誰かが死ねば近くにいたお前のせいだ! アタシは波の上に乗りながら、たた絶望するあんたを見物してるよ!)

「…すごい何もかも話すんだね、ルーちゃん。」

 括正はそう言いながら、逆十字刀の刀を抜いた。

「正直は素敵だけど、なんでもかんでもありのまま話すのは損をするよ。」

 括正はそう言いながら、海にルシアが作った濡れた砂の道の横幅を調べた。

「いけるな。よし。進化した技で波の勢いを遅くする。」

 括正は片手で刀を横に構えた。

「飛斬、黒豹の咎。」

 横幅のある細長くて黒い斬撃が濡れた地面をスレスレ飛ぶように解き放たれた。一方自身が作った波の上に誇らしげに立つルシア。

「アハハ、哀れ、あ、わ、なんじゃあれ? …黒い衝撃波! あれはもしかして!」

 ズシュウウ!

「波が刺激されて勢いが、うわあ、バランスが…」

 波がしばらく止まったので、ルシアは前に転んでしまった。そのまま濡れた砂の道を勢いよく転げ回る。

「ぐわー! ブッ! ガッ! ゴッ! バッ! うっ! ぐわっ!」

 しばらく転がっていたら、ちょうど括正の目の前でうつ伏せになって止まっていた。後から優しい波がやってきて彼女の上にかぶさった。またしばらくしてからバッっと立ち上がる。括正は拍手をする。

「おお〜。あんたタフだな。」

「ふーっ、ふーっ、ふーっ、ふーっ、ふーっ、ふーっ、」

(呼吸する度にルーちゃんの下から…黒い煙が…出てきては彼女を包み込む…ちょっと離れよう。)

 黒い煙がみるみる大きくなり、払い除けられると、大きくなったルシアが物理的に括正を見下していた。括正は冷静だった。

「……怪獣ごっこに憧れる系女子なの、ルーちゃんって。」

「アッハッハッハッ! どう? これは自分を巨大化させられる大技―絶対風格! 拝むがいいわ、この哀れでちっぽけな括正よ!」

「いや、あんた通常サイズ僕より背え低いじゃん。けどぶっちゃけた話、ルーちゃんってクールでスタイルいいけど、僕どちらかというと小柄で華奢に見える子の方が好きなんよね、僕。」

「いや知らんがな! この状況でお前のしょうもない女性好みをカミングアウトするな! ってかまあアタシは気にしないけど、女性の前で好みの女性の話あんましない方がいいと思うぞ。」

 ルシアは思わずツッコミと注意をしてしまった。括正は思わずアゴ髭を触った。

「んん〜。念縛鎖や紫雲英咲は効かなそうだな〜。」

 括正は周りをキョロキョロし始めると、ある物を目にした。

「あっ! こんなところに折れたバウスプリットが!」

 括正はヒョイっと距離のあるバウスプリットを念術の浮遊術で浮かした。ルシアは困惑した。

「あっ? お前何を…」

「貫けええ!」

 グシャアアア!

 回転が加えられたバウスプリットがルシアの腹を貫いた。

「ぎゃあああああ!」

「おっ、ルーちゃん風船みたいに縮むね。抜くよ。」

「グハアア! 血を余計吹きださせるなあ!」

 ルシアは傷を押さえた。しばらくして呼吸を整えてから、ルシアは気合を入れる。

「絶対風格!」

 再びルシアは巨大化した。

「アタシの前にひれ伏すんだよ、括正ぁ!」

「やだ。えいっ!」

 括正は再びバウスプリットを念術で投げつけた。

 グシャアアア!

「ぎゃあああああ!」

「……また縮んだ。じゃあ抜くね。」

「グハアア!」

 ルシアがこの後呼吸を整える度にこのやり取りがしばらく続くのであった。

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