七章 侍道化と荒海の魔女 その4
次の日の朝。
括正は堂々とした佇まいで、船の残骸が比較的に多い魚の区の海岸の草原にて両腕を組んで構えていた。波に変化が生じる。
「…来たね。」
括正が悟ると水を切る音と共に、顔、残りの上半身、下半身が順番に陸に姿を見せながら荒海の魔女がやってきた。
(銀色の長い髪…青い瞳…見かけはおばさんじゃないなぁ、雰囲気はお姉さん……巻貝のネックレスを首に巻いてる……噂通りのタコの人魚か、結構かっこいいな。)
括正が荒海の魔女を分析していると、彼女も陸に上がってきて、ようやく彼の存在に気づいた。
「ん? あんたは誰だい? ふざけた答えは絞め殺すよ。」
ルシアはそう言いながら、括正に自分の触手を近づけた。括正は鼻を嗅ぐ。
(あっ、めっちゃいい匂い。)
「あっ、めっちゃいい匂い。」
「は?」
「しまった。口に出していた。いやすまない。魚の匂いを予想してたから、あんたの触手。それがすごくいい匂いで。…香水?」
「…ちゃんと美容には気をつけている。で、あんたは何者だい?」
荒海の魔女は触手を引っ込めて、再び問う。
「ただの代理人さ。海の人のもんを海の代表とも捉えられるあんたに返しにきた。」
括正はそう言いながら、懐から海剛石を出した。
「そう。…立場をわかってるのね。従順は徳だよ。」
ルシアは再び触手を伸ばして、海剛石を取ろうとした。括正はそれに気づいてバッっと動かした。
「まあ、待ってくれ。あんた海剛石を返してもらう代わりに、この国は滅ぼさないんだよな?」
「アタシと口契約をしようってのかい? 生意気よ。」
「じゃあ言い方を替える。この国を滅ぼさないでくれ。赤子や子供もいるんだ。僕は何回かこの国の赤ちゃんを抱っこしたけど、彼らは希望溢れる未来なんだ。…頼む。」
「……わかった。約束する。」
「ありがとう。」
括正はそう言うと、自ら荒海の魔女に近づいた。
「……アタシが怖くないのか?」
「怖気づいてたら、会話にならんしょ。」
括正はそう言うと、海剛石を素直に差し出した。ルシアは手に取って、海剛石を見つめた。
「おかえり。」
「ただいま。」
「いや、あんたに言ってない!」
ルシアは思わずツッコミを入れた。括正は質問をする。
「ところであんた…」
「なんだ?」
「名前は?」
「…手紙読んでない?」
「ああ、あれ? 偽名だと思った。」
「いやなんで偽名名乗るん? ルシアよ。ル! シ! ア!」
「そうか〜、ルシアちゃんか〜。じゃああだ名はルーちゃんだね。よくそう言われない?」
「言われねえよ! 友達いないし。ってか馴れ馴れしくあだ名つけんな! アタシのビジュアル的に似合わないだろ、ルーちゃんって!」
ルシアは自分のタコ足や見かけを示した。括正は目を鋭くした。
「ギャップ萌えという要素を考慮しな、あかんぜ。ルーちゃん。」
「需要がないよ! だからルーちゃん呼ぶな!」
ルシアはまたもやツッコミを入れた。ふと冷静になって、ルシアは海剛石を見つめた。
「ここからよ! これで海も陸も復讐も、そしてあらゆる生物がアタシのものだ!」
ルシアはそう宣言すると、括正は思わずパチパチ拍手をした。
「おめでとう〜!」
「……いや、ちょっとは怯えろ。」
「いや、人のハッピーはケースバイケースだけど、僕もハッピー。」
「いやこれはお前がハッピーになっちゃいけないパターン。怯えなきゃいけないパターン。」
「何ー、あんた? 応援されたくない感じの人?」
「いや、そうじゃないけど、うーん…。」
「……といっても、あんたは手に入れるって宣言した大層なものの数々、本当に欲しいの? それで本当に幸せになれるの?」
括正の問いに対してルシアはうまく答えられなかったので、ルシアは話を変えることにした。
「アタシの前に一人で現れるなんて、大した度胸だ。坊や、名前は?」
「ああ、僕は侍道化って言われてるけど、本名は岩本 括正だよ。……ルーちゃん、どったのん? 顔色悪いよ。プルプル震えちゃって寒い? いや、あんた海出身だしなぁ。ねえ大丈夫ルーちゃん。ねえねえ。ねえってば。」
「岩本……いわ……もと……い……わ……も……と。」
突然ルシアの瞳が青く光って、括正を睨む。括正は逆十字刀を構えた。
(こんなオーラ蛇光以来だ。蛇光もルーちゃんもやはり神々の血を引いているのは誠だ!)
「岩本おおおおお!」
ゴン!
ルシアの拳を括正は十字架が交差するとこで防いだ。
ズズズズ!
(これが荒海の魔女の通常の拳か⁉︎ 一回でだいぶ後ろに下がったぞ。当たってたら僕が一発で体のどこかが折れてた。追撃がくる。)
括正は武器を腰に戻し、左手をパーに、右手をグーにした。
(受け止めちゃ、いずれやられる。左手で受け流し、右手で反撃だ。)
「岩本おおお!」
スッ!
(こいつ受け流したの⁉︎ 反撃を狙ってる? でも…)
ゴン!
「いてっ!」
(なんちゅー硬さだルーちゃん。試しにラッシュ。)
ゴゴゴゴゴゴ!
「こっちが痛いな〜。」
「あら終わった? そこらの怪人には通じるかもだけど、お前の目の前にいるのは神だ。」
「なんで急に僕に攻撃を? さっきまで仲良くやってたじゃん〜。」
「いやどちらかというとお前にアタシが一方的に振り回された感じだよ!」
ルシアはそう言うと、拳に力を込めた。
(闇がルーちゃんの拳に圧縮されている…幸灯が昨日僕に見せたあれか! でもあれの比じゃないぞ!)
ギュッ! ギュッ! ギュッ! ギュッ!
「あらまあ、すごいなルーちゃん! 僕の手足を触手で縛って浮かせて、動けないや!」
「黙れ! 喜正の時の不覚は取らん!」
「なるほど〜。ルーちゃんは逆恨みで僕をいじめるんだ〜。喜叔父さん元気だった? 会いたいな〜。相変わらず陽気なんかな?」
「いや戦ったのだいぶ前だから、知らんがな! そこから気持ちをゼロにして、修行して魔法も念術も体も鍛えたから、余計知らんがな!」
「そうか。ルーちゃんって真面目で努力家なんだね。」
「うっさい、滅べ!」
ルシアの拳が唸る。
「墨突き!」
「あああああ!」
括正は悲鳴をあげた。拳は腹に直撃して、ルシアから解き放たれた闇は括正をぶっ飛ばした。
「……死体は一応確認するべきね。」
少し離れたところまでルシアは走って、仰向けに倒れてる括正を見つけた。
「…不思議と帽子が取れないわね。……ちゃんと死んでるわね。腹に穴を開けたんですもの。……えっ。」
(奴の右手に桃色の液体のような気体のようなオーラが…右手が動いた。腹を触って…今度は…)
「こいつの体中に液体のオーラが…」
「復活!」
括正はそう言いながら腹筋で起き上がった。ルシアは驚いていた。
「こじ開けた腹も服も元に戻ってる…」
「あら、ルーちゃん。僕が心配で来てくれたの? 優しいね。僕に対して意地悪な人多いから嬉しいな〜。」
「いやどんだけポジティブなのよ! お前の死体確認しに来たんだよ!」
「確かに死にかけた。けど回復念術―桃汁のおかげで助かったよ。」
括正は砂埃を振り払った。そして拳を構える。
「僕も殴らせてもらっていいかい?」
「ふん、初手は好きにしな。ただお前は再び絶望することに、ブベッ!」
括正の拳はルシアの頬に直撃した。
「トイヤッ!」
「ガッ!」
続いて括正の蹴りが魔女の腹に直撃する。
ズズズズ!
(こ、こいつ〜! 最初の連撃は下準備。微々だが念力をアタシの体内に流し込んでいた! このニ撃で神々の抗体が奴に通じないことが証明された。)
「アタシよりも念術が得意じゃない、小僧!」
頬とお腹を抑えていたルシアは怒りを込めて括正を真っ直ぐ睨みながら叫んだ。括正はルシアが話し終わるまで軽くぴょんぴょん跳ねていたが、即座にニヤけながら構えた。
「これだけじゃないよ〜。」
括正は前に手を出して、念力を込めて何かを掴んでるような仕草をした。
「念縛鎖。」
「がああああ!」
(鎖にきつく絞められたような痛み! 手も触手も動かせない! クソォ、大の字の体勢で宙に浮かされた。)
ルシアを浮かした括正はにやけていた。
「さっきの場所に戻ろうぜ、ルーちゃん。道化式究極の念押し、」
括正は次の技名をバッっと腕を前に伸ばしながら叫んだ。
「
ヒュウウウウ!
「ぎゃあああああ!」
今度はルシアが海の方へとぶっ飛ばされてしまった。
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