六章 悲哀と勇気 その10

「あら? 武天君、この先が最終層見たいよ。」

「本当かね? このダンジョンは層が少ない方だな。」

「そうね。それに出てくるモンスターも弱い。ここを基地にしている怪人もいないわね。まるでどうぞお通りくださいって言われてるみたい。」

「考えすぎではないかね? まるで誰かが意図的に誰かをはめるためにこのダンジョンを作ったみたいな言い方ではないか。」

 武天が最終層への門を開けようとしたその時だった。

「あっ、待って武天君。」

 清子が引き止めるとある物を取り出した。

「ちょっと手が少し荒れてきたから、ハンドクリームつけさせて。」

(清子君は魔女でもやはり年頃なのだな。)

「あっ。つけすぎちゃった。」

「資源を大切にしたまえ!」

「そうね。」

 清子は納得すると武天にさらに近づいて、さっと彼の手を触った。

「ごめん武天君。もらって〜。……えっ、予想外。なんでそんな極端にいやそうな顔するの?」

 清子が驚きながら、問い詰めると武天はある物を取り出した。

「俺の使っている香水とミスマッチを起こしたら、どうしてくれる⁉︎」

「ご、ごめんなさい。」

「気をつけたまえ。」

「…でも意外。武天君香水使ってるんだ〜。」

「王子様時代から使っている。」

「そして昨日から王子様呼ばわりされるの気に入っていたんだ。」

「早く開けないかね?」

 武天がそう言うと二人で、扉を開けた。慎重に最終層を歩き始める。

「今までの層の道と比べると広くて明るい。けど何もないわね。」

「いんや、あるとも。先を見たまえ。」

「ほんとだ。下が欠けた円のような……巨大な鏡ね。私たちが見えるわ。」

 清子はそう言いながら軽く鏡の自分に向かって手を振った。武天は前方に指を差した。

「見たまえ。看板がある。」

 二人は近くまで近づいて、分析した。

「古代文字ではない。俺達でも読めるぞ。」

「不思議ね。このダンジョンは大昔からあるはずよ。誰かが最近書き置きをしたのかしら?」

「魔法でどの時代にも通じるようになってる仕組みかね?」

「そんな魔法聞いたことないわ。古代の魔法は私たちの想像を軽く超えているのかもね。」

「とにかく、読んでみようではないか。」

「一緒に音読しましょう。怖さがぶっ飛ぶわ。」

 武天が清子の案に頷くと、二人は看板に書かれたことを音読した。

「「よくぞここまで辿り着いた、勇気ある者よ

 余という宝、鏡の先にあり

 記しの後ろに金槌あり

 誠の勇者よ、それを掴みて、鏡を割れ

 余がソナタらの力を育む

 叩かなければ危険なし、しかしソナタは腰抜けなり。」」

 しばらくの間、沈黙が流れた。武天はふと看板の後ろを見て、を掴んだ。

「あったぞ、金槌だ。」

「うわあ、金ピカ! それ持って、帰りましょう。質屋に売ったお金は半分こね。」

「……君は何を言っている? 一緒に読んだだろ。」

 武天はそう言うと、前方の鏡を示した。

「あの鏡の向こうに莫大な宝が眠っているかもしれないんだぞ?」

「あなたって、お宝に目が眩む人には全然思えないけど。」

 清子は腰に両手を当てて物申した。

「それに未知すぎるリスクよ。今の私たちの経験値も人数も少ないわ。のは少なくとも六人必要だわ。それに今のちょっと情緒不安定な武天君と危険に突っ込むのはイ、ヤ、で、すっ!」

 清子は断言すると、武天は小馬鹿にするように鼻で笑った。

「なんだね、君は? ビビりやがって。所詮はお子様の女だな。」

「当たり前じゃない。私はあなたより背が低いのよ。あなたが大きいと感じるものは私はさらに大きく感じる。それに私はあなたより歳下なのよ。あなたと見た景色には明らかな差があるの。ついでに言わせてもらいますけど、例外は除いて女性は平均的に男性と比べたら傷つきやすいの。勇気を出す時の立っている土台が元々違うのよ。怖くて何が悪いの?」

「君はいいさ。だが俺は男で侍だ。こういう状況で逃げたら恥だ。」

「馬鹿なこと言わないで! 武天君、昨日からおかしいわよ!」

 清子はそう言って、バッっと武天から金槌を奪って、距離を置いて杖を構えた。武天は腕を前に出してバチバチ雷鳴を鳴らした。

「……返したまえ。手荒な真似はしたくない。」

「……あなたの素敵な部分を封じ込めて、心を狂わせる物や場所は…ない方がいい!」

「鬼雷撃!」

火樹銀花フランメ!」

 片手と片手の杖から雷と炎が炸裂する。近距離の攻撃の威力にに二人の足はズズズズと後ろに押される。

(清子君の炎は圧があるな。)

(武天君はやっぱり本物の雷使い。)

 ドカーン!

 爆発が生じて、煙が部屋を包んだ。清子は魔力を込める。

雷速の種蒔サンダープラント蔓拘束ホールド!」

(……茨が俺を…押さえつけたわけだ。)

(この金槌を持って脱出…)

 タタタタ、

(音が聞こえる、この層を出るつもりか、清子君⁉︎)

「させん! 鬼気解放!」

 武天は鬼の気迫で拘束を打ち破った。

「雲雀手腕!」

 モクモクモク、ガシッ!

「ああっ!」

 武天の手から伸びる雲が清子の足首を掴んだので、彼女は思わずこけてしまった。

(嘘っ! 武天君の作る雲は固体化ができるの⁉︎)

「うっ! 痛い! 辞めて!」

(雲を縄のように引っ張って、引き寄せられている。…ごめん、武天君!)

尋問の雷ミニビリ!」

「グッ!」

(杖から放たれる無数の電流が俺の体を刺激する。魔女の峰打ちか? …だがあくまで人間用の激痛だ。)

(…嘘! 離してくれない! …近くまで来ちゃった。)

「あっ!」

 武天は清子から金槌を取り上げる。そしてズカズカと鏡の方に向かった。

「お願い、武天君!」

 清子は後ろから、武天を引き止めた。

「ここに入ったのが間違いだった! 今すぐ戻ろう!」

 武天は聞く耳を持たず無言で金槌を鏡に投げつけた。パリンとき下の円が欠けた大きな鏡は当たった部分を中心に無数のヒビが生まれた。

「清子君、君はどうやらビビりすぎたようだ。何も怖がることは…」

「近づかないで!」

 清子は叫んだ。清子は怒りと哀しみで震えながら涙目になっていた。

「私に近づかないで。豹変して、私に対して力づくで目的を成し遂げたあなたが、怖くて仕方がない。」

 その言葉を聞いて、武天は下を向いた。しばらくの間、沈黙が流れる。

パリパーン!

 突然鏡の破片が全て取っ払われて鏡が反射ではなく、闇になった。清子と武天は、横並びになり杖と刀を身構えた。鏡の真ん中でにやけてる人物が写った。

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