六章 悲哀と勇気 その7

 時は移ったその日の夕方。

「ようやく終わった。」

 武天はそう言うと、自分が割った薪を全て雲の中に入れた。

「さてこれで…」

(何かとてつもない強さが近づいてくる…声が近づいてる。)

 武天の黒い瞳は赤く光った。やがてその存在が言葉と同じ行動をしながらやってきた。

「スキップ。スキップ。くるっと回って、バレリーナ。スキップ。スキップ。くるっと回って、バレリーナ。スキップ。スキップ。くるっと回って、バレリーナ。スキップ。スキップ。くるっと回って、バレリーナ。スキップ。スキップ。くるっと回って、バレリーナ。」

(……なんだあの珍獣は? ……白髪黒髪ごちゃ混ぜボサボサの髪型、その上には虎っぽい耳ときた。尻尾も生えて服から飛び出てる。シマシマで先っぽが円柱だ。白いカンフーパンツに水色と黄色が合わさった短い袖の中華服だ。武器は太刀一本背中に、刀が二本腰に。腕は細い人の腕だが、人じゃない。怪人だ。)

「おいっ! お前は誰だ⁉︎」

 武天は強気に問いかけた。

「スキップ。スキップ。くるっと回って、バレリーナ。」

「君に話しているのだよ、虎公!」

「スキップ。スキップ。くるっと回って、バレリーナ。」

「一旦その儀式を辞めたまえ!」

「スキップ。スキップ。くるっと回って、バレリーナ。スキップ。スキップ。くるっと回って、バレリーナ。スキ…」

「無視するでない!」

 武天は苛立ちと共に手から雷を発した。

 シュッ、カチャ!

「何っ!」

(雷が無にされた! まさか一億ボルト以上の圧をあの小刀から出したのか⁉︎ 抜くのも鞘に納めるのも速すぎて裸眼では捉えられなかった!)

「んん〜? んん〜。」

 武天が分析していると、ライガーは唸りをあげていた。

「狂矢君より厄介な遠距離やのーん。だがそれだけなん。」

 ライガーはビッと武天に対して人差し指を向けた。

「そもそも、いきなり攻撃とは失礼だぞ。普通は話しかけるものだ。」

「だからさっきから話しかけていたのだよ!」

「俺は自分の世界に入っていた。そんな者の耳には何も届かぬ。そしたら雷鳴が聞こえた。」

「届いてたではないか!」

「そう! 想いは届く! この前恋文を紙飛行機にして飛ばした。まさかの海ポチャという悲劇よ。」

「海辺で投げなければいいではないか。」

「あっ、ごめん。これ想い届かない例だった。つまり俺が言いたい最も重要なポイントはなんなのかというと、これは難題であって単純な事柄でありつつのことなんだが…」

 ライガーはもう一度ビシっと人差し指を武天に向けた。

「人に話しかけられたら、ちゃんと反応しようぜい!」

「お前がなっ!」

 武天は苛立ちで叫んだ。ライガーはキョトンっとしていた。

「お主はなぜ怒っている? 最近イライラしたことあったんか?」

「たった今な。」

「なんと⁉︎ いつの間に⁉︎ ならば問おう、あいうえお。原因はなんだい? それが難題。」

「いや、君なのだが。」

「それはおかしい。なぜなら俺様ハッピー。俺様ハッピーならみんなハッピー。」

 シャキッ!

「おっ、チビちゃん刀抜いた音、ビューティフル! だがしかし…」

「お前は刀でお仕置きが必要なようだ…どうしたのかね?」

「んん〜? んん〜。」

 ライガーは武天を分析していた。

「弱さが過ぎるん。つまり弱すぎるん! 剣愛がなさすぎるん!」

「何を言っている。抜いただけで俺の強さを認識したつもりか?」

「お主は…」

 ライガーはある物を荷物から取り出した。

(は確か…ヨーヨーなるものか? まさかそれで鬼の力を秘めた俺と戦うなんて…)

「お主にはで充分ってことよ。」

「ふざけるなぁ!」

(思い知るがいい! 鬼の腕力!)

 カーン!

(なっ! 嘘だろ⁉︎ あんなおもちゃで俺の刀が鬼の手から弾かれた!)

「だから言ったぞい〜。剣愛なさすぎん! お主が剣愛なさすぎて、逆に死にたい。」

 ライガーはヨーヨーで遊びながら、言葉を放った。武天は地面に刺さった刀をすぐに拾う。

「…雷刻剣。」

 ゴロゴロ〜。

「んん〜。お主手だけじゃ飽き足らず、刀にもビリビリ〜。だが所詮同じことよ。」

「舐めるな珍獣!」

 武天はライガーに急接近した。

(触れたら終わりだ!)

 カンカンカンカンカンカンカンカンカン!

「ホウホウホウホウホウホウホウホウホウ!」

「何ーっ⁉︎」

(俺のスピードについていけてる⁉︎ いや、それ以前にヨーヨーに雷が感電せずに受け流してやがる!)

「そろそろ、攻撃していいかえ〜?」

(…これが防衛態勢だったというのか⁉︎)

「糸弄り…直線的光線砲ホリゾンタルレーザー!」

「ああああ!」

 ライガーのヨーヨーは武天の心臓に直撃した。

「ガッ…。」

 武天はそのまま倒れて気絶した。

「全く、なんやコイツ〜。知らんやん。」

 ライガーはそう言うと、跳ねながらその場を去った。しばらくしてからある小声が囁いた。

「いやあ、面白いもん見ました。さてワタクシはしばらく経ってから彼の生存を確認しよう。予想Aでは彼が死んじゃって、ワタクシが金目の物を奪えるか、それとも予想Bか…。」

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