六章 悲哀と勇気 その6

(またか…またなのか⁉︎ 俺の大事がまた! そんなのやだ! やだ! やだ! やだ! やだ! やだ! 絶対やだ!)

「ハァ…ハァ…。」

 武天はようやく薪割り場にたどり着いた。そして思わず目にした光景に膝をつく。

(クソォー! 手遅れだった! ……ん?)

「黒焦げの死体が…三つ?」

「あら武天君、お帰り。」

 清子が隣にやってきた挨拶をした。武天はキョトンとした。

「…ほぇ?」

「ん?」

 武天の反応を不思議がった清子は、黒焦げを見てピンときた。

「ああ、あなたの追っ手でしょ? 意地悪言って来たから私の火樹銀花おとくいで火葬したわ。」

「殺したのかね?」

「でなきゃ私が殺されていたわ。三人の手練れが挑んて来たのよ? それに…あなたも自分を守るために殺したんでしょ?」

 清子は質問すると、武天はコクリっと一度頷いた。清子は微笑んでいた。

「私たち、同罪ね。」

「あっ…ああ。」

(……同罪ではない。俺は軍師として敵の命も味方の命も何万も奪ってきたんだ。)

「そういえば、武天君って…」

 清子は武天の思考を遮った。

「養子に出された家って松平家だったんだ〜。若君だったのね。」

 武天が立ち上がり驚いていると、清子は三本の指で死体を指した。

「あの人たちがペラペラ喋っていたのよ。デリカシーのない人たち。だけど若君って捉え方によっては王子様ね。」

「…辞めたまえ。俺はそんな柄じゃない。」

「……私もね、捉え方によってはプリンセスなのよ。」

 清子はそう言いながら、ちょっと得意げに髪をかき上げた。武天は両腕を組む。

「確かに夢と希望を信じる女の子は誰だってプリンセスって俺の故郷の友人が言ってたな。」

「いや、そういうことじゃなくてっ!」

 清子は思わずツッコミを入れた。

「母方の血筋が特殊というか、家系的にそう思われてもおかしくないの。」

「そうだったのかね? 驚きだ。君は雰囲気的にはプリンセスを呪う側に視える。」

「まあ、呪いは嫌いじゃないわよ。…私的に驚きなのは武天君に友達がいたことだわ。その子は自称プリンセスなのかしら? 純粋で素敵。」

「いや彼は男だ。」

「へぇ〜、さらに意外! 男の子でもそういうこと言えるんだ〜。とっても優しそうなお友達ね。」

「まあ、いい奴だ。明るくいようと努力ができる勇敢な奴だ。」

 武天は思わず空を仰いでしまった。清子はその発言にあることを上乗せする。

「あなたも見習えるところあるんじゃない?」

「どういうことかね?」

「気のせいだったらごめんなさい。あなた、喜怒哀楽の喜が足りない気がするの。明るくいようと頑張ってみたら、あなたの人生の道ももうちょっと素敵になると思わない?」

 清子はそう言うと、頬を両指で押さえて微笑んだ。

「ほらほら、武天君。やってみよう。笑顔、笑顔〜。」

「……別に俺の笑顔にはなんの御利益も得もないと思うのだが…」

「私はすっごく得するのー!」

 清子はそう断言すると、目をウルウルさせた。

「お願―い〜。武天君、いいでしょ? ねっ、ねっ?」

 上目遣いの清子はそう言いながら指を組んで手を合わせた。武天は思わず顔を背ける。

「いいだろう。そこまで言うなら笑顔を見せてやろう。…いつかな。」

「えー、もう。」

 清子は自分の斬った薪を全て魔法で浮かした。

「私ノルマ終わったし、先に帰るから。笑顔みせてくれたら、残って一緒にやったのに。」

「ちょうどよかった。感謝する。おかげで集中できる。」

「……暗くなる前に帰るのよ。」

 清子はそう言うと、薪と共にその場を去った。

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