五章 侍道化/東武の守護者 その8

「ちくしょおお! 縄を解け、侍道化! 死にたくない!」

 蓮鳥港にて捕らえられた海賊の一人が叫んだ。括正は睨みを利かせていた。

「死とは隣人。必ず押しかける。君たちは海賊という道を選んだ時点でより隣接的になったまで。」

「だったら一層殺せ! 何故今生かす⁉︎」

 違う海賊が問いかけた。括正は冷静だった

「君たちの話を捕らえた時から聞いていて、大事だと思ったことはメモしておいた。海賊の中にもいろんな方がいることに驚いたよ。だがまだ君たちのことをよく知らない。君たちはこれから聖騎士団の方々に引き渡される。懲役もいるかもしれんが死刑になる者もいるだろう。」

 括正は海賊が皆見えるところに上がって正座をした。次の行動には蓮鳥港の人々も海賊も皆驚いた。

(あっ、あの侍道化が…土下座を⁉︎)

「どうか! どうか! お願いだ! 死刑になる者は悔い改めて! 反省して! 綺麗な心で! 逝ってくれ!」

 括正は叫ぶと立ち上がり、振り向いて、その場を少し離れた。少女が走ってくるのを見かけた。

「あれ、幸灯?」

「ハァ…ハァ…括正〜。終わったんですか?」

「ああ、蓮鳥港のみんなのおかげでね。」

 括正は状態を見せると、幸灯は驚愕した。

「ひーっ! やっぱり海賊は怖いです〜。」

「よぉーく見て、幸灯。女性も子供も、ひもじい想いをしてそうな細い男性もいるんだ。」

 括正は小声で幸灯の耳元で囁いた。

「君も大義はあるとはいえ、泥棒してるでしょ? 今回の大規模な襲撃は流石に僕も許せないけどね…」

「なんだお前、海賊共生きてるやん!」

 聞き慣れたハードボイルドな声が括正の言葉を遮った。

「おお、火雷殿。無事で何より。」

「無事で何よりじゃねえんだよ! お前、ちゃんと殺すんだよな?」

 狂矢の問いかけに、括正は冷静だった。

「捕らえることはできたんだ。裁きは他に任せるよ。」

「元々働くのが嫌で海賊になった奴がほとんどだ。死んで喜ぶ奴はいても悲しむ奴はいねえよ。」

「全員がそうじゃない。人それぞれ事情があるんだよ。ハートを持とうぜ〜、火雷殿。」

 括正が笑顔で狂矢の肩に手を置いた。狂矢は即座に振り解く。

「こいつらは不必要悪だ! お前ができねえなら、俺が処刑する!」

 狂矢はそう宣言すると、指からピピピピっとあるものを召喚した。幸灯は敏感だった。

(サンライトちゃんと同じ取り寄せ収納機能を⁉︎ 大砲!)

 狂矢は次に手の平サイズのボタンを取り出した。

「すまんな。 だがこれも大義。何回か滅却するのも手だが、一斉同時の苦しみの方がフェアだろ。こいつを押せば一気に全員ドカーンでおしまいだ!」

 海賊たちは動揺を始めた。その時だった。

「隙を狙って、てめえの手元に念術で引き寄せたな。辞めろ。返せ岩本殿。」

 シュッと後ろにいた幸灯に括正は渡した。

「逃げてー! 全速力!」

「ひーっ! はいーっ! 去ります〜!」

 幸灯は涙目になりながら全力で森の中へと走り去った。狂矢はカンカンだった。

「逃がすか! ちくしょう、速い! そこをどけ岩本殿! ジャズのように通せんぼかよ!」

「いかせないよ、火雷殿。」

「……お前もあの小娘も殺したくねえ…お前らだけ、気絶コースだ。」

 狂矢はそう言うと右拳に力を込めた。括正は呆れていた。

(…学習能力がないのか、火雷殿。そこから殴ろうとしてもリーチが届かない。似た容量でカウンターをしてしまいだ。)

「音極念拳!」

 狂矢の拳が波動を帯びて解き放たれた。括正は驚いている。

(右腕が伸びた⁉︎ まずい直撃…)

「グハァ!」

(ぶっ飛ばされた! ……ただおかしいぞ。体が軽いし、痛くない! んん周りの風景背景が変わってる?)

「おっと。」

 括正は白い地面に着地をすると、驚愕する。

「どこだ、ここは? 東武国じゃない。でっかい楽器や音符が空や底なしの谷を覆っている…僕が乗ってるのも巨大な太鼓か? どこが上でどこが下かも、怪しい。ん? 太鼓の反対側の位置から歪みが…」

「呼ばれてねえが、トォイスって登場。」

 狂矢はそう言いながら登場した。

「チッ、やっぱお前はここに死なねえか。タフガイ。」

「火雷殿、ここは一体どこなんだい?」

「ここは音極念界! 俺が支配する七色世界!」

 狂矢はそう言いながら、円の地面を足で叩いた。

「ドラムでドーン!」

「うわああ!」

 括正は帽子を支えながら上へと吹っ飛んだ。狂は巧みに手を交互に動かした。

「弦鞭!」

(六つの弦が…僕に向かって。)

「ガッ、いてっ! グッ! とっ! オエッ!」

「……致命傷を避けるのは上手いな。」

 狂矢は分析しながら手を動かした。

「どこに落ちる! 緩やかに滑れよ、ピアノの滑り台!」

「おおおお、ドドドド。滑りながらも素敵な音色〜。」

「すべり終わったら放つぜ!」

 狂矢は刀を構えた。

「火雷震!」

 ボオオオオジジジジ!

 括正の額を焦りが襲う。

(デカイ! 近距離攻撃じゃねえじゃん! 絶対死ぬ! かわせ、かわせ、かわせ!)

「おらああ!」

「…自身に念術をかけて空を上へ平泳ぎとはなかなかファンキー! だが一撃必殺を回避したお前を黒いがお出迎え!」

「なっ、無数のデカイ音符が…」

「足にも見えるよな⁉︎ 蹴られ続けろ!」

 ドン! レン! ミン!

「いてっ! 痛い! お! ファ! そー! 痛え!」

 括正はしばらく蹴り上げられたが、ドラムの上に再び落ちてきた。

「……なかなか気絶しねえな。ムカムカチューニング。」

「火雷殿、頼む。話し合おうぜ。」

「岩本殿……お前はわかってねえ。あいつらが生きてるだけで無数の命が危険に晒される。奴らが自分で招いた種。招いた運命。」

「わかる。わかるけどもし彼らの心が救われるチャンスがあったら? 許されるチャンスや愛されるチャンスがたあったら? この世じゃ無理でもあの世で幸せを掴めるかもよ?」

 括正が説得すると、狂矢は呆れてため息をした。

「お前は天国や桃源郷、極楽浄土、あの世の楽園を信じる口か? 俺は死んだら無になるって思ってんだ。だったら今俺に殺されても、後で処刑されても変わりはない!」

 狂矢は天高く拳を掲げた。

「辺ー巣矢乱火!」

 ヒュー! っとミサイルが高く飛ばされた。

「ん? まずい! ミサイルが増えて、降ってくる!」

「ご名答だ、岩本殿。もうじき無数のミサイルが降ってくる。お前レベルなら死にはしねえが、おねんねするだろう。」

「あんたの近くは安全圏?」

「きてみろよ! 俺の体術も剣術もここだと倍の威力じゃあ! スピードも全部音速だ!」

「上等だ! 念術、服脱ぎ!」

 括正の服も帽子も姿を消した。狂矢は驚愕した。

「キャキャ、ナイスな筋肉。ってかお前人間じゃないんかい。」

「フォーンだよ。見下すかい?」

「見かけだけで人を見下すなんざ知能レベル、実質最下位やないかい!」

「そうかありがとう!」

 そう言うとしばらく殴り合い、刀と棒の打ち合い、蹴り合い、念術の出し合いが続いた。音極念界を無数のミサイルが降る。

「ちくしょう! ここじゃお前の力は下がるんだが、すげえ痛えなぁ!」

「あんたも最初戦った時のキレじゃねえ。ハァ…ハァ…もう僕も限界だ。決着をつける。」

 括正は初めて刀を抜いて。狂矢の体を寒気が走る。

(右手で刀を持って左腰近くに横斬りに身構えた状態で、空いた左手はパーにして俺の方を向いてる? 独特の構えだ。)

「へっ、俺を殺すか? じゃあ俺も殺すつもりで向かい打つ! 火雷…」

 プシュウウウ!

「なっ!」

(奴の左手から白い霧が! う、動けねえ!)

 そう言いながら、実は狂矢は少しずつ前に進んでいた。それには括正も多少驚いていた。

(普通は全く動けないはずんだけど……集中力とタイミングが大事なこの大技、失敗はできない!)

「速すぎる斬撃ご覧あれ。」

 括正は横にパッと細長い白い斬撃を解き放つ。

至霧羅しむらけん!」

「ぎゃ…」

 ミサイルの雨は止み、音極念界から狂矢は姿を消した。

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