五章 侍道化/東武の守護者 その4

「お前ら全員、実質最下位やないかい!」

 狂矢は港町―塔矢港のみんなに叫んでいた。手負いの者が何人か倒れている。

「俺が言いてえことは変わらん! 海賊は確実に来る! 武器のある者、武士の誇りがある者は残って俺と共に海賊と戦えー! 国のために命を捧げて劣悪な海賊から守り抜け!」

「やっ、やだー! ぼ、僕は家族と共に逃げるー! 死にたくないー!」

「なるほど〜。愛国心の低い奴め。ならば戦えなように怪我させたる!」

 グイーン! ドカッ!」

「グアッ!」

 狂矢の左の拳が直撃に一人に直撃した。

「女子供、武器のない商人農民はとにかく逃げろー! だがその他の男は言い訳するな! 俺についてこい! Get the Beat?ゲット・ザ・ビート

「闘争心みなぎってるね〜! 同じ島のハードボイルドな兄弟!」

 突然声が港町に漂う。狂矢はもちろん辺りを見渡した。

「どこだ、出てこい!」

「一応見えるとこにはいるぜ! ハイなところからハイハローさせてももらってるぜ!」

「ハイ? …そこかっ!」

 狂矢は勘づくと海の反対にある木々が漂う、小さな崖を見つめた。その人物はにやけていた。

「お見つけおめでとさん! 崖の上からこんにちはー!」

(黒い細袴にシャツインの深紫の着物に独特の武器…同じく深紫のリボンが巻かれた黒い帽子を被ってらあ…。)

「なにもんだ、てめえー⁉︎ 崖の下からこんにちはー!」

 狂矢は観察しつつ応答すると、その者の次の行動に多くが驚いた。

「おい! あいつ足は平行で真っ直ぐだが両手を広げて空飛んでるぞ!」

「いんやこっちに向かってる。ゆっくり舞い降りてるんだ!」

 やがて括正は狂矢の目の前で着地した。二人はちょうど十字路で向かい合う光景だ。

「うん、挨拶はやっぱり大事だね。」

「当たり前だ。社会人の常識。」

 狂矢は反応すると、括正は人差し指を空に向けて、手首を振りながら話し出す。

「君と同じ東武の防人だよ。海賊を向かいうちに来た。」

「心強い! こいつらに見習わせてえ!」

 狂矢は鉄の手で括正を指さした。

「俺は最近じゃ海外では蛇剣として名が通ってたんだ。お前は強そうだが異名はあるか?」

「……侍道化。」

「侍道化? ……嘘つけい!」

 狂矢は叫ぶと強く踏み込み地面に小さなヒビが割れた。括正以外の者は皆ざわめいた。

「侍道化は美の区に仕えていた、戦場でも処刑場でも血も涙もねえ無慈悲な執行人だ。お前みたいなハッピーゴーラッキー野郎みたいな明るさはねえ! …この際、本名を言おうや。」

「……あんたとは何度かお会いしたぜ、火雷 狂矢殿。…岩本 括正だよ。」

「岩本 括正? ……嘘つけい!」

 狂矢はまたもや強く踏み込み地面に小さなヒビが割れた。括正以外の者は皆ざわめいた。

「岩本 括正というガキは知っている! あまりにもお花畑な理想を姫君の一人に語ってたのがムカついたから城の壁に何度も叩きつけたやったわ! それからしばらく経って…」

 狂矢は左手で右の裾をめくった。

「俺は奴に右腕を奪われた。そんな関係の俺らが向かい合えるはずねえだろ! それに感じるぞ。お前は岩本 括正にしては強すぎる!」

「そんなあんたもさらに強くなってないかい? あんた褒め上手だね〜。」

 括正はそう言って少し考えると、ピカッと言葉を閃いた。

「だけど僕が火雷殿の右腕を攻撃したのは、あんたが僕の友達の武天君を仕留めようとしたからだ。」

「ポカーン! ……そうか、侍道化の正体は…お前だったんだな、岩本 括正。その…おでこの後遺症はあるのか?」

 狂矢の質問に括正は少しんん〜っと考えてから笑顔で答える。

「特にないかな。大丈夫だよ。」

「そうか。…その…すまなかった。」

「いいってことよ。ムカつくことは誰にでもあるさ。」

 括正はそう言うと、手を合わせた。

「僕こそ、あんたの右腕を奪ったこと、ごめ…」

「お前は謝んじゃねえ!」

 狂矢は括正の謝罪を割り込んだ。

「お前は仲間を守ったんだ! 守りたいもんがあるなら戦って敵を傷つけて、時には殺すことも仕方のないことだ! それに…」

 狂矢はまたもや右腕を見せびらかした。

「この痛みと悔しさ、傷が俺を強くしたんだよ。だからこれに関して謝られたら俺の気持ちの落ち込み度合い、実質…最下位やないかい。」

「……そうか。ところで…」

 括正は辺りを見渡して、腕を曲げたまま両手を広げた。

「あんた、守るべき方々を手負いにしてなんのつもりだ?」

「全員じゃねえ。武器持ちオンリー。戦える癖に逃げようとしてる奴がいるからな。手負いにしたら戦わない言い訳ができるだろっ?」

「ガッ!」

 狂矢は倒れている武士を一人踏みつけた。

「残って戦う奴もいるんだし、怖がってる奴は普通に逃がせばいいんじゃない? 武器を持っている者が全員強いわけないだろ?」

「聞くが、お前はどうやって強くなった?」

 狂矢は素直に質問をした。すると括正は指で数えながら応答する。

「んん〜。腕立て、上体起こし、背筋、素振り、重量持ち…」

「ごめん、俺の質問の仕方が間違ってたわ。頼むからストップ・ザ・ビート。……戦場は修羅場だ。修羅場は人を強くする。成長させる。この国は強くならなきゃいけないんだ。」

「皆が僕やあんたみたいに戦場を乗り越えられる保障はないじゃん。避けれる戦いは避けたくなるよ。」

「そーだ、そーだ!」

「侍道化の言う通り!」

「逃したい奴は逃がしてやれよ!」

「暴君野郎!」

 その場にいた者たちが括正に加勢する。狂矢は怒りで顔を赤くした。

「お前ら、口だけは戦士だなー!」

『ひーっ‼︎』

「てめえら、切り刻んで、体が浮いてる…降ろせ岩本殿。」

 自分を念力で持ち上げてる括正に狂矢は文句を言った。

「降ろすよ〜、あっちで…」

 括正は空いている左手の人差し指で自身から見て左の方に腕を真っ直ぐにして指した。

「ねっ!」

 括正は勢いよく右手を自身の左側に動かす。

「がぁー!」

 狂矢は自身から見て右へと勢いよく念で押された。

(あっという間に町の外だ! やはりすげえ念だ!)

 ズズズ!

(なんとか着地したぜ原っぱ…接近、速い!)

「火雷震!」

「黒凪!」

 カッキーン!

 刀と棒がぶつかる。

 ズズズズ!

(クソッ! あいつかっこつけて黒凪って名乗っていたが間違いなく通常攻撃! にも関わらず、一発で俺の両足が攻撃の衝撃で後ろに引きづられる! また町から遠のいた!)

(今のは熱と痺れが同時に逆十字刀を通して伝わった。二属性の斬撃って火雷殿すげえな。またぶっ飛ばそうと思ったつもりが今回は地面から離れてくれない。)

 括正も括正で先程の状況を分析していると、狂矢は刀を鞘に納めた。括正は警告をする。

「あんたがあの町の方々を傷つけるんだったら、僕はあんたを攻撃して守るよ。」

「そう来るか。そうか……だったら弱い武士がいる最初の砦なんていらねえかもな!」

 狂矢はそう言うと右手をパーにして括正の方に向けた。

「お前ごと町を消す! 滅却!」

 ビューン!

「さんはいっ!」

 ドボボ!

(なんて奴だ! 俺の手からビームをあの黒い十字架を逆さにしてこっちに向けてる状態で盾のように受け止めた!)

 自慢の技を括正が左手で柄を持ち右手でまっすぐな鞘の部分を押してることによって受け止めてることに驚いていた。

(十字架の周りは紫のオーラが溢れ出している? 俺のエネルギーが左右上下に流れて無になっているってことか! ありえねえ! 俺のビームはそんじょそこらの魔術師の魔力防御壁マギボルグもあっさり破壊して、巨人にも通じる威力だぞ⁉︎)

 ズカ! ズカ! ズカ! ズカ!

(う、受け止めながら少しずつ接近してやがる! だが…)

「幸い俺にはリーチの長い左腕がある!」

 ジャキっと今度は左手で狂矢は刀を抜いた。

「ビームに集中したお前は、刀を持った俺の左腕に対処できねえ!」

 狂矢はそう言いながらグーンっと腕を引き伸ばして、刀を近づけささせた。

「…ほれよっと。」

 ガシッ!

(俺の手首を掴んだ! なんちゅう反射神経! しかも片手でもビーム余裕かよ!)

「おっと、危ない、危ない〜。」

 括正はそう言うと、掴んだ手首に力を込めた。

「ふん!」

「ぎゃああ!」

 狂矢は悲鳴をあげる。

(このガキャ、なんちゅう握力だ…)

 ズトン! 狂矢の刀は地に落ち、痛みでビームも止んだ。

「あらららら〜。火雷殿〜、刀おっこちまったよーん。武士の魂でもある刀を落とすなんて、はっずかしい〜!」

 括正は煽りながら狂矢の手首を離すと、狂矢は左腕の通常の長さに戻した。だが武士の魂を失っても、戦意を失う狂矢ではない。程よい距離にいる二人。狂矢は手をポキポキさせた。

「もちろん俺は抵抗するで。」

「ナイスファイトだぜ、火雷殿〜。どう抵抗するん?」

「拳で!」

 狂矢は右ストレートを繰り出した。括正はうまく左手で受け流し、

「トイヤッ!」

 一本背負投げを繰り出した。

「ダッ! 背中が!」

 狂矢はそう言いつつ、さっとあっさり起き上がる。対して括正は距離を置いた。

「逃がせねえ! 唸れ、伸びろ左腕!」

 またもや左腕がグイーンっと伸びる。

 ガシッ!

「おっと、服が捕まっちまった…こっちにおいで!」

「ゴウ!」

 括正は紐を引っ張るように狂矢の腕を引っ張った。

(引き寄せるつもりが、逆に引き寄せられる! だが問題ねえ! 鉄拳を顔面に喰らわせてお昼寝だ!)

「つああ!」

 ヒュッと括正は狂矢の拳をかわした。

「あらよっと!」

 括正は今度は袖釣込腰で狂矢を投げ飛ばした。

「ぎゃああ、あらよっとなんとか着地!」

 距離の離れた狂矢は右手から連続でエネルギー弾を繰り出した。

「ダー!」

 ピュン!

「はいっ!」

 狂矢が放った連続の攻撃を括正は尽かさず左右順番の手で横に弾いた。括正の接近の立ち回りで再び近距離になる。

「「っ!」」

 二人はほぼ同時に右手の手のひらから念押しをした。手は直接合わせてないが右手同士は向かい合っており、その間にが念力の衝突があった。しばらく二人はその場を動かず力んでたが、やがて結果が伴う。

 ズズズズズズズズズズズ!

 括正は後ろに両足を引きづらせた。

 一方狂矢はドワっと言いながら後ろにぶっ飛んだ。

ほぼ同時である。

「だが俺は着地はグルービー!」

 狂矢は見事に着地してこれ以上の後退りを止めるために右手で地面を引っ掻いた。五本の線が跡として残る。続いて狂矢は右手をグーにして括正に向けた。

「ミサイルって知ってるか⁉︎」

 狂矢は問うと一の腕部分からソレが現れる。

辺ー巣矢乱火ベースやらんか!」

 ヒューっとミサイルが括正に向かって解き放たれる。

「ハッハッハッ、どうだ岩本殿! これは触れたらドカーン! しかも追尾型! お前をっ決して逃がさ…」

「刺ー火巣!」

 ちょうど二人の間でミサイルは爆発した。

(十字架の先っぽから突きを解き放った火の遠距離攻撃を⁉︎ やるな…来るっ!)

「つあっ!」

 急接近した括正を狂矢は殴ろうとした。括正は陽気な声を出す。

「ハハー!」

 ガッ!

 狂矢の右拳を括正の左手が受け止めた。

「僕もパンチするよ〜。」

 ドドドドドドドド! 

 括正の右拳が連続で狂矢に炸裂する。

「ガガガガガガガガガガ!」

(こ、こいつ…前に戦ったカイという魚人と同じくらい痛いパンチ力だ!)

「アチョオウッ!」

 括正の蹴りが狂矢の溝近くに炸裂する。狂矢は両足が後ろに引きづられた。

「ブヘエエエ!」

(蹴りが重い! 不思議と奴の蹴りは馬に蹴られる感覚と似ている。)

「お前…人間か⁉︎」

 狂矢は質問をした。括正はしばらく黙ったが、答えを見つける。

「僕は侍! 今は東武の防人だ!」

「……そうか。冷静に考えたら仲間内で戦ってる場合じゃねえ。…お前は逃げたい奴に逃げさせて、戦いたい奴には戦わせる。それでいいんだな?」

「そうだね。」

「よかろう。横暴は辞めよう。」

 狂矢はそう言って自分の刀を念力で引き寄せて、鞘に納めた。

「この海岸は俺が守る。お前は蓮鳥港を守ってくれ。」

「なぜその港に?」

 括正は不思議がった。狂矢はすぐに答える。

「確かな情報で海賊達は何故だかわからないが二つの部隊に別れるらしい。蓮鳥港は俺がいない分、手薄だ。頼めるか?」

最智もちろんだ!」

「頼もしいじゃねーか! …武運を祈る。」

「あんたもな。……そういえば火雷殿。」

 括正は持ち場に向かおうとした狂矢を引き留めた。

「なんだ岩本殿?」

「こういう時に言うことじゃないかもだけど、また会えるかどうかわからないから……あんたの憧れた宮地 蛇光…」

「お前がトドメを刺したんだろ?」

 狂矢の割り込みに括正は黙り込んでしまった。

「蛇光様の使いの猫から聞いた。アレは特定の条件下ならその場で起きたことを遡って映し出す魔法が使えるんだ。それも観た。……大事な女をやられたら誰だってキレるわな。だが俺はお前みたいに弔い合戦に利を感じねえ。……お前から見たら蛇光様は非人道的で許せねえかも知れねえが、俺はそこを含めて未だにあの人を尊敬してる。みんな違って、みんないい。それでええやないかい。」

 狂矢はそう言うと背を向けた。

「お前は逃げねえよな?」

「もちろんさ〜。今の僕は兵士百人分の強さがあるからね〜。」

「なんだと人生後輩! だったら俺は二百人分だぁ!」

 狂矢は勢いよく振り向いた。括正は冷静だった。

「ああ、オッケー。二百人分の力期待してますぞ。」

「いやお前そこは乗ってこいよ。だったら僕は三百人分だー、って感じでよ〜、張り合ってくれよ。頼むで。」

「なんすか、あんた? いいじゃん、言い合い勝って。負けたかったん?」

「いやそうじゃないけど。勝ちたいけど。なんか違うのよ。なんかうーん、岩本殿は調子狂わせるな。」

 狂矢は頭を少し悩ませてから、キリッとした表情に戻った。

「岩本殿…海のクズを藻屑にしよう!」

「ああ、火雷殿。侍による最高の演目を魅せましょうぞ!」

 括正はそう言うと、蓮鳥港に向かって走り出した。

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