五章 侍道化/東武の守護者 その3

「はい!……はい!」

 蓮の区の森の中を幸灯は緩急自在の生地マジカルシルクを使いこなし、太い木の枝に巻きつけたてはぶら下がり、猿のように移動していた。ふと自分の手首に付いてるミサンガに付いてるだいだい色のストーンに話しかける。

「ふふ、どうですサンライト? 楽しいでしょ?」

「幸灯様、布帯が長すぎます。このままでは地面を歩く人に当たる確率が…」

「こんな道のない場所を歩く人がいるとは思えません…」

 ゴン!

「ぎゃああ!」

「キャッ!」

「……幸灯様言わんこっちゃない、っと言わせてもらいます。」

 サンライトがコメントをすると、頭を痛めた二人が距離を置いて座り込んでいた。

「痛いな〜。…あっ、大丈夫。ぶつかってごめんね。怪我はないかいお嬢さん? …って、幸灯?」

「痛たたた。こちらこそごめんなさい。って括正?」

 括正に差し出された手を掴んで起き上がると、腕を組んだ。

「えっ、括正って女の子に対してなら誰にでもああなんですか?」

「まあね。どんな子も優しくしたらワンチャンありえるって思っちゃう習性だし。」

「最低。」

「いやワンチャンありえるっての意味はしてないよ〜。」

 括正は慌ててそう言うと、色々考え出した。

(今のは新しい魔法? にしてもちょっとだけ身長伸びて色気上がったな。今の謎の声はその薄茶のミサンガの小石ともう片手の中指にはまってる手の甲が菱形模様のミサンガと同じ作りの指輪からもきた気が。)

 一方幸灯は幸灯で括正を観察していた。

(えっ、なんでこの人上半身だけ脱いでるの⁉︎ だけどすごい筋肉質になりましたね〜。背も伸びたな〜。私も伸びましたけど、括正さらに強そうに視えます〜。)

 幸灯は目をキラキラさせていたが、ふと我に帰る。

「括正こんなとこで何をしているんですか? 修行はもう終わったんですか?」

「ごめんね〜。もうちょっと修行の時間ちょうだい。もうちょっとで何か掴めそうなんだ。でも今は海賊からこの国を守るために蓮の区の海辺に向かってるんだ。その前に処理しなきゃいけない問題があるかもだけど。」

 括正の発言に幸灯はブルブル震えた。

「か、海賊が、くっ来るんですか⁉︎」

「うん。来るよ。君は隠れていなさい。」

「了解です!」

「清々しい程に、即答で返事がいいな。まあ怖いのは仕方ないけど。」

 括正が言うと、幸灯はあることに気づいた。

「あっ、括正。ターバンが…。」

「えっ、あっ、切れてる。」

 気がつかないうちにターバンから角が見えてた。幸灯はふと括正を元気づけるために笑顔を魅せた。

「私は括正の角はカッコよくて大好きですけど、括正は周りの目線を気にしますよね〜。そんな括正に私から素敵なプレゼントがありまーす。」

そう言うと幸灯はミサンガの石を口に近づけた。

「サンライト、プロジェクト:角隠しを基地から召喚して。」

「了解しました、幸灯様。」

 MIが返事をすると数秒後にプロジェクト:角隠しが幸灯の両手に現れた。

「黒いシルクハット? 赤いリボンが巻かれてる。」

「どうぞ〜。私が素材を集めてあなたのために作った特製品です。」

 幸灯はそのまま両手で差し出した。括正は素直に受け取る。

「被ってみてください、括正。」

「……穴空いちゃうよ。」

「いいから。」

 幸灯が強く勧めると、括正はターバンを取り、そぉ〜っと帽子を被った。

「角が…消えた? …感じないぞ。」

「すごいでしょ〜。それを被ってる間は角が物理的に消えちゃうんです。もちろん取ったら、何もなかったように現れますけどね。」

「……ありがとう幸灯。一生大事にするよ。」

「いえいえ。…そういえばその髭はどうしたんですか?」

 幸灯は指さした。

「ああ、これかい? いいだろう、ダンディでしょ〜? やっぱ僕もフォーンなんだかららしき髭をね…」

「剃って。」

 幸灯は口調を冷酷にして、命令した。当然括正は戸惑う。

「えっ?」

「アゴ髭は威圧的な威張りんぼさんみたいであまり好きじゃないです。だから剃ってください。」

「えーっ、勘弁してくれよ〜。トレードマークにしようと思ったのに…。」

 括正はそう言いながら軽く地面を蹴った。幸灯は全くブレなかった。

「剃ってください。」

「……やだよー。」

「剃ってください。」

「嫌なこったん。」

「剃ってください。」

「だからアイデンティティの削除を頼まないでって。」

「むぅっ!」

 幸灯は不機嫌にフグ顔になった。すると、深くため息をした。

「ハァ〜。括正はどうしても私の言うことを聞きたくないんですね。なら仕方ないです。」

「うんうん、仕方ない。仕方ない。」

「では力づくで剃ります!」

「うんうん。……えっ?」

「たぁー!」

 数秒後、幸灯は自分の緩急自在の生地マジカルシルクを逆に利用されて後ろで両腕を巻かれた状態で宙に浮いていた。いや括正が優しく片手から発する念力で浮かせていたのだ。やや困った顔をしながら幸灯に問う。

「あの…まずなんでこの時点で僕に勝てると思うたん? ジェンダーというあまり使いたくない理由もあるけど、僕は君と違って特別な力を与えられた前から戦士だったのよ。そのうえで今も修行してる。君も確かに強くなったけど、ちょっと浅はかすぎるよ。」

「うう…。」

「それにちょっとさっきの幸灯感じ悪かったよ。そういうの他の人に出しちゃったらまずいんじゃない?」

「……ごめんなさい。」

 幸灯は素直に頭を下げた。そうすると括正がニッコリスマイルに戻って念縛を解いてゆっくり幸灯を地面に下ろした。

「……僕も嫌な断り方をわざとしてごめんね〜。はい、オッケー。幸灯がちゃんとごめんなさいを言えたことに敬意を称して、今回だけ。…特別に剃ってあげる。髭剃り貸して」

「……どうぞ。ありがとうございます。」

括正は言葉通り髭をキレイさっぱり剃ると目的地に向かって歩き出した。

「まさか上に何も着ないまま、出陣するんですか⁉︎」

 その問いに括正はチラッと振り返り、道化の笑みを浮かべる。

「まぁさか〜。戦いには勝負服を着て全てを振り回す道化になるのさ。」

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