五章 侍道化/東武の守護者 その2
バン! カッ! バン! ドン! ゴン!
狭間の森で全身黒和装でアゴ髭を生やした岩本 括正は両手でと桃色の着物の桃源 英太郎は片手で真剣で撃ち合ってた。
「ダメ! あかん! オッケー! あかん! いいぞ! ワンダフル! 微妙! うん! あかん! グレート! もう一押し! だめ! いいね!」
括正と刀をぶつける度に桃源がコメントをする。
「ここだ!」
かーん!
桃源先生の弟子となって初めて、括正は桃源の刀を手元から弾くことに成功した。
「やったー! 僕の勝ちですね〜、先生。」
「フッフッフッ、フォッフォッフォッ。」
「ななな、なんですか⁉︎ その大物感と余裕を見事にケミカルミックスした独特の笑い方は⁉︎ 謎が謎を呼ぶ桃源先生はまるで大海原!」
「あの、普通にえっ、だけでいいんだけど。ってか君も聞き慣れてる笑い方だよ? サービス精神旺盛だな〜。」
桃源先生は頭を掻いた。
パリリリン!
括正の刀がゴナゴナニ割れた。
「なんてこったい、アンビリーバボル!」
「…これが本場の殺し合いなら、拙者が刀を拾えば拙者が勝ちだね。」
桃源はそう言いながら刀を拾って、鞘に納めた。
「出会った時から格段に力を上げたね、括正ちゃん。ただ細かい相手の動作に注意することだ。」
「りょ、了解です。」
括正はそう言うと、自身の刀の成れの果てを見つめていた。
「……ごめん、思い入れあった奴だった?」
「いえいえ、嫌なこと思い出すんで、むしろせいせいですよ。」
「そうか…スペアある? なきゃ貸すけど。」
「……実は父上の知り合いに、腕利きの鍛治職人がいるらしく、幸灯と出会った後に父上を通してオーダメイドの武器を父を通して注文したんですけど、なかなか届かなくて。」
「そうか〜。」
桃源は腕を組んだ。
「だけでここに来れる方法を知っている人なんて少ないし一度東武国に戻って連絡したら…」
「括正〜! いるの〜⁉︎」
「あれ? 拙者ら二人しかいない森なのに、おかしいな。上品な美声が聞こえるよ。……括正ちゃんは括正ちゃんでなんで震えてるん? そしてすんごい嫌そうな顔! そんな拒絶的な顔ある?」
桃源は感想を述べると、括正は恐る恐る後ろを向く。微かにその人物が見えてきた。
「やっぱり…出やがったな、クソ石頭ババア。」
「ワオー、びっくり仰天。温厚な括正ちゃんとは思えない発言。」
桃源は両手をあげてリアクションすると、質問をする。
「えーと、あの荷物抱えてるバイオレット色の着物の見た感じ中年の女性は括正ちゃんの知り合い?」
「……母上です。」
「母上⁉︎ クソ石頭ババアってネーミングはちょっとないんじゃない? いや、拙者も育ての婆さんと爺さんに反抗期だった時期あったけど…」
(アレ? 拙者もその頃結構酷いことあの人達に言ってたかも…)
「なんでもない。自分らしく生きよう。」
「あの、母上の命令には極力はいっ答えて、逆らうんだったら裏でバレないように逆らってください。」
「なんか大変だね。」
「あっ、括正。やっぱりいましたね〜。」
括正の母上は急いで駆けつけて、括正にドロップキックを繰り出した。
「ブベイ!」
「誰がクソ石頭ババアよ! 聞こえてたわよ、あんた!」
「本当のことなんだから、文句言うなよ!」
括正はそう言いながら起き上がった。
「何しにきた⁉︎ ってかなんでここに来れた⁉︎」
「えっ? なんとなく歌ってたら着けた。フィーリングよ、フィーリング。」
((お、恐ろしい〜‼︎))
括正と桃源が内心で驚いた。ふと我に返った桃源は挨拶を試みる。
「初めまして、括正ちゃんのお母様ですね。拙者は桃源 英太郎と申します。この度は括正ちゃんに剣と念を叩き込んでおります〜。」
「あら〜。桃太郎のモデルの人〜。初めまして〜。括正の母の岩本 節代と言います。よく生きてましたね〜。ここに籠るより、もっと世界のために尽くすとか出来なかったんですか〜? 私の夫すごくかっこいいんですよ〜。」
(えっ、何〜この小娘? 括正ちゃんの母君とはとても思えない。礼儀正しいけど、無意識に煽ってない? 正論だから余計腹立つ〜。敵を作りやすい天然なのかな? 普通会ったばっかの人に旦那の自慢とかする? しないよね?)
桃源は心の中で葛藤すると、回れ右をして家に向かった。
「お茶淹れてきますね。」
そう言って桃源はその場を去った。括正はその哀愁漂う背中で心の中で謝罪をする。
(ごめんなさい桃源先生。内の母上はデリカシーのかけらがないに近いんですよ。)
「で、何しにきたん母上?」
「何って、あんたの新しい武器と色々を届けにきたのよ。」
「へぇ〜。あんたわざわざ東武国に戻って、」
「えっ、私外国から直で来たわよ。」
「確かにどこからでもやり方わかってれば来れるけど! 末恐ろしいわ! …でもありがとう母上。」
「それにしてもあんたは私や伸君と同じ界牧者か聖騎士団のメンバーか外交官になるって思ってたけど…まさか、素性もあったもんじゃない小娘の大き過ぎる夢を手伝うなんて…くだらない。」
「ゆ、幸灯は僕の命の恩人で優しくていい子なんだ! 馬鹿にすんな、クソババア!」
ガシッ!
節代は括正の胸ぐらを掴んだ。
「敬わなければいけない母上にすんなとクソババアとは何事おおお⁉︎」
「ぎゃああああ! ごめんなさい! 母上〜!」
括正はすっかり戦意を失ったのを確認すると、節代は優しく放した。
「はぁ〜。昔はあんなに可愛かったのに、どうしてこうなってしまったのかしら?」
「…ある時期を境に僕のハグ嫌がってきたじゃん!」
「男の子がいつまで経っても母親にハグなんてみっともないのよ!」
「男女差別だ、この二の腕プニプニおばたん! 僕は純粋にハグが好きなんだよ! 父上は僕のハグ嫌がらないもん!」
「父上は甘くて子育てに関して放任しがちなの!」
「あっ、うん。そだね。否定できない。どちらかと言うと母上の方が時間作ってくれて、色々やってくれたね。ありがとう。」
「素直でよろしい。」
節代は細長いケースを開けて、それを括正に差し出した。
「これ、仕込み刀なのはわかるけど、括正ちゃんとこれ説明してくれない?」
節代がお願いすると括正は鞘がハマったまま柄を持って、鞘側が上を向くように掲げた。
「究極の愛の形の象徴として語られている十字架をモチーフにした武器だから、鍔が十字架の腕の部分みたいに細長いんだ。本来刀の鞘は刀身と合わせて曲がってるもんだけど、これは真っ直ぐでその代わり普通の鞘より重くて太い。だから刀を抜かなくても敵の刃と張り合える。仕込み刀としては超自我を意識したら抜ける仕様だね。だけど自分が究極の愛の象徴としてある十字架をそのままモチーフにするなんて恐れ多い。そこで…」
括正は鞘の上と下に書かれている異なる二つの漢字一文字に着目した。
「刀みたいにぶら下げると逆さになって見えないけど、こうして逆にすることで上は天、下は地って読める。この十字架は逆さ十字架ってわけさ。……母上は僕より長生きで聡明だろ? 僕よりも知っているはずさ。この世界にはどうしようもない悪や闇が多すぎる。もちろん僕自身の中にもね。この武器を奮いながら、この世界の真の姿を視ることによって本来の美しさが戻る。そういう願いを込めて作ってもらった僕の新しい武器―
「そう…心はぶれてなくて安心した。」
節代はそう言うと違う荷物を差し出した。
「私と父上でオーダーメイドした和魂洋才の新しい服よ。下はまあまあスキニーな黒い袴に黒いミニエプロンが前後ろについた仕様で上の着物は情熱と優しさ両方を併せ持って欲しいという願いを込めて深紫にしたわ。」
「かっこいいな〜。僕好み、ありがとう。」
括正は目をキラキラさせながら感心していた。
「さて、私行くね。」
「もう行くの〜?」
「また会えるから。私も父上も忙しいの。…後アゴ髭絶対剃った方がいいわよ。」
「断る。この髭のかっこよさに母上気づかんの〜?」
「……剃った方が絶対いいと思う。」
そう言うと二人は別れを告げ、節代はその場を去った。
「……相変わらず嵐のようなババアだな。」
「……あれ行ったの?」
急いで戻ってきた桃源が括正に質問する。
「ああ、先生。はい。用事があったようで。」
「そうか。…君も大変だね。」
「まあ養子とは言え、僕を息子にしてくれた母ですから。」
「ほほえまサンクス。……武器ももらったんだね。」
「ええ。服も。」
「ちょうどよかった、実は…」
桃源 英太郎は深く息を吸った。
「すぐに東武国に戻った方がいい。実戦の修行だ。海賊が再び…やってくる!」
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