五章 侍道化/東武の守護者 その1
蛇京が幕府によって解体され、良好な大名に委託されて数ヶ月が経った、パイオニア大陸のある国でのある市での出来事だ。この市で最も大きい家は豪邸だがそれができたのは最近だ。プールも道場もバンドのライブ会場もある。だが住んでいる人はたった一人。ソファーに座っているその男は左腕は緑色で右腕は紫色の金属製アームになっていた。白い野袴をと黄色い着物を着こなしていた。
「改めて振り返ると保安官長と市長を同時に任されるとわな〜。これじゃあ三権分立じゃなくてニ権分立やないかい! 立法の立場が実質最下位やないかい! とはいえ、この火雷 狂矢様の価値をちゃんとわかってくれてるじゃねえか、この市は。大臣や王も夢じゃねえかもな。」
そう言うと、狂矢は手を伸ばして、念力を込めた。梅酒の入った瓶と注ぐグラスがやってくる。
「今日も疲れたが、明日からしばらく休みだー。飲もうぜ、オールナイト! キャキャキャキャキャキャ。」
「君って本当に笑い方が個性的だねん。とってもビバ。」
広いソファーの隣に座った加々美 美空は違うグラスに梅酒を注ぎながらコメントした。狂矢は可愛らしくキョトンとする。
「えっ? あっ。そうか〜?」
「うんうん。見せ物になるくらいのレベルだよ。ビバビバ、ビビビビビー!」
美空は笑うと、狂矢顎に手を添えた。
「うーん、お前も大概だな。」
「まあ二人とも笑い方なら、大会優勝レベルってところじゃね?」
同じくソファーに座っているライガーが指摘した。
「ホウホウホウホウ、ボンボンボンボン! 特徴的な笑い方は素敵なコンプレックスの証。お主らが個性的で羨ましくて死にたい。」
「…お前も五十歩百歩だよ。その笑い方で死にたいって自己肯定感この面子で実質最下位やないかい。自信持て。自分のビートを信じろ。」
狂矢は優しくライガーの肩を叩いた。美空は話を続ける。
「君たちがお笑いコンテスト出たら、優勝間違いなしだね。」
「お笑いコンテストって大概そういう意味じゃねえから。ってかお前も同類枠だぞ。」
「僕ちゃん綺麗過ぎて、下品なネタもあるお笑いには向かないよ。」
「いや意味わかっとるやないかい! わかりずらいボケだな〜。ってかさりげなく俺ら二人を差し置いての棚上げマウンティングやめい!」
狂矢はツッコミを入れた。
「おいおい、鉄拳グリーンピース。」
ライガーは文句を言いたく、狂矢に話しかける。
「ダサいあだ名は置いといて、なんや?」
「五十歩百歩とはどういうことだ、ファンキー。俺の剣の道はそんな少なくあらず! 俺の剣愛が伝わらんくて死にたい〜。もーん!」
「……辞書見とき。それと俺はファンキーというよりハードボイルド寄りの侍だ。いやあ……わかるぞ。お前めっちゃ強いやん。」
「あんがちょーん!」
「ビビビ、君ー。言語おかしくてノービバ。正しくはビバサンクスだよ。」
「それもおかしいからな、俺の祖国の人。正しくはありがとうなっ。まともな語彙力の奴いねえのかこの面子。俺ここだと異常性実質最下位かもやないかい。」
狂矢はそう言いながら頭を掻いた。そんな時ライガーが唐突に話を変えた。
「この前死にそうだったんだ。」
「…聞いてやるぜボサボサファンキー。お前の唄を聞かせてくれ。」
狂矢が許可するとライガーは語り始めた。
「この前、火山地帯をチャリでソロツーリングをしようとしていたんだ。」
「火傷じゃ済まないエリアで危険な挑戦するなよー。ってかツーリングをソロでする場所でもねーわ。ツアーガイド付きのツアーあったはずだから今度行く時調べとけ!」
「俺は自由を好むから集団行動には屁を出すんだ。」
プッ!
「うわあああお! 今出すなんてノービバ! 僕ちゃんかわいそう〜!」
「賛成だが、一番可哀想なの家の主である俺な。後トラ耳ちゃんも屁を出すじゃなくて反吐が出るの方が正しいから。まあ濃密な計画と効率的なルートを考えつつ、途中のトラブルを臨機応変に対応しつつ楽しませてくれるツアーガイドさんのツアーを反吐が出るってのもだいぶ失礼だけどな。にしても臭えなあ! 待ってろ…」
狂矢はそう言うと右腕を高く掲げた。
プシュウウウ!
白い霧が発生する。美空は目を輝かせた。
「ワオー! ビバビジュアル! 君の鉄の右手消臭力機能もついてんだ!」
「ありがとう。で話戻すが、結局お前なんで死にそうだったんだ。」
「肝心のチャリを忘れた。」
「……それによって怪我しなくてよかったな。」
「だから物理的に場所を跨いで、荷物置いてた宿屋に戻ったんだ。そして気づいてしまった。……そもそも俺チャリねーじゃん! もう自分がチャリがない事実に絶望して死にそうだったよーん!」
「……そうか。まあ残念だったな。」
狂矢はまた優しくライガーの肩を触った。突然美空は両手をあげる。
「はいはい、はーいはーい。僕ちゃんも数ヶ月前に死にかけたよーん! 僕ちゃんの悲劇的な思い出話、始まるよーん!」
「「どうぞ。」」
二人が許可すると美空は話を続ける。
「僕ちゃん海の上でぷかぷか浮いてたんだ。」
「……いや、そこまでの経緯話せや! 何お前も海賊の高み目指してるクチ?」
「野蛮で強奪しか脳のない海賊目指すとかノービバ。それに僕ちゃん船なしで体が浮いてたからね。」
「ますます意味わかんねーよ! なんでそうなった⁉︎」
「ホウホウ、狂矢君。そんなこともわからんのかね?」
「あぁ⁉︎」
狂矢はライガーのいる方に振り向いた。ライガーは不敵な笑みで答える。
「この御仁は遠泳を永遠に楽しむチャレンジをしてたんだ。ライバルは自分。見事なものだ。」
「え? 全然違うよ。僕ちゃん全然泳げないし。敵にぶっ飛ばされて動けなくてぷかぷかだよ。」
「キャキャ、大外れじゃねーか! ざまーねーぜ!」
「……死にたい。」
ライガーをディスると狂矢は美空の方に集中した。
「つまり、敵にぶっ飛ばされ死にかけたと?」
「いやいや、これからさ。体力を奪われた状態で海の上。回復も出来ずに助走もないから飛べない。そんな時にビバな人魚が現れた。べっぴんさんだったね」
「ホウホウ、なんやそれー。むしろ生きてるじゃーん! ホウホウホウホウホウホウ! ボンボンボンボンボンボンボンボン!」
ライガーは興奮し始めた。逆に狂矢はふて腐れた表情をする。
「人魚か〜、ケッ! 俺は海の者には何度か接触があるが、いい思い出がねえな。でどうなった?」
「僕ちゃん思い切ってプロポーズしたらぶん殴られてぶっ飛ばされたよ。…すごい力だった。万全の僕ちゃんでも勝てるかどうか…。」
「……海の者はポセイドンの加護を受けてるって言われてるからな。ましてやその海神の血を引いている者はバケモンだ。特にデボレって奴は嵐を巻き起こし、海や水を巨大な刃のように扱う人物と聞く。噂ではゼウスなどの最高位の神々と大昔戦って封印したとか。」
「海の剣豪たちと俺はいつか剣を交えたいの〜! 考えただけでブリブリするぜ!」
「ワクワクな。でお前はお前でぶん殴られて死にかけたと?」
「え? まだ生きてるよ。これからさ。」
「マジかよビューティボーイ。」
狂矢は頭を抱えた。
「で?」
「その後奇跡的に大陸流れ着いて、お金ナッシングだったで子どもを恐喝したらその国の警備隊に見つかって、その国で指名手配犯になっちゃったー!」
「自業自得やないかい! そりゃ死にかけたな! ってか今までのくだりいらねーだろ!」
「まだ死にかけてないよー! 僕ちゃんの指名手配の似顔絵がブサイクなんだ。原因はおそらく鼻の位置! もう絶望で死にかけたよーん! 僕ちゃんかわいそが過ぎる!」
「ますますくだりいらねーじゃん。壮大と思わせてショボかったな。」
「だ、か、ら〜。」
美空は笑顔で手を合わせた。
「納得いかなくて、腹いせにここに不法侵入して泥棒と思ったんだー。」
「ふーん。」
「あっ、俺もそう。自分がチャリ持ってない八つ当たりでここに不法侵入して泥棒しようと思った。」
「ええ⁉︎ そうなんだ〜。てっきり君もこの侍の友達と思ったけど、同類か〜。」
「ふーん。なるほどな〜。」
狂矢は二人に反応すると、しばらくの沈黙がその部屋を流れた。咄嗟に狂矢がソファーから立ち上がり振り返り、尻餅をした。
「うん、やっぱりそうだよね⁉︎ いやなんか一人で梅酒飲もうとしたら、ナチュラルにお前ら会話始めるから、話し合わせてたけど、やっぱ泥棒かよ! ちなみに俺たち…」
「友達でも知り合いでもねーな〜。」
ライガーは素直に答える。
「怖ー! シンプルに怖ー! じゃあ俺今まで友達でもねえ奴らと駄弁ってたってことやん!」
「まあ落ち着け狂矢君。お主の心を乱すものはなんだ? 言ってみ。相談乗るよ〜。」
「落ちていてられるか! ってか原因お前らー! ってかなんで俺の名前知ってんの⁉︎」
「見逃してよー、今回初めてで盗んでないいうたやーん? それはこの家の屋根の上にでっかい金の彫刻がそう書かれてたから…。」
「見逃さねーよ、不法侵入してるからな! あっ、それは不用心な俺が悪いわ。」
狂矢はテヘペロのポーズをすると、美空はグラスを掲げた。
「そんなことより飲もうよ〜。」
「飲めるか、ドアホ! 保安官呼ぶわ! あっ、俺だ!」
「えー、僕ちゃんは結局右も左も大迷宮だから何も盗めなかったのに。」
「上手いこと言ってんじゃねーよ、このー。」
ピイイ。右手にエネルギーが溜められる。ライガーと美空はシュッと姿を消した。
「逃がすかあ!」
狂矢も即座に庭の外に出て斜め上の空に向かって右手をパーにした。
「滅却!」
ビューン!
((び、ビームやないかい!))
大ジャンプした二人は予想外の攻撃に驚いていた。
(まず、当た…)
「ビバアアアアア!」
美空は痛みのあまり悲鳴をあげた。そのままシューっと地面に墜落した。
「チッ、一人逃した。まあ逃した奴が戦闘態勢になったら俺が勝てるか怪しかったかもだから、まあよしとしよう。……どうした株霧?」
後ろに突然現れた忍者が狂矢に耳打ちする。
「……何っ! ……すぐに我が故郷に帰還しよう!」
狂矢はそう言うと家に戻り荷造りを始めた。
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