四章 獅子騙し/怒れた吸血鬼 その13 完

 舞台は夜の幸灯の隠し倉庫の一つに変わる。ランスロットを括正をかつて手当てした医者の家に託して、獅子と別れを告げた幸灯は作業をしていた。

(えーっと…薄茶の蝋引き紐をを隙間のあるマクラメ編みにして、ちょうど真ん中にをはめてと、紐を円にするために片方に先っぽの穴を少し大きくして、もう片方は…この綺麗なさらに小さい石を編んで…紐の硬度をろうそくの火で軽く炙りましょう……うん、服のボタンみたいにハマりますね。)

「よしっと。できました〜。」

 作業用の机で幸灯は四本の指に完成したストーン付きミサンガを通して観察した。

「ワンダフルですね〜。……静かにしていただいてありがとうございました。もうお話ししていいですよ〜。」

 幸灯はそう言いながらそっと机に石が自分の方を向くように置いた。丸い石からは女性の声が発せられた。

「このような素敵なおめかし、大変嬉しゅうございます。えー、名前は…」

「あっ、これは大変失礼しました。私は幸灯と申します。ところであなたは一体何なのですか?」

「…幸灯様は、私が何なのか知らずに、回収されたのですか?」

「えー、そうですよ。ただ、魔力は感じていたので、独りぼっちはかわいそうかなと思って、声を掛けさせてもらいました。後ついでですけど、美空の城にいましたから役に立つかもなんてちょっぴり思いました。…すみません。」

「……左様ですか。」

「名前は何ですか?」

「名前などありません。」

「ええー。かわいそう〜。」

「幸灯様が私に名前を付けて貰えると大変嬉しゅうございます。」

「えー、私がですか? うーん。」

 幸灯は腕を組んで考え込んだ。

「あなたが何なのかをより知ればいい名前が思いつくかも知れません。」

「左様でございますか。私のことを語らせてもらってよろしいですか?」

「ええ、どうぞ。」

「私は魔法によって造られた知能、魔工知能でございます。」

「魔工知能?」

「別名―マジカル・インテリジェンス(magical intelligence)、略してMIとも言われます。直接戦闘や生活に関わることは不可能ですが、情報やアドバイスを適切にマスターに与えることが可能です。」

「マスター?」

「以前のマスターは幸灯様がお倒しになった加々美 美空なる者でございます。ですが魔工知能にも意思がございます。幸灯様の戦い方や生き方が大変面白かったので新しいマスターにしようと決めました。」

「じゃあ私のことも裏切る可能性…あるんですか?」

「ないとは言いませんが、幸灯様は大変小動物らしい一面や心配になる一面がたくさんあるので、前者と比べればとても面倒見がいのあるマスターです。かなりと言っていい程私は幸灯様にぞっこんでございます。」

「今の発言は私の都合よく解釈しますね。」

 幸灯は少し困りながら言うと、MIは話を続ける。

「今後は全面的に幸灯様をバックアップしたいと思っております。ですから幸灯様が私をミサンガにしたことは大変賢いと思います。手軽に話しかけられますからね。」

「質問するんでしたら、口で必ず直接聞かないといけないんですか? テレパシー的なことは?」

「可能です。」

「すごいー。」

「少々お待ちを…ただいまより幸灯様との会話が可能になりました。ポイントは私を意識すること。試してみてください。」

「了解でーす。」

 幸灯は笑顔で返事をすると黙り込んだ。

(こんにちは〜。聞こえますか〜?)

(大変よく聞こえます。)

(おお〜。)

 幸灯はウキウキ体を動かした。魔工知能は話を心を通じて続ける。

(私との心の会話を望まない場合は意識を私に向けないようにお願いします。)

「となるとやはり橋代わりの名前が必要ですね。」

 幸灯は再び腕を組んで、考えた。そして閃く。

「太陽の光みたいな色だからサンライト! どうでしょう?」

「大変嬉しゅうございます。今後はサンライトと名乗らせてもらいます。」

「よろしくね、サンライト。ところでサンライト、あなたって複製はできます? 例えばこのミサンガと同時に例えばミサンガと同じ素材で作った指輪とか店で買った手鏡とか。」

「可能でございます。物によってはできることが違うかも知れません。」

「色々作ったり持ってきたりするんで試してましょうね。」

「楽しみにしております。幸灯様の泥棒稼業と女王化計画をこのサンライト、全力で支えます。」

「改めてよろしくね。……それにしても不思議。」

「と言いますと?」

「美空はすごく怖かったですけど、彼に酷い目に遭わされなかったら、ランスロットさんにもサンライトにも会えなかった。」

幸灯は布団で横になった。

「どんな出会いにもちゃんとした理由があって、どんな試練の先には希望と幸せがあるんですね。吸血鬼になったことも、今思えば祝福です。」

「大変素敵なお考えだと思います。」

「おやすみなさい、サンライト。」

「おやすみなさいませ、幸灯様。」

 サンライトは睡眠モードに入り、幸灯もまた眠りについた。



四章 獅子騙し/怒れた吸血鬼

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