四章 獅子騙し/怒れた吸血鬼 その12

 幸灯は地面に舞い降りて城の成れの果てを見ていた。

「城に罪はないんですよね。」

 幸灯はそう言うと、合掌してお辞儀をした。

「ごめんなさい。」

「ビ…ビ…ビ…」

 微かな声が瓦礫から聞こえる。

「ビバーッ!」

 その場所の瓦礫が突然宙に少し浮いては落ちた。幸灯は慌てて身構える。

(えええ! う、嘘でしょ⁉︎ あれだけ喰らってまだ戦えるの⁉︎ どれだけの耐久力があるというのですか⁉︎)

 美空は上空に羽ばたいて、斜め下にいる幸灯を見下ろした。

「僕ちゃんの死んだ城も、部下も、楽しくていじめてた新・裁きの村もいっらないよーん! 君ごとぜーんぶ消しちゃうよーん!」

 美空は指を全部伸ばしたまま、手で長方形を作りそこに魔力を溜めた。幸灯は冷や汗を掻いた。

(あの魔力量…かわせば、私の後ろにある村が持ちません! 私も危ないですけど…)

「怖くてしょうがないですけど、やるしかありません!」

 幸灯も美空と同じ標高に上昇した。それから幸灯がした妙な手の動きに疑問を抱いた。

(両手の五指折り曲げて、ん? 頭の上から顔に沿ってふわふわと下に下って、変だな彼女から何度か獅子の幻影が見えるぞ? 指を曲げたまま腕を曲げて構えてる。)

「何のトリックかわかんないけど、君もう死ぬよーん!」

 そう言った後の次の技名と共に美空の黄色いビームが解き放たれる。

「美敏罵!」

 攻撃が幸灯に向かっていた。幸灯は獅子の構えから即座に左拳で狙いを定めて、先程の動作で溜めていたエネルギー右掌底に込めた。

「トゲトゲ意地悪、飛んでいきなさい!」

 そう言い終えると、幸灯は拳を引き下げ掌底を前に解き放ちながら技を名乗る。

「雷音花吹雪!」

 ゴロロロ、ガオーン!

(ワオ、桃色の光線なのに雷鳴と獅子の雄叫びが同時に響いてくる。…あれ僕ちゃん推し負け…)

「ああああああああ! ビバアアアアアアアアアア!」

(寒いで済む寒さじゃない! ぶっ飛ばされ…)

 美空は意識を失い、地平線の彼方へと消えていった。

「ようやく、終わりま…」

(駄目! 私も反動で急降下しちゃいます!) 

 ヒュー!

(駄目です…意識が…、。)

「みんなで受け止めるぞ!」

『おおお‼︎』

 急降下する幸灯を新・裁きの村からやってきた人々が受け止めた。

「そっと。そっと地面におろしてね。」

 村の女性が指示をするとそうなり、目を閉じていた幸灯を皆が見つめていた。

「ただの女の子じゃないか。俺の娘と大差ない年齢だ。」

「こんな華奢な子が弱い我々のために物を配り続け、果てには暴君から解放してくれたのか?」

 パチッ。

 幸灯はゆっくり目を開けてゆっくりと起き上がった。

(新・裁きの村の方々…ハッ!)

 幸灯は即座に顔を触った。

(お面がない! ど、どうしましょう!)

 幸灯はブルブル震え出した。トントンと彼女の肩を優しい手が軽く叩く。

「心配しないで。大丈夫だよ。」

 おばちゃんの声と優しさに幸灯は落ち着いた。六つ七つくらいの歳の少女二人と少年一人が人々の中から現れた。幸灯は少し微笑んだ。

(私が作った服、早速着てくれたんですね。他にもここにいる何人かが着てくれていますね。すごく嬉しいです。)

「お姉ちゃん、これ見つけたの。」

 一人がそう言うと猫のお面を差し出した。幸灯はそれを受け取った。

「ありがとう。」

「誰にも言わないから。私たち誰一人あなたの正体を言わないから。」

 もう一人の少女が付け足す。幸灯はお面を付け直しながら再びありがとうって言った。

「僕もいつかお姉さんみたいに苦しんでる人を助けられる侍になりたい。」

「そうですか……応援しています。」

 幸灯が立ち上がると、誰かが慌ててやってきた。

「獅子騙しちゃん大変だ! 役人が来る!」

「なんだって⁉︎」

「獅子騙しちゃん逃げて!」

「俺らが壁になる!」

「森の中にとにかく早く!」

「裏口があるわ! そこから行って!」

「足止めは任せて!」

「ガオーン!」

 人々が慌てる中、ランスロットが走ってきた。

「大丈夫ですよ〜! みなさん、彼は味方です!」

「(……成功したのだな。)」

「(はい。)」

「(大した娘だ。)」

「(あなたには下準備を手伝ってもらったおかげですよ〜。)」

「獅子騙のお姉ちゃん、ライオンさんとお話ししてる。」

「かっこいい〜。」

「痺れる、憧れる〜。」

 子どもたちが騒ぐなか、ランスロットは提案をする。

「(未来の女王よ、我に乗るか?)」

「(ふわぁ〜。是非お願いします。)」

 幸灯はそう言うと、皆に別れと礼を告げた。村の人々は城の門の前で既に来ていた役人の壁になっていた。

「あっ、そうだ。」

 幸灯はあることを思い出して瓦礫の近くで囁いた。

「ずっと、あなたのこと感じてましたよ〜。一緒に来ますか〜?」

 瓦礫の中からだいだい色の光が現れて、幸灯の手の平に載った。

(丸くてオレンジ色の小指にも納まる小石になりました。)

 幸灯は確認すると、ランスロットに乗った。ランスロットは城の壁を飛び越えてあっという間に森の中へと消えていった。

「(あなたのことどうにかできそうな方知ってますよ。案内しますね。)」

「(誠か? 助かる。我だけでは海越えは不可能故。)」

 二人は移動していると森は抜けられ、草原が輝いていた。

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