四章 獅子騙し/怒れた吸血鬼 その11

 パチッ。

 寝ていた美空が目を開けた。

「静かすぎる…。」

 美空は布団からから起き上がった後にキレイに畳んで押し入れに入れた。それから寝巻きから普段の服に着替えて、刀の入った鞘を手に持って玉座に座り込んだ。

(微かだが聴こえる、小さな足音、繊細な技はビバッ! …登ってきてる。)

 やがて猫のお面を被った少女が美徳の王として東武国中に知られている加々美 美空の前に現れた。

「君は僕ちゃんの予定だと獅子の腹の中、どういうことだい?」

「仲良くなりました〜。」

「んん〜⁉︎ ワオ!」

(を手懐けたのではなく服従させたのではなく、仲良くなった〜⁉︎ わけわからんわ〜!)

 美空は前屈みになって、驚いた。続けて質問をする。

「僕の駒がこの城にうじゃうじょいたはずだが、僕ちゃんの一声でみんなここに来るよーん。」

「全員おねんねして縛られてます〜。一つの部屋に収納させてもらいました〜。」

「んん〜⁉︎ ワオ!」

(う、う、嘘でしょ⁉︎ それまで僕ちゃんが起きなかったってことは騒ぎにならなかったってこと⁉︎ 器用でビバッ!)

 美空は驚きながら感心してると、幸灯はお面を外しながら、空いた片手で黒髪を桃色に戻した。

「あなたなんか全然怖くないんですから!」

 幸灯は震えながらも堂々と宣言した。

美羽ビバ烈風れっぷう!」

 ビュッ!

 美空の手の平から解き放たれた風の攻撃が幸灯の耳を横切って部屋の壁丸い風穴を開けた。幸灯は恐怖のあまり両手を頭に載せ、床にうずくまってさらに小刻みに震えた。

「ひーっ! ごめんなさい! 調子乗ってました! あなたの全てが怖いです〜!」

(怖いです! 怖いです! 怖いです! 溝が埋まった気がしません! うう〜、括正助けて〜。)

 涙目になって床に目を向けてる幸灯。

「隙ありの美刃!」

 美空は笑顔で容赦なく刀を振り下ろす。

「いやああ! 真っ二つはいやああ!」

 幸灯は悲鳴をあげながら、間一髪で横にコロコロ転がった。ぱっと反動を利用して、片膝と片足を床につけた体勢を作った。

「どんどんいくよーん!」

 美空は金を構えた。

「美刃美刃美刃美刃美刃美刃美刃美刃美刃美刃美刃美刃美刃美刃美刃美刃美刃美刃美刃…」

7回まではなんとかかわせた幸灯だが、その後は無数光速の斬撃が彼女を襲った。

(ああ、痛い! 痛い! 痛すぎて、声すら出ない! 意識が飛びそう…)

「美刃!」

 ズシューン!

 美空はトドメの一撃を放ち終えると、何歩後ろに下がった。幸灯の体が後ろに倒れようとしたその時。

「ふーっ!」

 幸灯は腹筋に力を入れて、前に倒れた。

「いつも、そうできるとは限りませんが、」

 幸灯は気合で体を回復させようとしながら、語り出す。

「倒れるなら、手をつくなら、前の方がいいって決めてるんです!」

 幸灯は目を鋭くしながら言った。対する余裕の美空は興味が湧いて質問をする。

「へぇ〜。なんで〜?」

「私の過去には絶望が多過ぎました。だからこそ未来の希望と夢に期待したいのです!」

 幸灯の顔は真剣そのものだった。にも関わらず美空は笑い出す。

「ビビビビビー! 君は今から僕ちゃんに殺されるんだよ〜? 何夢見てんの〜?」

「私はいつか…女王になるんですよ。」

「ビビビビビ! これ以上僕ちゃんを笑わせるのかい? ビビビ! 君みたいにみずほらしくて臆病で軟弱で特技が地味で威厳がなくて甘ちゃんな小娘がー、女王になれるわけないじゃーん!」

 ドーン!

 幸灯は前に倒れた状態で床を叩いた。

「どれだけ無様で! 馬鹿にされても! 才能がなくても! 最後に勝利の冠をかぶれば、私の勝ちです! 見苦しく思われても、生き残って! なりふり構わずに自分にできることを探して! 利用できるものを全部使って、女王になれたのなら! 最後に笑うのは私です! これは私の笑い話なんですよ!」

 幸灯は立ち上がった。美空は驚いていた。

(闘気が上がってる。傷も回復した。ん?)

 幸灯は腕を前で交差させて、脚を内股で曲げた状態で魔力を込めていた。

「ドレスアップ! コード:クイーン!」

幸灯はそう言うとバッっと両手をやや下に広げて、脚は真っ直ぐ、足先の向きは斜めで足を交差させた。美空は少し動揺した。

(な、なんだよ、一体⁉︎ 彼女の周りを白い光が包み込んで…光が消えた! 彼女も変化した! 赤かった帯がだいだい色に…服は赤い…下がフリルスカートみたいになっていて上は半袖だ…黒タイツが黒いニーハイソックスに変化してる。後ろには白い襟のある背中を隠す程度の黒いマント…女王と名乗るだけはある。)

 美空が観察をしている幸灯は右足を斜め後ろの内側に引き、左足の膝を軽く曲げ、両手でスカートの裾を軽く持ち上げて、背筋を伸ばしたままお辞儀をした。カーテシーというお辞儀の一種である。

「華麗に参らせてもらいます。こうみえても私って優しいんですよ。あなたに対するサービスとして…」

 幸灯はバッっと両手を低くあげた。

「両手を使わないであげます。つまり脚のみで攻撃します。」

「気前がよくて〜美刃っ!」

 美空は急接近した。

(やっぱりこの人速い! でもかわせます。)

 幸灯は優雅にかわした。美空はまた構える。

「また連続で行くよ〜。」

(…向かい打ちます。)

「美刃!」 「鬼脚!」

 技と技がぶつかり合う。美空は驚いている。

(蹴りで僕の斬撃を受け止めた⁉︎ いや足も刃も触れてなかった。)

(ふふふ、このニーハイソックスはおしゃれだけじゃなく攻撃に対する結界も力を込めたら張れる仕組みなんですよ〜。続けて…)

「鬼脚鬼脚鬼脚鬼脚鬼脚鬼脚鬼脚鬼脚鬼脚鬼脚鬼脚…」

 パキン! っと美空の刀が折れる。

「ビバア〜⁉︎」

 慌てる美空とは逆に幸灯は笑みを浮かべた。

(美刃敗れましたね…)

「鬼脚!」

 ドスッ!

 幸灯の蹴りが美空の腹に見事に直撃した。

「ビバアアアアア!」

(心臓が破裂しそうだ! この子は短期間で腕力も上がったのか⁉︎)

 美空は後ろにぶっ飛ばされてしまった。だがすぐに起き上がる。

「んん〜ビバッ! だが君は後悔するよ! 素手で戦う吸血鬼は刃が二つもあるも同然!つまり手刀が美刃!」

 美空はまたもや接近を開始した。

「力において、体格も性別も僕ちゃんが上だ!」

「…サービス期間は終了とさせてもらいます。」

「は?」

 幸灯は魔力を高めた。美空は変化に近づく。

(二重円の中にハート…ピンクの魔法陣…が二つ︎⁉︎)

 スルル!

(同時に二つの布帯が…)

「ぎゃっ!」

(手首を掴まれた! 血管をうまく締め付けてるから空も飛べない!)

 美空が分析していると幸灯は力みながら腕を上げた。布帯も上昇して、美空も引き上げられる。

「うがっ!」

「えいっ!」

 幸灯があげてた腕を思いっきり振り落とす。

「ぎゃあ!」

 布帯は思いっきり美空を床に叩きつけた。再び幸灯は腕を上げる。

「うがっ!」

「えいっ!」

 また腕を思いっきり振り落とす。

「ぎゃあ!」

 布帯はまた思いっきり美空を床に叩きつけた。再び幸灯は腕を上げる。

「うがっ!」

「えいっ!」

 またまた腕を思いっきり振り落とす。

「ぎゃあ!」

 布帯はまたまた思いっきり美空を床に叩きつけた。

「お、己ええ!」

 怒りで美空は再び、突撃する。幸灯はもう一度魔法陣を展開した。

(…今度は…四つ⁉︎ ……を潰せばいい話!)

「美羽烈風!」

 美空は真っ正面に解き放った。幸灯は驚きながら即座に人差し指と親指を両指で合わせ、さらに交差するように指をくっつけてから引き離して、気合を入れる。

「はーっ!」

(…指から布を⁉︎)

 ピスゥ!

(僕ちゃんの美羽烈風を布ごときで打ち消した⁉︎ 砲弾や一流の飛斬に等しい技だぞ⁉︎ …こうなったらに攻撃だ!)

「美羽烈風!」

 スル、ツッ、スルル!

(布帯があっさり避けて軌道修正したー⁉︎)

「ぎゃああ!」

 両足首と両手首が抑えられる。

(クソお、動けない! 宙に浮かされた! えっ…。)

今度は幸灯が急接近した。

「光あれば闇あり!」

 幸灯は拳を握り締めながら叫んだ。拳が光に圧縮されたと思わせといて、水っぽい闇を宿した。

「墨突き!」

「ぎゃあああ!」

 美空はまたもやぶっ飛ばされた。

(さっきの鬼脚の比じゃない! まるで海の者が使う技だ!)

「ガッ!」 

 玉座を飛び越えて、壁にぶつかった。

「ブヘッ!」

(美しい僕ちゃんが血反吐を⁉︎ 小娘〜。)

「うがあ!」

 美空はやけくそで目の前の玉座を幸灯に投げつけた。

「あっ、そういえばちゃんと技名言ってませんでした。」

 幸灯はそう言いながらハート二重円の魔法陣を目の前で展開した。

緩急自在の生地マジカルシルク!」

 スルル!

「この魔法の名前です。」

 幸灯は片手を回すと、布帯で飛んでくる椅子を掴んだ。

「私の方が怒っているので壊します。えいっ!」

 幸灯は先程と似た容量で玉座を床に叩きつけた。

 バキッっと椅子が割れる。

「な…あ…あ…。」

 美空は前に足を踏み始めた。

(僕ちゃんが何年も座っていた力の象徴が…)

「君ねえ〜。オチおきが必要だね〜。……なんで君が笑ってるの?」

「閃いたんですよ。あなたにとっての屈辱的な敗北を…。」

「な、何を言って…」

 美空に構わず、内股で膝を曲げて両手をグーにして肘を下に腕を曲げた。

「道化乱歩ー!」

「やめろおお!」

 美空の叫びも虚しく、幸灯は変則的で踊るような動きで美空を囲んだ。

(クソッ! やはり予測できない! 読めない! 捉えられない!)

「えいっ!」

「ガッ!」

(打撃⁉︎ この小娘、通常攻撃も高くなってる⁉︎)

「トイヤッ!」

「ぶっ! このっ!」

「どこ狙ってるんですか? キーック」

「いでっ! ツアーッ!」

「またまた外れです! 残念ですね〜。」

 しばらく幸灯のパンチやビンタやキックが続いた。

(…部屋の真ん中、いつの間に…く、来る屈辱的なトドメが…狙いは背中…ギリギリになって振り向いて掴めば僕ちゃんの勝ちだ。殺意が背中を突くのがキーだ。…言っていた今だっ!)

 クルッ!

「いない!」

「ターッ!」

(上か声…)

ゴッ!

「ウブッ!」

 幸灯のかかとが美空の頭に直撃する。

(頭蓋骨に痛みが⁉︎ 体が前によろけ、ハッ! 僕ちゃんの背中がガラ空き!)

「からの〜」

 幸灯は手刀に力を込めた。

「黒鎌一閃!」

 ズシュウウ!

「ぎゃああ!」

(この子も手刀で斬撃を⁉︎ 傷が響いて痛い!)

 美空は痛みと共に床に落ちた。幸灯は分析していた。

(今ので床に大きなヒビが! これまでの戦いの衝撃に耐えられず、城が壊れます!)

幸灯は慌てて窓から脱出した。その瞬間蛇京城はみるみる崩れ落ちてしまった。

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