四章 獅子騙し/怒れた吸血鬼 その6

「ビーバ、ビーバ、僕ちゃんの存在はビバッ! そーろそろ僕ちゃんが発見したビバな原石を持ってきてもいい頃だけど…」

 美空が外を見ようとした時だった。下から部下が飛んできた。

「うわお!」

 驚いた美空は間一髪で部下をかわした。

(気絶しかけている?)

 美空は自分の駒に近寄ると、あることに気づいた。

(首筋に傷? 噛まれた? 血を吸われた?)

 美空はもう一度外の下を向いた。

(殺意を感じない。…ん?)

 美空は自身の玉座にその者が座っているのを見つけた。

(黒に身を包んでる小柄な人物。血のように赤い猫のお面だ。)

 美空がそう分析してると、その者は歌い始める。

「ししししし〜♪ たたたたた〜♪ ドドドドドーンドーン〜♪ 私は怪盗獅子騙し〜♪ 無敵で素敵な獅子騙し〜♪ 強きを騙して、弱きを助けるスーパースター〜♪ 」

「ビバーッ!」

 美空は嬉しそうに奇声をあげた。怪盗獅子騙しはもちろん動揺した。

(ええ! なんで嬉しそうなんですか、あの残念なイケメンさん⁉︎)

 そう思っていると彼女の目の前の景色が変わった。

(あの人が私が座っていたはずの玉座に⁉︎ 私はこの部屋になかったはずの椅子に座っています。私と彼の間にはテーブル…ご馳走が並んでいる。)

 幸灯は恐怖を若干感じていたが、食事を見て目を輝かせた。美空はニコッと笑顔を魅せる。

「どうぞどうぞ、獅子騙しちゃん。お食べ。」

 美空は猫のお面を持ちながら勧めた。幸灯は慌てて頬を触った。

(お面をいつの間に⁉︎ フードも取れちゃいました!)

「驚いてる顔もビバッ! 返すよ。」

 美空は投げると幸灯はキャッチして帯の後ろ側にはめた。美空は再び勧める

「お食べ。」

 幸灯は一瞬手を伸ばすが、すぐに引っ込めた。

「加々美 美空さん、随分と豪華な食事ですね〜。新・裁きの村の方々にも分けたらいいのでは? そうすることによって、あなたの生活に支障が出るなんてとても思えません。」

「アハハハ!」

 幸灯が意見を述べると、美空は思わず笑った。

「猫に小判、豚に真珠、犬にビバッ! 僕ちゃんの大事なものをなんで大貧民共にあげないといけないんだい? そんなの僕ちゃんがかわいそう〜。」

 美空は両手を広げた。

「この城も富も名声も、僕ちゃんの美しさも僕ちゃんがあのお方のために努力して得た結果だ。僕ちゃんのビバは崇められるためにあって分け与えるためのものじゃない。」

「あなた、とても狂ってます。」

「君もわかるさ。今日から僕ちゃんの妃になるんだから。」

 そう言いながら美空の瞳が赤く光った。

(やはり私と同じ吸血鬼…プレッシャーが私より格上。)

ガシッ!

「あっ!」

 急接近した美空は幸灯の手首を掴んだ。大人の男性の大きさは少女にっとっては巨人。

(こ、怖い。力が強い…全然振り解けない。どうしましょう。人間の男性ならまだしも同じ吸血鬼の男性なら今の私は絶対敵わない。…すごく怖いです。)

 幸灯は震え出した。対する美空は笑顔だった。

「いいね、いいね。怯えた顔もビバッ! 吸血鬼は不死ではないが長生きだ! 僕ちゃんと長〜い間夫婦で幸せだね〜。早速お互いをより深く知ろう。」

「きゃあああ! いやあああ! 括正助けてええ!」

 幸灯の発言に美空は思わず彼女の手を離した。幸灯は突然の美空の後退りに戸惑った。美空は腕を激しく揺らしながら、幸灯を指さした。

「ま、まさか…括正って…侍道化の…岩本…括正?」

「えっ、ええ、そうですよ。私の白馬に乗った王子様であなたなんか木っ端微塵なんですから!」

 幸灯は自信満々に言うと、美空は小刻みに震え出した。

「奴から受け取った地獄を君にも追体験させてもらうよ。」

 美空は腕を前に伸ばして、魔法を解き放った。幸灯達の周りの景色は闇に変わった。

(幻覚⁉︎ やはりこの人も吸血鬼…私と違って広範囲の幻影術を!)

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