三章 革命前夜、茨の黒魔女への挑戦 その4

 茨の黒魔女と災狼がデューズを出て一ヶ月が経った。魔法国シルバーオックスの名門校―魔法学園グリムリーの卒業式の日の夜だ。グリムリー近隣のライミー村の飲食店でその日卒業した三人の魔女がいちごオーレ、メロンソーダ、ラムネソーダの入ったジョッキを片手にお祝いしていた。

「「「レッツ、マジカル〜。」」」

 三人は声をハモらせるとカーンとジョッキをぶつける。

「「「乾杯ー‼︎」」」

 いちごオーレを飲んだのはファブリ・メイプル。明るいピンク寄りの赤の魔女服を着こなした茶髪で黒い瞳の女の子で三人のリーダー的存在だ。

 メロンソーダを飲んだのはフェリシア・グリーン。薄緑の魔女服を着こなした紫色の髪で茶色い瞳の女の子で三人のまとめ役だ。

 ラムネソーダを飲んだのはマリン・ミンキス。水色の魔女服を着こなした金髪綿毛で青い瞳の女の子でチームのムードメーカー兼斬り込み隊長兼ネタ枠だ。

「今日からだるい筆記試験やしんどい実技試験やだっさい合唱鑑賞とはおさらばよ、二人ともー。」

 マリンが楽しそうに発言する。そこでフェリシアは訂正を求める。

「あら合唱がダサいですって? マリンったら失礼ね。歌い手、指揮者、演奏者が一帯となって披露する芸術って素晴らしいじゃない。」

「いや、そんなマジレスされても…」

「そうよフェリシア。マリンがそんな高度な味を理解できると思う?」

「いや、お前もわかんねえだろ、音感ゼロ魔女!」

「演奏なしのアカペラもなかなかのものよね〜。」

「「合唱の話はもういいよ、フェリシア!」」

 ファブリとマリンがツッコミを入れると、笑顔と笑いがしばらく続いた。ふとファブリがフェリシアに質問する。

「私たちの家兼事務所の建設はもうできるんだっけ、フェリシア?」

「予定だと明後日ね。なるべく要望を通してくれるように業者さん頼んどいたわ。」

「いよいよ私らの新たな船出か〜。」

 マリンはそう言いながら、腕を頭の後ろで組んで、天井を眺めた。

「どれだけ多くの人に幸せを届けられるかなー?」

「たくさんよ。きっとたくさん。」

 フェリシアが軽く二回マリンの後頭部を叩きながら言った。ふと、優しい魔女はファブリの表情が歪んだことに気づいた。

「……ファブリちゃん?」

「赤間 一誠と宮地 蛇光が死んで……世界は大きく変わる。呑気に人助けの旅なんてできるのかしら?」

 フェリシアとマリンは言葉では反応できずに黙っていたので、ファブリは話を続けた。

「同じ学び舎で共に時間を過ごした同級生はそれぞれ色んな場所に就職したり、根を張ったりする。私たちはずっと一緒だけど…」

「「でも結婚はしたいなー。」」

「友情の亀裂を生む発言今はやめい! 私もしたいわー!」

 ファブリはツッコミを入れると話を戻す。

「もしかすると、色々な派閥が現れて、私たちも誰に付くか強いられる。同じ学び舎で巣立った者と共に戦うこともあるかもだけど、敵対しなければいけない存在もあるよ。例えば…」

「清子・ブラックフィールド。」

 マリンはファブリと目を合わせずに割り込んだ。ファブリはうんうんと頷く。

「そうね。その通り。」

「いや、そうじゃなくて今入ってきた。」

 三人が驚いていることに全く気づかずに清子・ブラックフィールドは店主らしき人に笑顔で挨拶をして、ファブリ達のオープンスペースとは違うカーテン付きの個室に入っていった。

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