三章 革命前夜、茨の黒魔女への挑戦 その3

 数十分後の話。クアの町はさらに煙と炎がそこら中を舞っていた。

「うう…。」

 清子は服が少し汚れたり切れがある状態でうつ伏せに倒れていた。

(災狼…なんて強さなの⁉︎ あんな技の使い手に今の私が勝てるわけないじゃない!)

「あらら〜? 息がある〜? タフやないの〜?」 

 バルナバは清子のもとへ歩いてきた。

 グキッ!

 バルナバは容赦なく清子の背中を踏みつける。

「ああっ!」

 清子は痛みで悲鳴をあげた。

「んん〜。なんかな〜。つまらなくはなかったけど、侍道化と戦った時の方がおもろかった。」

「くうー。」

 清子はその発言に悔しさで涙目になった。

「さて…。」

「あっ、うっ!」

 バルナバは清子が仰向けになるように足で転がして、また抑えた。

「とりあえずお前が壊した俺の町の代償…」

 バルナバはそう言いながら、手で清子を顎クイした。

「体で俺に払ってもらおうか。」

「えっ…。」

 清子の体を寒気が走った。

「えっ。」

(こっ、こんな奴に私の特別な初めてを⁉︎ やだ、やだ絶対やだ! でもそんなのこいつにバラしたくない。)

「す、好きにしなさい。」

 清子は勇敢に涙を流しながら、言葉を発した。

「私はあなたに戦いで負けたんだから、勝者が敗者を好きにできるのは必然よ。女性が戦場に立って、負けたら起こる可能性は…私もちゃんと覚悟するべきだった。」

「ヒュー、ヒュー、ええやないの〜。その反省。」

 バルナバはそう称賛すると足を下ろして、清子の寝ている横に座り込んだ。

「安心しろ、タチの悪すぎる冗談だ。俺はお前にそういう目線で興味はねえ。」

 バルナバはそう言うと、清子は少し驚いていた。バルナバは言葉を付け足すことにした。

「あっ、別にお前が魅力的じゃねえってわけじゃないぞ? ただ俺は女を知ること自体に興味がねえのさ。だからもちろんお前にも俺は手を出さねえ。」

(俺は? …はっ!)

 清子は思わず周りを見渡してしまった。無法者たちがニヤニヤ舌を出しながら彼女を見つめていた。再び涙目になった清子にバルナバは即座に気づいた。

「ん?」

 バルナバは辺りを見渡し、視線に気づいてから、再び清子の方に顔を向けた。

「ああ。すまん、すまん。まあそう聞こえても仕方ねえよな。そういう意味もねえから。」

 そう言って、バルナバはスゥーっと息を吸って、大声量を解き放った。

「おい‼︎ 能無しの考えなしの愚鈍な負け犬共おお‼︎ 俺の獲物である魔女に指を一本でも触れようもんなら、お前らを俺のモルモットにするか、生きたまま味わって喰うぞおお‼︎ わかったか⁉︎」

 この声に今までニヤニヤしていた野次馬は、恐怖で怯えてその場から去った。完全な人払いを確認したバルナバはポケットから緑色の液体の入った透明な瓶を取り出した。

「あっ、手が滑ったー。」

 バルナバはそう言いながら、清子の上に蓋の開けた瓶を傾けた。緑の液体は煙となり、清子を包み込んだ。

(何これ……傷も服も……治っている。)

 煙が消えた頃には清子の状態はバルナバと戦う前に驚いていた。バルナバは笑みを浮かべながら語り出す。

「へへ…俺は科学者としても一部の者からは名が通ってるんだ。最も無資格だがな。」

「…何が目的?」

 清子は起き上がりながら、問い詰めた。

「へっ、鋭いな。さすがだ。だが利害の一致した目的だ。」

 そう言うと、バルナバは清子の耳元で囁き始める。

「明日聖騎士団の犬がここを攻める。俺は今日クアを出て、デューズを出るつもりだ。だが奴らの包囲網を抜けるのは今回に限って、俺だけじゃきつい。」

「私と協力して脱出したいわけね。」

 清子は要点を言いながら両手を腰に置いた。バルナバは手でいいねの仕草をした。

「ものわかりが早いじゃねえか。お前も卒業前に聖騎士団のお世話なんてごめんなんじゃねーか?」

「……いいわ。但し、国を出たらおさらばよ。」

「オッケー! じゃあ早速出発だ!」

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