三章 革命前夜、茨の黒魔女への挑戦 その5

「え? あいつ何しに来たん? まさかシルバーオックスを我が物にする計画を企てているんじゃ。」

 マリンはカーテンを見つめて意見を述べていた。ファブリはもっと小声と言わんばかりにしーっっと言うと続く。

「いいや、きっと爆破テロを近隣国に企てているのよ。」

「二人は純粋に食事に来たって発想はないん?」

 フェリシアは二人に確認してから、ジョッキをあげた。

「二人とも、今日はめでたい日なんだから楽しんで終わらせましょう。ね?」

「そうね、フェリシアの言う通り。」

 ファブリは同意すると、フェリシアは一安心した。しかしファブリは再び口を開ける。

「清子・ブラックフィールドに勝利して、楽しく終わらせましょう。」

「いや、ファブリちゃーん、私そういう意味で言ったんじゃないんだけど…」

「マリン、喧嘩売ってきて。」

「まっかせなさーい。」

 ファブリの指示にマリンは元気よく返事をして立ち上がり、ズカズカと清子のいる個室の近くまで歩いた。

「邪魔すんでー。」

 マリンは勢いよくシャーっとカーテンを開けながら、宣言した。対して清子は金色の瞳で睨んだ。

「邪魔すんだったら帰って!」

「ひーっ! ごめんなさい! お邪魔しました!」

 マリンは怯えながら言うと、丁寧にカーテンを閉めて、逃げるようにスタスタファブリとフェリシアが座っている席に戻った。ファブリは戻ってきた彼女に呆れていた。

「……何やってんだお前?」

「……すごく怖かった。」

 マリンはしょんぼりしながら下を向いてしまった。ファブリは二人に注意をする。

「もう会う機会はないけど、会ったら敵対してないって言える? その時に私たちを彼女が恐れないと勝負にならない。だから喧嘩を売るのよ。」

「気は確かなの? この中で?」

 フェリシアは問い詰めると、ファブリは首を横に振る。

「ちゃんと近くの森に連れて行くわよ。それに…」

 ファブリは二人に近づくようにジェスチャーしてさらに小声で話した。

「あの子…東武国から戻ってから、幾つもあった国営魔導士の推薦状を…全部蹴ったのよ。」

 フェリシアとマリンはその事実に言葉を失ってしまった。ファブリは話を続ける。

「おかしいのはそれだけじゃない。父を失ったにも関わらず、あの子の魔力はさらに燃え上がってるのよ。なのに大手の職場を蹴った。よからぬことを考えていてもおかしくないわよ?」

 ファブリはそう言うと左拳を強く右の掌にトンっと当てた。

「締めとかないと。」

「あっ、そうだ。思い出した。」

 フェリシアは急に立ち上がり、スタスタと荷物の手提げバックを持って飲食店を出た。マリンは首を傾げる。

「フェリシアどうしたん?」

「ふっふっふっ、」

 それに対してファブリは不敵に笑った。

「マリンったら鈍感ね。フェリシアもようやく闘争心が芽生えたのよ。きっと清子・ブラックフィールドを倒す特別な武器を持ってくるわ。」

 しばらくすると、フェリシアは戻ってきて、清子のいる個室のカーテンの前に立った。

「トントン。」

「はぁーい。どうぞ開けて。」

 清子が応答すると、フェリシアは優しくカーテンを開けた。

「こんばんは〜。」

「あら、フェリシアちゃん。こんばんは。卒業おめでとう。」

 清子は笑顔で挨拶した。

「そちらこそ、卒業おめでとう〜。たまたま見かけたから〜」

 そう言いながら、手提げバックの中をモゾモゾし始めた。それをファブリとマリンは小声でしゃべりながら観察していた。

「コンパクトな爆弾かな、ファブリ?」

「いいえ、多分シンプルにナイフよ。」

 そう話してるとフェリシアは清子にある物を差し出した。

「借りてた本返そうと思ったの。」

「「ズコー!」」

 ファブリとマリンはそう言いながら、おでこをテーブルにぶつけた。

「あら、そうだったの? 返してくれてありがとう。」

 清子はそう言いながら、本を受け取った。

「楽しめたかしら?」

「ええ。それはもう。特に私としてはベクトルとスカラーについての説明の部分がとてもわかりやすかったわ。あっ、一ページ目開けてみて。貸してくれた小さなお、れ、い。」

 清子はフェリシアに言われた通りにした。

「まあ、押し花入りのしおり? ありがとう。この色好きだわ。」

「でしょ〜。卒業後も元気でね。私はいくね。」

「あら、そうなの? フェリシアちゃんもね。またね。」

「またね〜。」

 そう言いながらフェリシアはゆっくりカーテンを閉めて、元々いた席に戻った。

「あら? 二人ともどうしたの?」

「「……何やってんだお前?」」

「え?」

 フェリシアはキョトンっとしてると、マリンは勢いよく指さした。

「えじゃねーよ! ってか本借りてたの?」

「喫茶店巡りもしたし、勉強会や読書会の参加やボードゲームも一緒にしたわよ。実習室仲間だった時期もあったし。」

「いや〜、なんでフェリシアみたいなお花畑があんな悪そうな魔女感出してる子と仲良いの?」

 ファブリはそう言いながら頭を抱えた。フェリシアは逆に不思議だった。

「そんなに悪い人?」

「あんな悪い人はいませんよ。」

 ファブリはそう言いながら、手首を振った。マリンはムズムズしていた。

「んん〜。いっそあの生意気な清子を、ヒキガエルかトカゲに変えてやりたい!」

「それは無理じゃない〜? あの人、私たちが三人が合計した以上の魔法や呪いを習得してるのよ?」

 フェリシアが確認すると、マリンは言い返せなかった。

「と、とにかく、私決めたんだから、清子・ブラックフィールドと戦うって。」

「にしては前段階で随分粘ってるじゃない。本当は怖いんでしょ?」

 いつの間にかファブリの後ろにいた清子が煽った。ファブリは驚いて後ろを向き、マリンやフェリシアも驚愕していた。

((おっ、終わったー! 燃やされる!))

(この人、いっつも不気味さも連れてくるのよね。だからマリンもファブリも敵対するのかしら?)

 二人が震え、が硬直してると、清子はハァーっとため息をした。

「何よ、あなた達。卒業式というめでたい日にトラブル起こしなんて、どれだけお子ちゃまなの?」

「「うっ。」」

 図星を突かれた二人は何も言えなかった。ふと清子はフェリシアの方を向いた。

「フェリシアちゃんはなんでこんなお馬鹿さん二人とつるんでるん?」

「んん〜。馬鹿な子ほど可愛いってことだと自分で思ってるの。」

 淡々とフェリシアが答えると、マリンが急に頬を赤くして上機嫌になった。

「もぉ〜フェリシアったら。本当のことだけど、かわいいなんて改めて言われるとてーれーる〜。」

 それに続いて、ファブリはぷいっと横を向いて、顔を赤くした。

「べっ、別にフェリシアにかわいいって言われても、嬉しくもなんともないんだから。」

「……ね?」

 フェリシアは清子に確認すると、清子はうんうんと頷く。

「わかる〜。なんか危なっかしくてほっとけないのよね〜。近くにいないとすっごく心配。今すぐにあの子の所に行きたいけど、あの子から私を見つけるって言ったから待っているの。」

「あの〜。」

 ファブリが清子の話に割り込んだ。

「喧嘩を…買って…下さい。」

「三対一で? 随分と勇敢ね。草食動物の群れと同じくらい勇敢。」

 清子の煽りに、感情的になることを抑えながらファブリは煽りで応答する。

「ひょっとして、絆という名の魔法を恐れているの? 孤独な清子さん。」

「孤高で孤独と言ってくれる? どうせあなたは一人で荒波を泳ぐ度胸なんてないんでしょ?」

 図星を突かれたファブリはブルブル震えていた。清子は話を続ける。

「いいわ。あなた達の顔も見納めかもだし、勝負してあげる。案内しなさい。」

 四人の魔女は店を出てホウキにまたがり、ファブリが先頭に飛び立った。

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