二章 時空の槍と新たな勇者の目覚め その8
伸正がシャロー村に再びたどり着くと、村人が集まって胴上げをしていた。
「村の英雄-リジー・ランスに感謝!」
「大蛇を彼方へぶっ飛ばした英雄!」
「村の誇り! 栄光あれ!」
『万歳! 万歳! 万歳!』
胴上げが終わり、地面に降り立ったリジーはふと伸正に気づき、近づいた。
「上手く、いったようだね。」
「ええ。」
リジーは誇らしげに返事した。すると力強い声が会話に入ってきた。
「いんやー、実に見事…だったと思う。俺見てないもん。今着いた故のオピニオン。」
「兄上~。無事で何より。」
急に横に現れた喜正に伸正は反応すると、喜正は笑顔を魅せた。
「いやあ、あやつはまさに強敵の中の強敵。激戦を強いられたが何とかギリギリ勝利を掴み取ることができた。」
(の割には無傷じゃん。めっちゃ盛ってるくせに、実際は圧倒で圧勝のパターンだろ?)
伸正はそう思っていると、もう一つの声が会話の中に入ってきた。
「いんや、実に見事なショーだった。俺は見てたよーん。見てた故のオピニオン。」
男はキレッキレにポルカを踊りながらリジー達に近づいて、述べた言葉だった。白いカンフーパンツを履き、水色と黄色が見事に合わさった短い袖の中華服を着こなしていた。白髪黒髪ごちゃ混ぜのぼさぼさヘアーに虎の丸い耳がくっついていて、カンフーパンツの後ろの穴から先っぽが円柱になっているシマシマのシッポが飛び出していた。腰回りには何か入ってそうな袋が横に巻かれていた。
「ティータイムの余興としては、ファンタスティック! だが俺がその時飲んでいたのは、まさかの……コッコッアー! ティータイムなのにお茶じゃなくてココアを飲むという斬新慢心~。俺様ハッピー。」
男は三人の周りをピョンピョン脚で跳ねながら事情を話していた。喜正は目で追いながら、質問をする。
「村の者じゃないね、あんちゃん。何者だい?」
「ホウホウ、俺様怪しい人に自分の名前がライガーだって打ち明けないようにしてるんだ。」
ライガーは周りを跳ねている間、しばらくの沈黙が流れた。突然ライガーが両手に頬を添えた。
「俺が一番怪しかったー!」
そう言うと、ライガーは地面に伏して、思いっきり連続でドンドン地面を拳で叩きました。
「ってか名前も言っちまったあああー! ぬああああ~! 恥ずかしいいって! もう死にたい! きもいて我! 俺なんか消えればいいんだ! 誰も俺を愛してくんない。しくしくしっくーんー!」
嘆くライガーを伸正は優しく肩をさすった。
「まあ落ち着きなさいよライガー君。初対面だけど僕は結構ライガー君のこと好きだよ。」
「そういうことじゃないーんよ~。俺は女の子に愛されたいーんよ~。」
「君、内の長男もいつか言いそうなこと言うね。ブロマンスにも美しさがあるんだよ。」
「よせよせ、伸ちゃん。そういう語りが欲しそうな子じゃないだろ。」
喜正が伸正を止めると、ライガーは再び叫ぶ。
「死にたいって、マジで! くっそぉ、人に嫌われたくねえ!」
「ああ、だったら僕懐に銃持ってるけど…。」
そう言うと伸正は襟の下から黒い銃を出した。
「頭部を撃てば、痛み感じずにこの世とおさらばできるらしいから、どう?」
「伸ちゃんなんでさらっと怖いこと、言えるの? お兄ちゃんは怖いです。」
「そんなことよりライガー君。」
「オッケー、俺をスルーしたのは百歩譲って、そんなことで片づけてやんなよ~。話聞いてやんない?」
喜正のツッコミをまたもやスルーした伸正はライガーに問い詰める。
「君は……ものすごく強いね。かなりのバケモンだ。戦いを見てたって言っていたけど、助太刀はしなかったの? 君がココアを飲んでた時に、怪我人が出たかもしれないんだぞ。無事な建物もあったかもしれない。」
「……俺は剣を愛す漢。ふん!」
ライガーの左手から刀を入れた白い鞘が現れた。
(私が使った念術に似てる。この人も念操者?)
リジーは敏感にすうーっとゆっくり刀を抜き始めた。その瞬間のシャロー村の空はいつもより明るく見えた。
(抜いただけで、この圧。剣愛が過ぎる!)
喜正は顔に出して驚きながら、微笑んでいた。対して伸正は考え事をしていた。
(やっぱりか~。なんでこんなバケモンがこんな戦いのタの字も知らなそうな村に? まさかこいつも…)
「まさか君も
伸正の問いに、ライガーは思わず刀を納めて視界から消した。
「ほよよん~?」
ライガーはそう言いながら首を傾げた。
「なんやそれー?」
「うん、違うんだね。一応訊くけど、君は槍には興味ないの?」
「伸ちゃーん、せめて自己完結せずにちゃんと答えてやれよ~。ライガー君、
「俺様槍には興味ナッシングー!」
「こいつもこいつでさては俺の声届いてないな、さては。」
喜正はそうツッコミをいれると、それに構わずライガーは手を後ろで結び、その場でゆっくり足で交互に地面を踏み始めた。
「この世の者はあらゆる方法で会話を楽しむ。ジェスチャー。口からの言葉。拳。手紙による文通。暗号。手話。まみむめも。あらゆる手段の中で俺は剣での対話を好む。」
そう言うと、ライガーはピシッとおでこに手を置いた。
「しかーし、悲劇が俺を襲うん。もう死にたいん。」
「だから僕が拳銃で…」
「伸正さん、多分この人本当は死にたくないから。」
リジーが伸正の発言を割り込んだ。それに全く気がつかずにライガーは話を続ける。
「俺は、少なくとも剣術において強さが過ぎる。略して強すぎる。雑兵と差を開け過ぎた己が憎いんよー。んがあああ!」
ライガーがしばらく嘆くと、ふとリジーと目を合わせた。
「あの大蛇、俺なら6.5秒で一丁上がりよ。嬢ちゃん、ちゃんと素振りしんとあかんぜ。」
「じゃあ…何故お前は戦わなかったの?」
リジーは怒りと悔しさで震えながら質問した。対してライガーはボリボリ頭を掻き始めた。
「わっかんないかなー? 嬢ちゃんに取っちゃ確かにアレは強敵だった。だが俺に取っちゃ別物よ。もう、視える! 見飽きてる! 視え過ぎてる! これは見栄じゃナッシング! 俺様の圧倒的勝利しか視えんのやて~。この虚しさわかれい。」
ライガーはそう言うとキリッと表情をいきなり変えた。
「俺は火の粉は払うが、目的に関係する事以外で見え透いた勝負に飛び込む行動は極力避けている。それは善でも悪でも同じことよ!」
そう言うと、ライガーはビッっと上に右腕を伸ばして、空を指さした。
「アンコとクリームで、和洋折衷! いつだってフォー・ユー!」
ぴょーん!
ライガーはしっぽのバネで山を越え、雲の彼方へと跳び去った。その村にいた者はみな呆然とした。リジーはふと岩本兄弟の方を見た。
「あれは……なんなの?」
「「んん~。」」
二人は少し悩むと、喜正が先に口を開いた。
「あやつは善人でも悪人でもない。恐ろしく強い、訳のわからん奴だ。」
「ライガー、ライガー。どっかで聞いたような聞かなかったような…人民危険度リストはあるけど、強者リストは僕持ってないからな。」
伸正は思い出そうとしていると、リジーは純粋に質問をする。
「あのライガーって…人?」
「獣人かな、兄上?」
「獣人だな。おそらく虎男だね。…伸ちゃん、お兄ちゃんが獣人を人生で何匹倒したか当ててみ。」
「兄上はどうせ記憶も記録もしてないでしょ?」
伸正はため息をしながら私的すると、喜正は頷いた。
「うんうん。百超えた時から数えるのめんどくさくなった。」
「だったら訊くなよ~。」
「話戻していいですか⁉」
リジーが二人の話を割り込んだ。
「ライガーって獣人、もしかして世界一強いじゃないですか?」
対して伸正はトリックスターの笑顔を魅せる。
「うーん。剣士としてなら強いだろうけど…どうだろう?」
「若い頃はともかく、今の俺が勝てるかどうか。」
「兄上、話の腰を折るの辞めてくれる?」
「ごめん。」
「あの白い虎は確かに強い。だがあいつと同じくらい強いのに、すごく悪い奴がメリゴールにはたくさんいるんだ。」
伸正の発言にリジーはゾクッとした。伸正は話を続ける。
「幸いこの村は守られている。おばあちゃんになって死ぬまでずっとこの村でのどかに暮らすのも一つの生き方だ。君はどうしたい?」
伸正の問いにリジー・ランスはまぶたを閉じて、じっと考えた。再び目を開けた時には迷いがなかった。手に
「運命が私を選んでくれたんですもの。この重荷は間違いなくダイヤよりも素敵な真実の宝! 弱きを守り、悪を懲らしめる旅に出ます!」
村中がこの大声に拍手をした。リジーは早速家に戻り、少量の荷物と共に戻ってきた。
「良い心構えだ。旅人の荷物は少ない方がいい。」
喜正が感心してると、伸正がリジーに話しかけた。
「一人旅も一つの手だが、この世界は君が思っているよりずっと危険だ。君がある程度戦士として成長するまで勝手ながら君を守りながら、身の守り方を伝授させてもらうよ…こちらの喜正公が。」
「うんうん。……え?」
喜正は驚いて伸正の方を向くと、そこに弟の姿はなかった。
「伸ちゃん消えちまったよ。」
「割とルーズなの、伸正さん?」
リジーは呆れながら、喜正に訊くと彼は頭を掻きながら返答する。
「かなりな~。まさかの責務転嫁かよ~。よろしくね、リジー君。」
「ええ、よろしく喜正さん。私に手を出したら、槍でつつきますからね。」
「まさかの信頼ゼロ⁉ だが当然か。もぉ~。では出かけよう。
こうして
「のーぶーまーさ~‼」
森の中を歩きながら、喜正は叫んだ。
「まーたーね~‼」
数キロメートル遠い場所で伸正は偶然見つけた花に近くの川から汲んだ水を与えていた。しかし兄の声はしっかり聞こえていた。
「地元の妖精や動物たちビビらすなよ、兄上~。」
伸正は文句を言いながら、微笑んでいた。
「いつもごめんね、兄上。またね。」
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