二章 時空の槍と新たな勇者の目覚め その1

 括正が桃太郎の元で修行を始めて数日後のことである。美の区の港の近くにて、二人の男が刀を交えて決闘をしていた。青い和装の大柄な男と黄色い大きな布を頭から肩に乗って下まで覆われている括正より小柄な男。この小柄の暗い赤髪の男は赤鬼のお面を被っていて黒い袖が見える右腕で刀を持っていた。

「フン! うおっ! はっ! うっ! ずあっ! があっ! がっ! ああ! ばっ! だあっ!」

 大柄な男は全力で体を動かし刀を振っていたが、小鬼は連続で斬撃を受け止めるどころかその場を全く動かず、はじき返していた。大柄な男はいら立ちを覚えていた。

「こんなはずはねえ! 俺は美の区一の剣士、大橋おおはし けんちんだ!」

「くだらん…暴力でしか己の生き様を示せぬ愚か者め。」

「何をー!」

 剣珍は距離を置いた。

「飛ざああああん!」

 剣珍は力んで両手で遠距離攻撃を放った。小鬼はその場を動かなかった。

 カキーン! 

 小鬼は刀で飛斬の線を交差するように当てた。

 ゴゴゴ!

 雷鳴と共に衝撃波は爆発し消滅した。剣珍は驚きを隠せなかった。

「なっ⁉」

 だが闘志はまだ燃えていた。

「ぐぬぬ!…飛斬! 飛斬! 飛斬! 飛斬! 飛斬! 飛斬! 飛斬!」

 何度も同じ攻撃を繰り返しても結果は同じだった。しばらくすると、小鬼は口を再び開いた。

「指定した時間は過ぎた。俺は耐えきった。約束通り船はもらう。」

 小鬼は回れ右をして港の方に歩き始めた。しかし負けを認めたくなかった珍剣は小鬼の背中目掛けて、飛斬を放つ構えをまたした。

「ぐごおおおお!」

 飛斬が真っ直ぐ体を振り返らせた小鬼を直撃した瞬間、地を這う黒い飛斬が小鬼の前を通り、珍剣の飛斬を防いだ。双方は攻撃が放たれた方向に視線を向けた。そこには珍剣よりさらに大柄で赤みのだいだい色の和装の上着と黒い袴を着た中年白髪筋肉質の男が立っていた。小鬼は不意打ちをされた怒りで広げた手を無言で珍剣に向ける。彼の指先を電流がバチバチ走る。

「ひっ!」

 思わず珍剣は尻餅をついた。小鬼が今にも技を放ちそうなその時、筋肉質の男は小鬼の目の前にシュッっと立ち塞がった。小鬼は内心驚いていた。

(あの距離…あの巨体で…なんてスピードだ。)

「……どきたまえ。」

 小鬼は忠告したが、中年の侍は笑顔で応答する。

「偶然だが、勝負の発端から見させてもらった。貴殿がせっかく手に入れた美しき勝利。無用な血でその勝利を汚すのはどうだろう?」

 中年の侍の発言に小鬼は素直に手を引っ込めた。中年の侍は剣珍の方を向くと、殺意で睨んだ。

「大橋家は律儀に人々に尽くした尊い歴史があるのだ! その末裔の貴殿が敗北の先にとる行動がこれかああ!」

 男の怒声が剣珍を硬直させた。一息ついて男は再び、今度は笑顔に戻り、口を開く。

「今日はこの小鬼ちゃんが貴殿に勝った。しかし明日はわからぬ。」

 小鬼は港に向かって再び歩き出した。

「ちょいとお待ち、小鬼の旦那。」

 中年の男は小鬼に追いつき横を歩いた。

「船に乗せてくれないかい? 大陸まででいいんだ。」

「……構わないが…目的はなんだ?」

「運命を導きにだ。」

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