一章 侍道化と桃色果実 その1

 さて、前回括正(かつまさ)と幸灯(ゆきび)とお別れした時、彼らは抱きしめ合っていた。物語はそこからしばらく経ってから続く。二人はまだ抱き合っていた。

「あの……括正?」

 幸灯は少し遠慮してるように、口を開いた。括正はうれしそうに応答する。

「なぁーに~? 幸灯~?」

「あなたの女王陛下をいつまでギューって、抱っこしているのですか?」

「え? ああ、ごめんなさい。」

 そう括正は誤ると、ゆっくりしゃがみ、優しく幸灯を地面に下ろして、一定の距離を置いた。すると、幸灯はまた口を開いた。

「え、なぜ私を放したのですか?」

「……んんー? え? だって君が…」

「それは私だってか弱い乙女ですから、自分を守るためにはそう言いますよ。」

 幸灯はそう言いながら少し顔を赤くして横を向き、黒から桃色に変わった長い髪の右側の髪を触った。っと思いきや、黒から赤に変わった瞳を括正に合わせて、斜め前に両腕を延ばした。

「そこを乗り越えて、来て下さいよ!」

「……これなんの話?」

 括正は困った顔で質問した。それに幸灯は両腕を伸ばしたまま堂々と答える。

「愛と勇気のお話です!」

「あながち、間違っていないね。」

「あっ、括正! 大変です! 私の髪が桃色です!」

「会話下手な子なのかな? …まあ驚いて当然か。」

 自由な幸灯は黒から桃色に変化した髪を片手に添えながら、赤い瞳を輝かせていた。すると彼女は少し涙目になっているのに気づき、括正は声を掛ける。

「幸灯……僕のせいで見かけが変わったのはごめん。だけど君は君だ。僕は君に忠誠を…」

「美しい! なんと美しいのでしょう、私の髪! 感動です!」

「まさかのうれし泣き⁉」

(というかこの子感動し過ぎて、話聞いてなかったの? …まあ本人が喜んでいるならいいか。)

 括正はそう思うと、幸灯にまた声を掛ける。

「ちなみに幸灯。」

「なぁーに、括正?」

「目が赤くなっている。」

 括正がそう言うと、しばらくの沈黙が流れた。括正は脳内で焦り始めた。

(しまった! そこは地雷だった…)

「鏡。」

 突然幸灯は口を開いた。当然括正はん?と言い驚いた。幸灯はさっと括正の手首を掴み、彼の手のひらに金貨を置いた。括正はんん~?っと反

応した。

「今すぐ手鏡を買ってきなさい。」

「いや、なんで?」

「自分で自分の美しさに浸りたいのです!」

 幸灯の顔には迷いがなかった。括正は少しぽかんとすると、再び口を開く。

「いや、全然いいけど…なんで君が自分で行かないの?」

「私がこのまま行ったら、多くの殿方が私の美しさに振り向いて、結婚を連続で申し込まれます。そうなったら女王様も目指せないし泥棒稼業も継続できません! 普通考えたらわかるでしょ⁉」

「いや、それは普通の考え方じゃないと思うよ。それにこの国では手鏡は売って…」

「お黙り!」

 幸灯は一喝すると、彼女の瞳はより赤く光り、括正は少し寒気を感じた。

(白吸血鬼特有のホーリーなプレッシャー。もしかすると…)

「兆の区は外国からの移住者もいますから、洋雑貨店くらいありますっ!」

 幸灯は括正の思考を遮った。

「お釣りが出るはずですからついでに私の頭を隠す布もお願いします。」

「布は何色がいいの?」

 括正は優しく質問すると、幸灯はんん~っと言いながら人差し指を頬において考えた。

「金でお願いします。未来の女王ですから。王冠代わりに。……今鼻で笑いましたね?」

「いやあ…なんで鼻で笑ったか聞きたい?」

 幸灯がうんうんと頷くと括正は話を続けた。

「んん~、いつか幸灯にも金が似合う日がくると思う。でも今は似合わないじゃない?」

 括正は冷静に優しく話した。

「金の布は泥棒稼業に最適な色じゃないんじゃない? ちょっと見栄が見え見えで無理をしちゃっているように感じるよ。」

 幸灯はこの発言にムッとしたが、しばらくしたら返答した。

「泥棒は盗みの際目立たないことが前提なので、黒でお願いします。」

「そうだね。それは本来の幸灯の賢さが出てるいい判断だね。そういう聡明さを志す幸灯に僕は忠誠を誓ったんだよ。」

「じゃあ鏡と黒布、お願いします。私ここで待っていますから。」

 そう幸灯はお願いすると、括正は急にドヤ顔をした。

「ふふん、多少移動しても大丈夫だよ。なぜなら僕は念操者。そして君の念はすごくわかりやすいんだ。」

 そう言うと括正は港町に向かって走り出した。そして途中で空を仰いだ。

「もしかして、あの子は吸血鬼になるために生まれたのかな?」

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