第2話 幼馴染を取り戻すために、俺はモブに先制攻撃を仕掛けた

「あいつまじ・・・・」「あの子名前なんだっけ?・・・・」「だれあいつ・・・・」「無謀にも程があるだろ・・・・・」

いま教室はざわめいていた。


なぜならば、おれ君島 隼人が幼馴染の如月 美優に告白したからだ。

まあ正確にはモブと入れ替わった俺が美優に告白したのだが。


告白を受けた美優の反応だが、


スルーされた。

美優はひと言も言わずに立ち去ったのだ。

まあその反応は予想していた。


昨日俺はクラスのモブキャラである、高橋トトと体が入れ替わった。

そいつは、俺と入れ替わったことを美優に言わず、結局入れ替わった俺は美優を傷つけてしまった。たぶん、いや絶対に今の俺は美優から嫌われている。


しかし、この無謀とも思える俺の告白には意味がある。


理由はいくつかあるが、一つは俺の覚悟を美優とそこにいる偽隼人に伝えるためだ。


高身長でイケメンそのうえ幼馴染というポジションを手に入れた偽隼人は、明らかに俺より有利に立っている。認知すらされていないモブキャラと最強スペックの幼馴染だと、誰もが最強スペックの幼馴染が選ばれると考えるだろう。

当然俺の目の前にいる偽隼人もそう思っているはず。だからこそ、偽隼人に一方的な試合だと思わせないために先制攻撃が必要だった。


二つ目の理由は、クラスメイトからの認知度が明らかに低いこのモブキャラを目立たせるため。


さっきも言ったが、この勝負は明らかに俺よりも偽隼人が有利で、他の生徒たちは美優と偽隼人が絶対に結ばれると考えている。そうなると俺が戦うべき相手は目の前の偽隼人だけではなく、絶対に結ばれると思っているこのクラスの空気感も含まれる。


雰囲気は恋愛にとっては重要な要素。逆に言えば、周りからモブの俺が支持されればそれだけでアドバンテージになるだろう。


しかし、そもそもこのモブキャラは俺と美優どころか、ほとんどのクラスメイトにすら認知されていない。それは、今日学校に来た時のクラスメイト達の反応ですぐに分かった。だから俺は、悪目立ちでもいいから目立ちたかった。


とりあえず先制攻撃は出来た。

だがまだ足りない、俺は追加で爆弾を投下する。


「君島 隼人」


「なにかな、高橋君」


「お前、まだ美優とは付き合ってないんだよな」


「え?」


やはり偽隼人は、俺と美優がカップルでは無い事を知らなかったみたいだ。

教室にいた他のクラスメイト達も、その実を知らなかった為ざわつく。


さらに、俺は続ける。


「俺は美優の事が好きだ、だがお前はどうなんだ?本当に美優の事が好きなのか?好きだと言うなら今ここで、告白してみろ」


「お、俺は・・・・」


言えるはずがない。


なぜかって?


こいつがクラスメイトにすら認知されていないモブキャラだからだ。体が入れ替わったとしても、こいつの中に住み着いているモブキャラの性格は変わらない。隅っこに隠れ、周囲よりも一歩引き、決して自分の意見を述べない。その性格こそこいつの弱点であり、俺はその弱点を利用する。


ひどいと言われるかもしれないが、今の俺には余裕がない。

大好きな美優を取り返すためなら俺はなんだってする。

だから今は、こいつをとことん追い詰める。


「好きなのか好きじゃないのか、はっきりさせろ」


「おれは・・・・・」


周りのクラスメイト達に見られているこの状況で、偽隼人は何も言うことが出来なかった。そして、そんな様子を見ていたクラスメイト達は、更にざわつく。


「君島君って、カッコいいけどヘタレなのか・・・・」「なんか、あのモブの方がかっこよく見えて来たぞ・・・・」「私の中で君島君の好感度ガタ落ちしたわ・・・・・」「ちょっとダサいかも・・・・」


いいぞ、計画通りだ。


偽隼人は今にも逃げ出しそうだった。

これなら勝負するまでもなく、偽隼人のリタイアで勝てる。

俺は勝ちを確信した。


しかし、そこで思わぬ乱入が入る。


「やめて!」


美優だった。


彼女は俺と偽隼人の間に割り込むと、威圧するように俺を睨んだ。

その威圧に押され、俺は数歩下がる。


「確かに私と隼人はまだ付き合ってない。でも、私は隼人が好きだから」


それは、俺への最大威力のカウンターだった。

俺へのダメージもデカいが、何よりもクラスメイト達に見られているこの状況で、美優が偽隼人を選んだのが痛すぎる。これでは、また空気が偽隼人の方に吹いてしまう。


「如月さんが言ってるなら・・・・」「てか、君島君かわいそうじゃね?・・・・」「こんな状況なら、俺も告れねーよ・・・・」「あのモブ空気読めないのかよ・・・」


まずい、この状況は非常に不利だ。


どうする?どうすればいい・・・・


「高橋もかっこよかったじゃん」


この状況を打破したのは、ある女子生徒の一言だった。


確かあの子は、霧雨 紅葉きりさめ もみじ


白い素足が目立つ短いチェック柄のスカート。紺色のブレザーの中にグレーのパーカーを着込んでおり、クールな雰囲気を感じさせる。何よりも特徴的なのは名前にも入っている、紅葉のような赤髪。


その見た目が故に俺は彼女の名前を憶えていたが、彼女は普段物静かで、自分から目立とうとしない生徒だった。なので、彼女に助けられるとは思わなかった。


「もう行こ、隼人」


「う、うん」


霧雨の一言で場の空気は一気に冷め、何とかその場は収まった。


俺は大きく息を吐く。


危なかった。


恐らく霧雨の一言が無かったら、俺の敗北は決まっていたかもしれない。

いま俺の目には霧雨が神様の様に映っていた。


キーコーン、カーン、コーン。


教室にチャイムの音が鳴り響く。

気づくと時間はだいぶたっており、朝のホームルームがもうすぐ始まるため、多くの生徒が自分の席に戻っていく。


しかし、霧雨はじぶんの席では無く俺の方に近づいてきた。

そして、俺の耳元で呟く。


「今日の放課後、図書室に来て」







チャイムが鳴り、授業が終わる。


俺は霧雨の発言が気になったので彼女の方を見てみる。

霧雨は俺の視線に気づかないまま、リュックを背負い教室を後にした。


確か、図書室だったよな。


俺は急いで荷物をしまい、霧雨を追うために図書室へと向かう。


扉を開け図書室に入ると、端っこの席に座る霧雨の姿を見つけた。

俺は彼女の方へと近づく。


「きたんだ」


淡々とした口調で言われた。


「来て欲しいって言われたからな」


まさか、俺を呼んだ本人にそんな事を言われるとは思わなかった。


「ん」


彼女は横に座るようにと椅子を指さす。

口で言えばいいだろうと思いながらも、俺は霧雨の指示に素直に従い横に座る。

俺が横に座ったのを確認した彼女は、軽く微笑みこう言った。


「手伝ってあげようか?」




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クラスのモブキャラと体が入れ替わったので、俺にベタぼれだった幼馴染をもう一度惚れさせてみた。 よもぎ @sakurasakukoro22121

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