クラスのモブキャラと体が入れ替わったので、俺にベタぼれだった幼馴染をもう一度惚れさせてみた。
よもぎ
第1話 ハッピーエンドは予想外のルートへと突入して行く
「隼人大好き。世界で一番好き。隼人のそばから絶対離れないからね!!」
「俺だって美優の事が大好きだ」
「ほんとに?」
「本当だ。美優以上に俺は美優の事が好きだからな」
「私の方が隼人の事好きだもん!!」
頬を少し膨らませる美優。俺は優しく彼女の頭をなでる。
すると頭を撫でられ満足した美優は、満面の笑みで俺の腕に抱き着いてきた。
「あの二人本当にお似合いのカップルだよね」
廊下を歩いていると、周りからそんな声がちらほら聞こえる。
皆が言っている二人組とは、文武両道高身長でイケメンの俺
自分で言うのもあれだが、俺達は周りから見たら美男美女の理想的なカップルであり、しかも昔からの幼馴染という属性まで持った、まるでハッピーエンドが約束されたラブコメに出てくるような理想の男女なのだ。
だが一つだけ俺達の関係について訂正したいことがある。
それは俺達がまだカップルではないという事だ。
俺達はカップルではないが、美優は毎朝必ず俺の家に来ては俺と一緒に登校。その際は必ず手を繋いで歩く。
さらに昼飯は美優の手作りお弁当で、美優に食べさせてもらうこともしばしば。
下校後は俺の家で二人で一緒に過ごすという、カップル以上にカップルだと言ってもいい関係だ。
当然俺は美優の事を愛しているし彼女も俺にベタぼれしている。
だから付き合っていてもおかしくないのだが、ここまで来るとお互いもう付き合っているのではないかと錯覚してしまい、今更改めて告白する事ができなくなってしまった。
しかし今はそんなことを気にする必要はないだろう。
なぜらなば俺達のゴールは決められており、俺達はハッピーエンドを待つのみだから。
今日まで俺はそう思っていた。しかしあの事件が俺の運命を大きく変えた。
その事件は何気ない一日に唐突に起こった。それは授業終わりの放課後。
俺と美優はいつも通り一緒に帰ろうとしていた。
教室を出て昇降口に向かうために階段を降りようとした。
その時後ろから走ってきた男子生徒とぶつかってしまい俺とその男子生徒は階段から転げ落ち意識を失った。
「う、う・・・」
目覚めると俺はベットの上に居てそこは保健室だった。
周りを見渡し美優が近くにいないことに気づく。
俺はベットから急いで起き上がり、美優を探しに保健室の扉を開ける。
そこで、ちょうど戻ってきた美優と鉢合わせた。
「よかった、美優は特にケガしてないみたいだな」
「え?」
なんだか美優の反応がおかしい。
いつもよりよそよそしいと言うか困惑しているみたいだ。
「あの良かったらこれ」
美優は俺にペットボトルのお茶を渡す。
「ありがとう」
俺はそれを素直に受け取る。
「それじゃあ帰るか」
俺は美優の手を引き、帰ろうとした。
しかし、美優本人が動こうとしない。
「どうした?」
「あの私隼人と帰るので、手を離してもらってもいいですか」
美優は少し不機嫌そうにそう言った。
「何を言ってるんだ?隼人は俺だろ」
「意味わからない事言わないでください」
意味が分からないのは俺だ。
目の前に君島 隼人本人が居るというのに美優はなぜこんな態度を取っているのか。
そんなことを考えながらしばらく立ち尽くしていると、美優は強引に俺の手を振り離した。
「おい、美優」
「あの。気安く名前呼ばないで貰いますか?」
「え?いつも名前で呼び合ってるだろ。なのになんで今更」
「あなたの名前なんて知らないし呼んだこともないです」
状況がつかめず頭が混乱する。
その時、保健室のカーテンが動き別のベットで寝ていた生徒が起き上がった。
その生徒を見て俺は驚愕する。そこに立っていたのは俺自身だったのだ。
夢を見ているのか?
美優は心配そうに俺と見た目が瓜二つの生徒に近づく。
「大丈夫隼人?ケガとかしてない?」
「え?如月さん?」
「どうしたの隼人?なんだかいつもの隼人じゃないみたい」
「え、僕、君島君じゃないけど?」
「隼人は隼人じゃん?もしかして階段から落ちた衝撃で自分が誰だか分からなくなったの?」
俺は状況がわからず唖然としていた。しかも、俺と瓜二つの偽隼人自身も状況がつかめず混乱しているみたいだ。
偽隼人は混乱し室内をキョロキョロと見始め、そして俺と目が合った。
偽隼人がこちらの方に近づいて来る。しかし俺に声かけることなく、そのままどっかに行ってしまった。
「待ってよ隼人」
美優は偽隼人を追いかける形で保健室を出ていく。
状況は分からないがとりあえず俺は二人の後を追いかける。
二人の後を追うと、偽隼人は男子トイレの中に入っていった。
聞きたいことが沢山あったので、俺も偽隼人に続くようにトイレに入る。
俺はてっきり偽隼人は漏れそうになったから急いでトイレに駆け込んだと思っていたが、偽隼人は男子トイレの洗面台の前に立っていた。
偽隼人は鏡をジッと見つめていたのだ。俺は偽隼人が何者なのか知りたかったので声をかけようとした。しかし、そこで俺は鏡に映った自分と目が合う。正確には鏡には俺は映っていなかった。
何を言っているのか分からないかもしれない。しかし本当に俺は映っていなかったのだ。鏡に映っていたのは名前も知らないモブの様な見た目をした生徒だったのだ。
「やっぱりそうか」
偽隼人は何かをポツリとつぶやく。
「体が入れ替わったんだ」
「え?」
俺は驚きを隠せなかった。体が入れ替わる?そんなこと起こるはずがない。
でも状況的にそうとしか考えられない。俺の目の前には俺の姿をした偽隼人が立っていて、俺の見た目はモブに変わっていた。
なぜ体が入れ替わったのかどうすれば元の体に戻るのか、色々わからない事が多かったが俺達は一旦トイレを出た。
トイレを出ると美優がそこで待っていた。
美優はいま俺と偽隼人が入れ替わっていることを知らない。
だから一旦今の状況を美優に説明する必要がある。
「あのな美優・・・・」
「隼人かえろ」
俺が言い終える前に美優は偽隼人の腕に抱きつき、偽隼人の腕を引っ張り帰ろうとする。このままじゃまずい。そう思った俺は美優の腕を掴んだ。
「そいつは隼人じゃない、偽物だ。隼人は俺なんだ。だから・・・」
「やめて」
美優の低い声音が俺の言葉を止める。その声には明らかに嫌悪感が感じられた。
美優の顔を見てみると、美優は俺をにらみつけていた。
初めて美優から向けられるその視線と嫌悪感が入り混じった声。
ショックだった。だから俺はそれ以上何も言え無くて、美優の腕を離した。
「私の事はいくら侮辱してもいいけど、隼人の事を馬鹿にするのは許さない」
俺は美優に伝えたかった、そいつは俺じゃないと。
でも今の俺の言葉は美優には届かない。
俺は膝から崩れ落ちる。
そんな俺に構わずに美優は偽隼人の手を引き帰っていく。
帰り際、偽隼人がこちらの方を振り向き二ヤリと笑った。
そして、
「じゃあね高橋君」
そう言い残し帰っていった。
夕暮れの廊下。俺は壁を背にして廊下に一人座り込んでいた。
俺の中ではショック以上に怒りの感情が湧き上がっていた。
偽隼人に美優を取られた。しかも偽隼人は俺と体が入れ替わっていると知りながら、あえてそのことを美優に伝えなかった。
帰り際のあの言葉。
あれはもう自分の体には戻らないという事を意味していたのだろう。
こぶしを握り締める。
俺にはもう一つ許せないことがある。
それは俺が美優にあんな表情にさせた事。
世界で一番好きな女の子を傷つけた俺自身が許せなかった。
だから俺は握ったこぶしで、自分の顔面を一発ぶん殴った。
想像以上に痛かった。でも目は覚めた。
俺は誓う、美優を必ず取り戻すと。
「とりあえず帰るか」
てか体が入れ替わってるってことは自分の家には帰れないって事か?
偽隼人の家ってどこなんだ?
俺はとりあえず偽隼人が持っていた荷物を漁り何とか住所を割り出す。
今日はとりあえず偽隼人の家に行くか。
「ここか」
そこは普通のマンションだった。
住所は分かったが、結局偽隼人がどの部屋に住んでいるのか分からない。
「トト何ボーと突っ立てるのよ」
「・・・・」
「お母さんの事を無視するな」
思いっきり頭を叩かれる。
「もしかしてととって俺の事か?」
「そんな変わった名前あんた以外に誰が居るっていうんだよ」
どうやらこの人は偽隼人の母親で俺はトトという名前らしい。てか親が変な名前って言っちゃダメだろ、変な名前だとは思うけど。
「ほら早く入るわよ」
俺は偽隼人の母親に案内されるがまま中に入る。
「今から晩御飯作るから、先にお風呂入っておいで」
「・・・わかった」
いまの俺は高橋トトなんだし、とりあえずこの家で普通に過ごしてみるか。
お風呂に入りご飯を食べ、その日は眠りにつくことにした。
その日の夜、俺は考え事をしており眠れずにいた。
美優を取り戻す。だがそのためにはどうすればいいのか。
一番早いのは偽隼人に直接何が起こったのかを美優に説明してもらう事。
でも今日見た感じだとそれは無理だろう。
元の体に戻れたらいいんだが。どうやったら戻れるのか分からない以上その考えも一旦度外視したほうがいいか。戻れる可能性があるとすればもう一度偽隼人とぶつかる事だが、失敗したらまた美優を怒らせてしまう。
それだけは嫌なので却下だ。
だとすると・・・・
俺の考えは決まった。
次の日の朝。俺は急いで学校に向かった。
ある人物が来るのを待つために。
そして、目的の人物がやって来た。
「隼人今日のお弁当も頑張って作ったから楽しみにしててね」
「うん。楽しみにしてるよ」
彼女はいつも通り俺と一緒に登校してきた。まあ中身は偽物なんだが。
てかあの野郎美優とくっつきすぎだろ。絶対に許さないからな。
いかんいかん今はそんなことを考えている余裕なんてない。
怒りを抑え俺は美優に近づき大きく息を吸い込み宣言する。
「美優、俺はお前の事が好きだ。誰よりも愛してる。だから、お前をもう一度惚れさせてみせる」
いまの俺の言葉は美優には届かないだろう。
いまの俺が何と言おうが美優はそこにいる君島 隼人が偽物だと信じてはくれない。
ならば信じてもらえるぐらいの関係を築けばいい。
ではどうすれば信じてもらえるくらいの関係になれるのか。
俺がもう一度美優を惚れさせればいいのだ。
美優を惚れさせて、偽隼人以上の存在になれば俺の言葉は美優に届くはずだから。
こうして俺の決められていたハッピーエンドは予想外のルートへと突入していった。
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