第108話 二度目の襲撃
私は空さんと手を繋いだまま部屋まで戻り・・・と、どうやって帰ってきたのかはあまり覚えていません。久しぶりに二人きりで恋人同士として過ごせる時間が幸せ過ぎて移動すらもあっという間でした。
『おじゃまします・・・あ、ちがった』
部屋に入ると空さんは私の手を力強くひき、抱きしめてくれたのです。まるでこうして触れ合いたい気持ちが我慢できなくなったみたいに、少し余裕のない表情。腕の中の私に、空さんは優しく言います。
『ただいま』
「・・・ふふ、おかえりなさい」
何度も夢に見た。何度も妄想した。空さんとの素敵なやり取り。
抱きしめられた感覚に痛みも暖かさもないけれど、きっとそれは私が緊張し過ぎてなにもかもわからなくなっているからでしょう。ふわふわした夢見心地で、この世の全てがどうでもよくなるくらいに幸せで、天にも昇るような気持ち。
『ねぇ、うぐいすさん。俺、うぐいすさんの手料理が食べたいです』
「えっ?」
駄目ですか?と小首を傾げるちょっとあざとい空さん。とっても可愛いし愛おしいのですが、ちょっと違和感があるような気がします。
「あれ、でも、さっきあの女と食事を・・・」
『わがままですかね、すみません。前に作って貰ったオムライスが凄く美味しかったから・・・忘れられなくて』
しょんぼりとした顔になる空さん。
「そ、そっ」
きゅーん。と、自分の心臓が鷲掴みされてしまいます。そんなに可愛い事言われてしまったら駄目なんて言えるわけがありません。腕がちぎれるまでフライパン振り回しちゃいます。
「びょ、秒で作りますね!!」
『やった、ありがとうございます!』
優しくて、可愛くて、かっこよくて、紳士的だけど時々強引。いつでも私の事を一番に考えてくれるし、私の欲しい言葉を何でもくれる。
「あの、空さん」
『どうしたんですか?』
そんな空さんの事が、私は本当に。
「改めて言わせてください。私、空さんのことが本当に・・・」
―――バキバキバキバキィッ!!―――
突然鳴り響く、鈍い轟音。
―――バキッ・・・・・・ドゴッ―――
私はこの『襲撃』を一度経験している。咄嗟に扉の方へと視線を向けると、数か月前に修繕した筈の扉が勢いよく此方へと跳んできた。
『うぐいすさん! 危ない!!』
「きゃあっ!!?」
空さんに庇われる形でその場にしゃがみ、くの字にまがった私の部屋の扉は誰もいない空間へと落下した。廊下の明かりを逆光に、現れたのはあの時と同じ・・・深紅のマントを羽織ったあの女。
「・・・・・・蘇芳茜さん」
蘇芳さんは両刃の斧のような巨大な武器を構えたまま、土足で私の部屋に入り、恐怖でその場にへたり込んでいた私達を見下ろす。その姿は実物以上に大きく見えて、まるで世界をいつでも滅ぼすことができる魔王が目の前に降臨したかのような威圧感を放つ。
この女の目的、そんなのはわかっています。空さんを奪い返しに来たのでしょう。そうに違いありません。この女はどこまでいっても私達の愛を許してはくれる気はないようですから。
「と、扉の開け方も、御存じないのですか」
私はいつだって彼女の力に怯えていました。でも、今日は違う。恐怖で声が震えるのを必死で誤魔化して、その場に立ち上がり、手にギュッと力を込めて睨みつける。
もう誰にも空さんを渡したくない。暴力に何て屈しない。今度は私が空さんを守らないと、私を愛してくれた空さんの為にも。
「見ての通り、空さんと私は恋人同士水入らず。それはそれは仲睦まじく過ごしていました。貴女に何の権利があってそれを邪魔するのですか?」
逆上してくるかもしれない、でも逃げてばかりはいられない。私が空さんと幸せになるためにはこの障害は二人の愛の力で乗り越えないといけないのです!
「そそそっ、空さんは渡しません! 愛し合う私達の気持ちを無視して自らの欲を叶えようと言うなら・・・私を、このフィランスグリーンを倒してからにしなさい!!」
腕を大きく広げて、空さんの前に立つ。彼女の前に、立ちはだかる。
空さんは不安そうに私の事を見ていることでしょう。私だって不安でいっぱいです、怖いです。泣きたいです。半分泣いてます。でも、彼女への恐怖に負けて空さんを奪われるくらいなら死んだ方がマシです!
「そこに、空がいるのか」
蘇芳さんは、一瞬だけ私の背後に視線を向けてから、そう尋ねてきました。
「へ?」
意味の解らない質問。予想外の言葉に、思わず振り返る。そこには私と同じように驚いた表情の空さん。
「な、なにを言って・・・?」
「悪いが、時間が無い」
すると、彼女は大きな刃が光る武器を振り上げた。
―――ザンッ―――
そして、それは私の背後へと、振り下ろされたのでした。
「空を取り返しに行く。協力しろ、グリーン」
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