新婚生活!? 闘えヒーロー、その座をかけて!!

第61話 プロポーズの結果


 *

「あれ? 今日そっちなんだ」

 大学の帰り道、いつもと反対側のホームに向かう俺に、友人の伊崎が興味なさげに声をかけた。


「あぁ。えっと・・・」

 俺がヒーロー基地に出勤するのは休日が殆どだ。他のヒーローと違って出動命令もないし、二時間もあれば終わる博士とのミーティングや在中しているヒーロー達に声をかけに行く事が主な仕事なので、時間の無い平日にわざわざ行く必要がない。ついでに大学から見て家と反対方面にあるので単純に時間がかかる。

 だけど、今日はどうしても学校帰りに急いで寄る必要があった。

「今日バイトだから」

 当然だが、俺がフィランスブルーだという事は秘密だ。紫雲堂は傍から見たらただの寂れた古本屋だし、その地下に戦隊ヒーローの基地がある事は絶対にバレてはいけない。

 とりあえずバイトという事にでもしておけば、今後帰路とは逆の方へ向かってもなんとも思われないだろう。心配性な彼女でもいない限りは本当にバイトに行っているのかと勘繰られる心配は無いからな。

「へぇ、バイト始めたんだ」

 既にソシャゲーのキャラボックス画面が開かれたスマホを注視している友人に、駅のホームでながら歩きは良くないと思いつつも、俺への興味の無さに安堵する。

「何のバイト?」

 どうでもいいと思っているのは見え見えだが、一応社交辞令で聞き返してくる伊崎。

「えっと、駐車場の整備する人」

 ここでコンビニとかファミレスと答えると何かの気まぐれで遊びに来られる可能性があるからな、しっかりと興味をそいでおこう。見ても楽しくない且つマイナー過ぎないバイト先がベストだ。

「なんだ、コンビニとかなら売り上げ貢献に行ってやろうと思ったのに」

「別に売り上げが良くてもバイト代は変わらないんじゃないか?」

 駐車場で働いていると言えば車を持っていない友人達は来られないし、万が一来たとしても広いから別の所にいたと言い訳がたつ。フィランスブルーに就任した頃に、いつか機会があるだろうと思って考えていた嘘が役に立ちそうでよかった。よく考えたら桃は毎日こんな風に嘘を交えながら日常生活を送っているんだろうな、大変そうだ。

「お、電車来たな。じゃあな、バイト頑張れー」


 手をひらひらと振って電車に乗り込む友人を見送った後、俺は確認のためにLINEを開いた。

『明後日には退院できるそうです』

 二日前の夜中に届いた鶯さんからのメッセージ。淡泊だがその後に『午前中には手続きが終わって家に帰れるので、学校が終わったら絶対に来てください』と強い圧を感じる追撃が来たのでスルーはできない。


 あの山奥での一件から約二週間が経ち、連日続いていた雨が嘘のように暑苦しさが襲ってくる日々となった。日に日に更新される今年最高の平均気温に反比例してフィランスイエローが土砂災害復旧作業に大きく貢献したというニュースの頻度も減っていたが、向日葵とはあれから会えていない。

 二週間前のあの時、俺は瀕死の鶯さんに対して大きな賭けに出て、それに勝利した。桃の提案通り鶯さんに愛を囁くことで彼女自身の治癒能力を活性化させることが出来たのだ。ただ問題は、その時の言葉が言い訳の付かないほどにハッキリとしたプロポーズだということだ。

 ただの愛の言葉では鶯さんは目を覚まさず、より強力に彼女の胸に響く言葉を探した結果、俺が思い出したのは博士の発明で見た未来予知だった。

 鶯さんとの未来で俺が言っていた『勝手に俺と夫婦だと言い張っていた』という言葉、そして向日葵や桃の未来予知と違って明確に夫婦関係だった事から、鶯さんは結婚に強い憧れを持っているという仮説が浮かんだ。


 恋人ではなく夫としての言葉なら生死を彷徨う鶯さんに届くかもしれないと思い、俺は半分やけくそにプロポーズをした。あの時は今後の問題よりも目の前の彼女を助けたい一心だったし、俺の言葉にうるんだ眼を開いて「嬉しい・・・」と目覚めてくれた鶯さんを思わず抱きしめてしまったものだが、今考えれば俺はとんでもない判断をしてしまったと思っている。

 ただの嘘告白でも最低なのに、その気がない相手にプロポーズするなんて、非道も良いところだ。


 無事意識を取り戻した鶯さんは直ぐに長期入院し、スマホも壊れてしまった為、新しい物を買う最近まで連絡を取ることが出来なかった。せめて見舞いに行きたいと博士に打診してみたが、鶯さんの入院先はヒーロー活動に賛同してくれている出資者が特別に部屋を設けてくれたらしく、病院内でも一部の人間しか出入りさせないVIP扱いだそうだ。

 そもそも関東圏内に無いし、一般人の俺が出入りすることで外部に情報が漏れる危険性もあるので入院先すら教えてもらえなかった。

 そんなわけで、俺はまだ鶯さんにプロポーズの訂正をしていないし、どう立ち振る舞うかも決めていない。

「嘘でした、なんて言ったら怒られるじゃすまないよな・・・」

 午前中に退院するから学校終わりに部屋に来て欲しいとだけ言われたが、会ってどんな話をすればいいんだろう。竜胆博士はグリーンが休んだ穴を埋めるために忙しいのか、報告と簡単な指示をくれただけで時間をとった相談が出来ていない。とりあえずプロポーズの件を否定するのはまだ辞めてくれと言われているけれど、否定せずにいたらどんどん取り返しのつかない方向に転がっていくんじゃないかという懸念しかない。


「俺にプロポーズされたと思ってるんだよなぁ、鶯さん」

 思った、というより実際にしたのだけど。

 それに、「嬉しい」って返事をしたってことはやっぱり鶯さんは俺のこと本気で好きってことだよな。「嬉しいけどごめんなさい」だったら少し悲しい気持ちになるけど俺の悩みは全部解決するが、多分それはない。

「こんな俺なんかと結婚したいって思ってくれた女性がいるってことか・・・」

 なんだか実感が沸かないし、まだ勘違いとか自惚れかもしれないと言い張る俺もいる。


 と、うだうだと考えているうちにあっという間に目的地に到着してしまった。


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