エピローグ

==============================================


アーノルドの企てをジャックが阻み、ニキの父親の名誉は守られた。ジャックはニキとエリザベスとで新たな家族をつくろうとプロポーズする。


==============================================



「ニキ、大丈夫か?」

 ジャックに声をかけられて、ニキははっとした。いつのまにかオフィスには二人だけになっていた。ジャックがアーノルドを押さえ込んでからは、あっという間の出来事だった。警官が何人か入ってきたこと、そしてマリア・デル・リエゴから何か話しかけられたことはおぼえている。けれども、すべてがまるで夢の中で起きていることのようだった。

「ジャック……よくわからないの……」

 呆然とニキがつぶやく。

「ああ、今は無理に考えようとしなくていい。すべて片付いたんだ」

 ジャックはニキをそっと抱きしめた。彼の腕の中にいると、少しずつ気分が落ち着き、緊張がゆるんでくる。安堵が体に満ちて、ニキの目から涙がこぼれ落ちた。

「ジャック……アーノルドがナイフを出したとき、生きた心地がしなかった。もしあなたにもしものことがあったら……」

「僕は下町育ちだからな。荒っぽいけんかには慣れている」

「でも、でも……本当に無事でよかった」

「ああ。僕もそう思う。それにきみがけがをしなくてよかった」

 ニキもジャックの体に腕を回し、お互いのぬくもりをたしかめあう。

 やがてジャックがぽつりと言った。

「ニキ、きみはやはり女優には向かないな」

「え?」

「一世一代の名演技のつもりだったかもしれないが……。僕がきみの本心を見抜けないとでも思ったのかい?」

 やさしくささやかれて、ニキの胸に熱いものがさらにこみあげる。

「ジャック、私はあなたが利用されるのだけはいやだったの」

「ああ。だからうちを出るなんて言ったんだろう? 僕を悪質な犯罪組織と関わらせないために」

「ええ。アーノルドだって、私を利用してあなたからお金を……」

「そうだな。きみは僕を守ろうとしてくれたんだ」

「でも、あなたのほうがずっと上手だったのね。いつのまにあの女性の存在を見つけてくれたの?」

「ああ、新聞に記事が出たあと少し調べたんだ。身元調査のようなことをしたのは悪いと思っている。しかしそれはきみを信用していなかったからじゃない。真実を突き止めて、きみの不安を取りのぞきたい一心だった」

「大事な子どもを預けるんですもの。少しでもあやしいことがあれば調べるのが当然よ。それに、調べてくれたからこそ、父の名誉も守られたわ」

「マリアがさっき言っていた。幸いだまし取られた金が戻り、二年以内には最初の学校がオープンできるらしい。ニコラス・プレストンが大きな力になってくれたことも、世間に発表されるだろう」

 ニキは顔をあげてジャックの目を見つめて言った。

「父の名誉が回復するのはうれしいわ。でも、私はあなたが知っていてくれさえすればいいの」

 ジャックもいとおしそうにニキを見つめる。

「ニキ、他の誰が知らなくても、僕だけは知っている。きみのお父さんは、強くてやさしくて偉大な父親だ」

「ありがとう。私はそれでじゅうぶん満足よ」

 ジャックはニキの体に回した腕に力をこめ、そっと髪をなでた。

「ニキ、きみに渡したいものがある」

「え?」

 ジャックは腕を放してポケットから小さな箱を取りだし、ニキの目の前でふたを開いた。中には大粒のサファイアがついた指輪があった。小さなダイヤに囲まれて、その青い宝石は美しい輝きを放っている。ニキの胸は高鳴った。

「僕と結婚してくれ。できればすぐにでも」

そう言ってジャックはニキの目をじっと見つめた。

「僕は欲しいものはほとんど手に入れた。でも愛する人がいなければ、そんなものはなんの意味もないと気づいたんだ。あの島だって、きみやエリザベスやエドワードたちがいるからこそ行く価値がある」

「ジャック。本当に私でいいの?」

「他の誰かじゃだめなんだ。僕はきみと結婚したい。そして一緒にエリザベスを育ててほしい。きみとなら、あの子のいい父親と母親になれると思うんだ」

「ジャック……」

すぐに言葉が出てこない。

「ええ、ええ、もちろん喜んで。エリザベスを大切に育てて行きたいわ」

「ニキ、愛しているよ。もちろん、僕らの子どもも生まれるだろう。そして、何があってもきみとなら必ず幸せになれる」

「ええ、私もそう思うわ。誰よりもあなたを愛してる」

「もう決して離さない。僕らはずっと一緒だ」

 二人はしっかりと抱き合い、熱い口づけをかわした。


―― 完 ――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【漫画原作】恋は翼に乗って ― Fly Me to Your Island ― スイートミモザブックス @Sweetmimosabooks_1

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ