エピローグ
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アーノルドの企てをジャックが阻み、ニキの父親の名誉は守られた。ジャックはニキとエリザベスとで新たな家族をつくろうとプロポーズする。
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「ニキ、大丈夫か?」
ジャックに声をかけられて、ニキははっとした。いつのまにかオフィスには二人だけになっていた。ジャックがアーノルドを押さえ込んでからは、あっという間の出来事だった。警官が何人か入ってきたこと、そしてマリア・デル・リエゴから何か話しかけられたことはおぼえている。けれども、すべてがまるで夢の中で起きていることのようだった。
「ジャック……よくわからないの……」
呆然とニキがつぶやく。
「ああ、今は無理に考えようとしなくていい。すべて片付いたんだ」
ジャックはニキをそっと抱きしめた。彼の腕の中にいると、少しずつ気分が落ち着き、緊張がゆるんでくる。安堵が体に満ちて、ニキの目から涙がこぼれ落ちた。
「ジャック……アーノルドがナイフを出したとき、生きた心地がしなかった。もしあなたにもしものことがあったら……」
「僕は下町育ちだからな。荒っぽいけんかには慣れている」
「でも、でも……本当に無事でよかった」
「ああ。僕もそう思う。それにきみがけがをしなくてよかった」
ニキもジャックの体に腕を回し、お互いのぬくもりをたしかめあう。
やがてジャックがぽつりと言った。
「ニキ、きみはやはり女優には向かないな」
「え?」
「一世一代の名演技のつもりだったかもしれないが……。僕がきみの本心を見抜けないとでも思ったのかい?」
やさしくささやかれて、ニキの胸に熱いものがさらにこみあげる。
「ジャック、私はあなたが利用されるのだけはいやだったの」
「ああ。だからうちを出るなんて言ったんだろう? 僕を悪質な犯罪組織と関わらせないために」
「ええ。アーノルドだって、私を利用してあなたからお金を……」
「そうだな。きみは僕を守ろうとしてくれたんだ」
「でも、あなたのほうがずっと上手だったのね。いつのまにあの女性の存在を見つけてくれたの?」
「ああ、新聞に記事が出たあと少し調べたんだ。身元調査のようなことをしたのは悪いと思っている。しかしそれはきみを信用していなかったからじゃない。真実を突き止めて、きみの不安を取りのぞきたい一心だった」
「大事な子どもを預けるんですもの。少しでもあやしいことがあれば調べるのが当然よ。それに、調べてくれたからこそ、父の名誉も守られたわ」
「マリアがさっき言っていた。幸いだまし取られた金が戻り、二年以内には最初の学校がオープンできるらしい。ニコラス・プレストンが大きな力になってくれたことも、世間に発表されるだろう」
ニキは顔をあげてジャックの目を見つめて言った。
「父の名誉が回復するのはうれしいわ。でも、私はあなたが知っていてくれさえすればいいの」
ジャックもいとおしそうにニキを見つめる。
「ニキ、他の誰が知らなくても、僕だけは知っている。きみのお父さんは、強くてやさしくて偉大な父親だ」
「ありがとう。私はそれでじゅうぶん満足よ」
ジャックはニキの体に回した腕に力をこめ、そっと髪をなでた。
「ニキ、きみに渡したいものがある」
「え?」
ジャックは腕を放してポケットから小さな箱を取りだし、ニキの目の前でふたを開いた。中には大粒のサファイアがついた指輪があった。小さなダイヤに囲まれて、その青い宝石は美しい輝きを放っている。ニキの胸は高鳴った。
「僕と結婚してくれ。できればすぐにでも」
そう言ってジャックはニキの目をじっと見つめた。
「僕は欲しいものはほとんど手に入れた。でも愛する人がいなければ、そんなものはなんの意味もないと気づいたんだ。あの島だって、きみやエリザベスやエドワードたちがいるからこそ行く価値がある」
「ジャック。本当に私でいいの?」
「他の誰かじゃだめなんだ。僕はきみと結婚したい。そして一緒にエリザベスを育ててほしい。きみとなら、あの子のいい父親と母親になれると思うんだ」
「ジャック……」
すぐに言葉が出てこない。
「ええ、ええ、もちろん喜んで。エリザベスを大切に育てて行きたいわ」
「ニキ、愛しているよ。もちろん、僕らの子どもも生まれるだろう。そして、何があってもきみとなら必ず幸せになれる」
「ええ、私もそう思うわ。誰よりもあなたを愛してる」
「もう決して離さない。僕らはずっと一緒だ」
二人はしっかりと抱き合い、熱い口づけをかわした。
―― 完 ――
【漫画原作】恋は翼に乗って ― Fly Me to Your Island ― スイートミモザブックス @Sweetmimosabooks_1
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