第16話 星空の下の誓い

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ジャックが所有する島はまさにジャックの夢が詰まった島だった。そこでニキはジャックの愛を確かめ、自分の気持ちもジャックに伝える。降るような星空の下の海で、二人は愛し合う……。


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 母屋の海をのぞむテラスには、テーブルがしつらえられていた。そこから階段を下りると芝生が敷いてある小さな裏庭へ出る。ところどころに草花が植えられていて、自宅と同じく自然を生かすイングリッシュガーデンの趣だ。

 ベッキーとニキがシャワーを浴びて、身じたくを整えている間、男性と子供たちは芝生でボールを蹴って遊んでいた。

七時近くになって海に夕日が沈み始めると、誰もがその美しさに言葉を失った。自分たちだけでこんな雄大な風景を独占できるなんて、なんてぜいたくなのだろう。

「これはすばらしい。砂浜も人工的につくったわけじゃなく、自然にあったものなんだろう? よくこんな島を見つけたものだな」

 エドワードが感嘆して言った。

「ああ。砂浜に人間の手はまったく入っていない。しかし、もともとは何もなかった島だ。電気、水、車が走れる道。二年かけてようやくここまで来た。並大抵のことじゃなかったよ」

 そういいながらも、ジャックはとても楽しそうだ。

 テラスでの食事もすばらしかった。家の中からもれてくる明かりのほかは、控えめなフットライトに囲まれ、テーブルのキャンドルの炎が照らす光と、遠くに見える対岸の街の明かり。それが星のまたたく夜空に溶け込んでいる。降るような星空――都会育ちのニキは、その言葉の意味を初めて理解できた気がした。

フルート型のグラスにつがれたシャンパンから泡が立ちのぼっている。

「〈エスペランサ〉の乗っ取り阻止を祝って」

 ジャックがグラスを上げると、エドワードが口をはさむ。

「ジャックとニキの未来にも乾杯しよう──で、いいのかな?」

 ニキは思わずジャックの顔を見た。彼はあたりまえのようにうなずいた。

「ああ、頼む」

 そう言ってニキを見て、やさしい笑顔を浮かべた。エリザベスとシェリルは、意味がわかっていないのか、たっぷり遊んで疲れていたのか、きょとんとしていたが、何も言わずにジュースの入ったグラスをかちりとぶつけた。

乾杯のあとの食事もすばらしいものだった。二人のメイドがかわるがわる運んでくる目にも鮮やかなオードブル、優美に盛りつけられた肉料理。見ているだけで気持ちが満たされる。そして味も見た目を裏切らない。

人に給仕をしてもらうなんて、何年ぶりかしら。父が亡くなってから、外食はめったにしていない。行くとしてもファストフードか、せいぜい庶民的なダイナーだった。

「ニキ、そのドレスはシャンパンの色とおそろいね。ゴージャスできれいだわ」ベッキーが目ざとくニキのドレスに気づいて言った。

キャサリンが見立ててくれたというドレスは、ホルターネックで肩と背中が大きく開いている。裾にかけて三段に切り替えが入り、フリルがやわらかく揺れる。ハイスクールのころ、大人になったらこんなドレスを着たいと思っていた。今の私は、これが似合う女性になれたのだろうか。

「ありがとう。これはジャックが贈ってくれたの」

「彼女に似合うゴージャスなものを選んでもらったんだ」

ジャックがさらりと言った。

「あら、ジャック。いつのまにそんな気のきいたこと言えるようになったの? あなたときたら、ジェット機や島を買うことに夢中で、女性に対して細やかな心配りなんてできないと思っていたのに」

「人は成長するさ」ジャックは言って、ニキの目を見つめる。「エリザベスとニキが僕を変えてくれたんだ」

 ニキはどぎまぎした。顔がほてって赤くなっているのが自分でもわかる。

「本当にすごい進歩だな」

エドワードが笑いながら言う。


 デザートのチョコレートケーキを食べ終わるころには、エリザベスとシェリルは黙り込み、今にも眠ってしまいそうだった。

「子供たちは限界ね」

「じゃあ、僕らはコテージに引き上げるか」

 エドワードが立ち上がった。ニキも立ってエリザベスを抱き上げようとすると、エドワードがその前に立ちふさがった。

「エリザベスは僕らにまかせてくれ。きょうは僕らのコテージで寝かせるよ。きみらはまだゆっくりしていればいい。話すことは山ほどあるだろう?」

「エドワード……」

「気がきくじゃないか」

 座ったままジャックが笑う。

「きっとこうなると思っていたよ」

エドワードがシェリルを抱き上げる。エリザベスは使用人を呼んで運ばせる。

「じゃあ、おやすみ。貴重な時間をむだにするなよ」

 エドワードはニキにウィンクすると、コテージへと向かった。

 彼らが行ってしまうと、ニキは急に緊張した。いきなりこんな状況になったら、ふつうにふるまうのがむずかしい。

「ニキ、ちょっと歩かないか?」

 よかった。ジャックの言葉にニキはほっとした。立ち上がってテラスから、ビーチへと出ていく。月明かりと家からもれる明りで、かろうじて相手の顔が見えるくらいだ。

 二人でビーチに流れ着いた流木に腰をかけた。

「ここは本当にすてきなところだわ。連れてきてくれてありがとう」

「子供のころからの夢だったんだ。大人になって大金持ちになったら、まずは自家用ジェット機を買う。そして自分だけの島を持ちたいと思っていた」

「これほどの夢をかなえるなんて、すばらしい努力のたまものね」

ジャックの顔が近づいてくる。ゆっくりと唇を吸われて、ニキは陶然とした。

「ジャック……まるで夢みたい」

頭がぼうっとしてまるで現実感がない。そんなニキを見て、ジャックがいとしそうにほほ笑みかける。

 ジャックがニキの肩を引き寄せ、目元に軽いキスをする。そしてささやいた。

「ニキ、もう一度、泳ぎたくないかい?」

「え? 今?」

「ああ」

 ジャックの目が、またいたずらっぽく光るのを見て、ニキの顔が大きくほころぶ。

「ええ、もちろんよ」

 ジャックは急いでシャツを脱ぎ捨て、スラックスと一緒に下着も取り去った。そしてニキの体に腕を回し、背中のファスナーをおろす。ニキが腕を袖から抜くと、ワンピースは自然に下に落ちた。ジャックはまぶしそうに彼女の体を見ると、目をそらして海へ向かって駆け出した。ニキも彼のあとを追いかける。

 波は穏やかに砂浜に打ちつけている。蒸し暑い夜なので、水の冷たさが心地よい。水をかきわけて腰の深さのところまで来ると、ジャックはニキの腕を引いて倒れこみ、水の中でニキを抱きしめた。

「昼間、海の中で、きみが欲しくてたまらなかった」

「ええ、知っていたわ」

「もう今なら誰もいない」

 ジャックは彼女に深く口づけ、舌を絡ませた。大きな手にふれられた背中から、ニキの体全体に燃えるような熱が広がった。ふわふわと水に浮きながら、ジャックはブラジャーのホックをはずして、そのまま手をニキの体の前に回し、そのふくらみを包み込んだ。

 胸の先をジャックの指がかすめると、ニキは震えた。彼の唇が首筋から肩に降りてくる。ニキはジャックの頭を抱えこみ、背中をそらせた。足がふわりと地面から持ち上がる。不安定な姿勢なのに、ジャックの手はニキの体をしっかりと支え、自分の体のそばにつなぎとめている。ジャックの手が腰から太腿の間をさまよい、いつのまにかショーツも取り去られ、素肌に指が直接触れる感触に、ニキは思わずうめき声をあげた。

「ああ、ジャック……」

「ニキ、愛している。もう離れたくない」

 ひときわ強く抱きしめられて、ジャックが中に入ってくる。満天の星空を仰ぎながらニキは彼を受け入れ、強く体を彼の胸に押しつける。二人同時に絶頂に達した瞬間、まるで宇宙の高みへと昇りつめる浮遊感を味わった。

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