数時間前

 自分はどうも、わけもわからず友人の乱闘に巻き込まれてしまったらしい。

 元々カタギではないのだろうなと冗談のように思っていたけれど、それが真実だとは知りたくなかった。

 自分の友人がたった一人で相手にしているのはでかい銃を構える占い師風の美女と二丁拳銃を使うスーツの女と刀を振り回す武士風の女。

 ここでじっとしていろと言われたから動かずにいるけれど、少しでも動いたら多分流れ弾で死ぬと思う。

 ああ、どうしようなんか今友人に吹っ飛ばされたスーツさんの拳銃がこっちに転がってきたんだけど。

 友人がどんな手品を使ったのかスーツさんを仕留めた直後に武士さんの背後に回って、その喉笛にナイフの刃を――

 動きが止まった、どうしたのだろうかと思った直後に今更のように自分に向けられた殺意に気付く。

 占い屋さんが自分に銃の銃口を向けていた。

 どうやら友人と占い屋さんは同時にそれぞれに対する人質をとったようである。

 これはきっと後ですごく怒られる。

 お前のせいでしくじったと詰られる。

 いや待った、私は友人のことが大好きだけど多分友人は私のことを好いてはいない、というか多分鬱陶しいと思ってる。

 ならこんな状況はすぐに、私の頭蓋に穴が開いて終わるのだろう。

 と思っていたのだけど、五秒、十秒と沈黙と膠着状態が続く。

 これは面倒なことになった、切り捨ててはくれないらしい。

 それは少し嬉しいけれど、何かがどうにかなったら、その後に絶対に怒られる。

 こいつの声は好きだけど、怒った声は嫌いだから聞きたくない、できれば怒った顔も見たくない。

 だから、死人に耳なしということで。

 死体相手にならいくらでも罵ってもらって構わないから。

「なるほど」

 と、だけ呟いて、私は現状を打開するために転がってきた拳銃の銃身を口の中に突っ込んだのだった。

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