┣ 2.6_間話
どっと疲れ、大きなため息をつきながら、藍野はエレベーターに乗り込んだ。
(全くもうアイツらは……。俺、教育方針間違えたかなぁ……)
一応、上昇志向の杜山は厳し目できっちりと叩き込み、萎縮しやすい紫藤は注意する場合、注意する数だけ褒めると、二人の個性に合わせて指導したのに、その結果がこれだ。
幸い新チームの件をちらつかせたら手を組んでくれたようだが、頭が痛い限りである。
4課フロアは警護員フロアと同じような造りだが、あちこちに人がいて各自PCで作業したり、打ち合わせをしていたりとこちらはざわめきと活気がある。
ここはメンバーが大体固定で座っており、藍野はいつも紅谷の座っている場所に向かった。
紅谷は資料を広げ、サブモニターをつないだノートPCで何かプログラムを組んでいるようだった。
「紅谷! 極秘案件の話、今いいか?」
「ああ。今回お前がリーダー?」
「そう。4課の会議室どっか空いてる?」
「“
4課の“檻”、入れる者には主任以上の許可がいる、日本支部のサーバールームだ。
分厚い防弾仕様のガラス越しに檻のような網目が見えることから、社内では通称“ 檻”と呼ばれていた。
入室には社員証を通すので、入室記録も取られ、内側からは鍵もかかるので、内緒話にはうってつけの場所だ。
ただしサーバーやスパコンの排熱のため、室温は常時低く設定されており、人間には少し寒く感じるのが難点だった。
「構わないよ。メイちゃんとファリンさんは今、里帰り出産で香港だっけ。元気?」
「ああ、元気そうだよ。ファリンも実家でのんびりできてるようだし、メイは久しぶりにおじいちゃんとおばあちゃんに会って喜んでるよ」
ほんの少しだけ寂しさの混じった口調の紅谷に、身長差を利用して紅谷の首に自分の右腕を巻き付け、空いた左手で小さな子のように頭を撫でまわす。
「そうか、そうか。じゃあ寂しいのはパパだけか。お前もリモート勤務で一緒に行けば良かったのに。俺が今日、お前ん家に行ってやろうか? んー?」
「いらん。羨ましかったらお前も早く結婚しろ。掃き溜めの主め」
紅谷はめんどくさそうに絡まれた藍野の腕を払いのけた。
「おやおや、パパはご機嫌ななめですねぇ」
ニヤニヤしながら、藍野は払いのけられた腕をひっこめた。
「ホントお前は……精神年齢はメイ以下の子供だな。紫藤と気が合って結構な事だ」
「うっ。それ、ひっどい言い方。それって俺も紫藤もメイちゃん並みってことじゃん!」
藍野は言い返しつつ、サーバールーム前のロッカーにスマホやタブレット、ペンなどを預け、紅谷もスマホとペンを一緒に預け、鍵をかけた。
「違う。メイ以下だ。むしろメイの方が、他人にちゃんと気遣いと配慮のできる子だぞ」
紅谷は不憫そうに藍野に言った。
「お前達、哀れだな。5歳の子供にすら負けてるなんて」
せいぜい精進しろよと紅谷は実に同情に満ち満ちた目線とアドバイスを贈った。
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