┣ 2.5_引継
藍野達が揃って会議室に入ると、既に紫藤が座ってPCを開いていた。
C会議室は椅子が4脚と会議机程度の小さな部屋だ。
奥の椅子で紫藤は何やら真剣な顔で何かを入力していた。
ドアが開けられ、気が付いて紫藤は目線を上げた。
「藍野先輩、遅いです……って何で杜山先輩がいるんですか!?」
杜山は紫藤の隣に座り、藍野は紫藤の前に座った。
藍野と杜山、二人は顔を見合わせてから、藍野はぱんっと両手を合わせて頭を下げた。
「早速だがな……紫藤悪い。お前の指導、外れる事になった!」
「えーっ! じゃボクの実地研修は!!」
「今日から杜山に変更、高坂様の護衛は杜山と入ってくれ」
「そんなぁ……ボクのエスコートライセンスがぁ……」
遠くなったと紫藤は目に見えてしょげ返ってしまった。
実地研修で1課の杜山に当たれば、合格どころか再訓練を命じられる率も高いと新入りの間では鬼教官ぶりが噂されていた。
もちろん藍野も知っていて、案件統括として仲裁に呼ばれたこともあったが、大抵、杜山の言い分が正しかった。
正しいが、正しさだけが人を育てるわけではない。
紫藤を通して杜山に伝えるいい機会かもしれないと、藍野は二人に向き直った。
「あのな紫藤、杜山は悪い奴じゃない。ただ他より基準がちょーーっと厳しいだけだから。杜山の指摘にはちゃんと理由があって、それはいずれお前の土台になる。ライセンス取ってお前がリーダーになってチームを動かす時に、その厳しさと学んだ事を後輩の為に役立てろ」
「杜山もな、短所ばっかりじゃなく、長所も指摘して指導してやれ。昔の偉い人も言ってただろう。『ほめてやらねば、人は動かじ』って。お前は大抵正しいが、圧倒的に言葉と配慮が足りないんだよ。態度や行動だけじゃ後輩に誤解されて伝わらないぞ? 理解してもらえるよう、言葉を惜しむな」
「それにな紫藤、詩織様なら護衛慣れしてるし、多少の粗相は見逃してくれる優しい人だ。あまり気負わなくてもいいから楽だぞ」
「まーた先輩はそうやって新入りを甘やかす。不十分なまま別の依頼人に対応失敗して困るのは紫藤ですよ!」
「ほら杜山。さっきも言ったろ?お前は配慮が足りないって。女の子に向ける優しさの10分の1でいいから、紫藤に分けてやれよ」
「僕は男に分ける優しさなんて持ち合わせていません!」
杜山は、つーんと絵に書いたようなそっぽを向き、
「ボクだってお情けでエスコート取るほど落ちぶれていませんよーだ!」
これまた絵に書いたようなあかんべーで紫藤は応酬した。
「お・ま・え・は……。だから、その口の利き方! 何度言ったら理解するんだよ!!」
杜山は両手で紫藤のほっぺたをグイグイ引っ張った。
「杜山先輩、痛いです! 後輩いじめだぁ。案件統括、止めてくださいよ!」
「くぉーーら……お前ら。いい加減にしろよ……」
手に持ったタッチペンをへし折りそうな様子で発せられる地の底を這うような低い声で藍野は言った。
杜山にとっては久しぶりの、紫藤にとっては初めての氷点下声に二人の背筋が伸びた。
「二人とも高坂様の案件終了したら、俺のチームに呼ぶ予定なんだよ。頼むから協力してさっさと研修終わらせてくれ。特に紫藤、お前は必ずエスコート合格取ってこい。じゃないと呼べないぞ」
「先輩の案件って確か……」
「黒崎部長の極秘案件ですよね?」
紫藤と杜山は顔を見合わせて、お互いの言いたい事を一瞬ですり合わせ、一時休戦を結んだ。
「二人とも返事は?」
「「やらせてください!」」
「じゃあ紫藤、警護計画出して。チェックするから」
紫藤が作成した警護計画をチェックして、二人を送り出した時にはもう昼食直前になっていた。
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