契約式とお披露目

 明けて青の1の月、今日は私の結婚式です。

 こっちでは契約式と言うそうですが。


 契約式と言っても本番は真似事だけで、既に契約済みです。

 本番で契約したからといって、ドレスまで勝手に縮んだり伸びたりはしてくれないからね。

 これは25歳モードに合わせてもらいました。


 結婚式だからなんかこう、厳かな気分とかお嫁に行く寂しさとかを感じるのかと思いましたが、そんなものを感じるヒマはありません。

 式は夕方だというのに朝から風呂に放り込まれ、マッサージと髪や顔に何やら塗り込まれて全身ピッカピカにされました。

 これアレだ。ブライダルエステだわ。

 用意されたドレスを着付けされ、メイクされ、髪も上げて何やらティアラっぽいのもつけられた。

 ここまで来るとコスプレというより、本格舞台衣装みたいだ。


「とてもお美しくていらっしゃいますよ、ハルナ様」


 着付けをしてくれた侍女が全身の写る鏡を私の前に置いた。


「うわぁ……別人みたいだぁ」


 25歳モードでも消えなかった目の下の頑固なクマもここ最近の規則正しい生活と魔力水パックで消え、顔のむくみもマッサージで消えた。

 ドレスは養女になっていたグリューネヴァルト家のカラーに合わせた、偶然にも白いドレス。

 王家の象徴が青の月なら、グリューネヴァルト家の象徴が白の月なんだそう。

 故に家のカラーが白、なんだそうだ。

 あのルドヴィルさんやグリューネヴァルト公爵様も今日は白のコート、らしい。

 家のカラーは白なのに、お兄様ルドヴィルさんはとんでもない腹黒ってどうなんだろ?

 ドレスのデザインはなるべくシンプルなものでとお願いして、オフショルダーのクラシックなものにした。

 そのかわり裾に向かって白糸や銀糸で凝った刺繍や飾りのビーズやパールが縫い付けられていて、肩から腰にかけて爵位のブローチがついたサッシュという青いリボンみたいなのが、タスキみたいにつけられた。


(これは両親に見せたかったな……)


 もう戻れない、私の故郷。

 一目でいいから、見せてあげたかったとしんみりしていると、侍女が来客を伝えてくれる。


「ハルナ様、エードルフ様の先触れでございます」

「通してあげて下さい」

「かしこまりました」


 少しの間をおいて、侍女と入れ替わりに来た団長に私は目を奪われた。


 団長は貴族の正装姿、黒いブーツに黒いパンツに黒いコート。

 腰の剣はいつもの大剣ではなく、儀式用の細身の剣。

 銀色で凝った細工が鞘と柄にされていて、黒ベースに絶妙なアクセントになっている。

 マントだけ裏が青色、表は黒になっていた。

 シュヴァルツヴァルト家のカラーは黒、王家は青なのだそう。

 今日を限りにこのマントも全部黒に変えてしまうんだそう。

 身体に沿ったラインでシンプルに作られてるけど、私のと同様に銀糸で刺繍が入れられている。

 ベストもパンツも、長めなロングブーツも精悍な団長にはとてもよく似合っていた。

 外見だけなら、付け焼き刃の私の方が足引っ張ってそうだ。


「ねぇハルナ。俺もハルナが見たいんだけど……」


 困った顔と照れた顔が入り混じり、戸惑った団長は棒立ちのまま言った。

 はぅ。ついガン見、入ってしまいました。

 元デザイナーとしてはこういうもの、大好きなんですよ。


「はは、ゴメン。団長ってやっぱり黒、似合うね。つい見惚れちゃった。どうかな?」

「ハルナもすごく綺麗だよ。デビューおめでとう」


 団長は私の手をとって、小さな包みを乗っけた。

 貴族デビューのお祝いだそうだ。


「開けてもいい?」


 こくりと団長は頷き、私は包みを開けた。

 中にはごくシンプルなサイズの違う銀色の指輪が2つ。

 一つはきっと団長の分だ。


「ハルナの国では、左手に結婚指輪をするんだろ?」


 婚姻の石つきの指輪と重ね付けができるよう、なるべく飾りを外してもらったのだという。

 小さな方の指輪を取って、「はい、左手出して」と言うので、私は手袋を取って左手を差し出した。


「この指輪にはね、転移の魔術式を刻んである。魔力を流せば、必ず塔に戻れるようにした」


 私に指輪を嵌めながら、団長は言った。


「えっ!? 普段の生活魔術とかでうっかり魔力流して転移しちゃったりは?」

「しないよ。転移したいときは、そうだな……塔の居間を想像しようか」


 普段の生活で飛んだりしないように、合言葉的なものをつけたそうだ。

 転移したいときは塔の居間に戻りたいと願って魔力を流すと転移できるそうだ。


「団長は過保護ですねぇ」


 私は残った一つを手に取って、団長の左手をとる。

 団長も同じように手袋を外した。


「ハルナさんはちゃんと見てないと、またどこかに連れてかれてしまいそうだからな」


 団長は指輪を嵌めた左手をかざして確認し、元通り手袋をすると、侍女がノックして私達を呼びにきた。


「ハルナ様、エードルフ様、お時間でございます」


 私も元通り手袋をすると、団長の左側に立ち、腕を絡ませた。

 侍女に見送られ、執事が先導し、団長にエスコートされて、会場の大広間の扉前に立つ。


「うーっ。緊張してきた……。ちゃんと踊れるかなぁ……」


 心臓はバクバクして膝は笑うし、手は震えて変な汗が出てる。

 団長は空いた右手で私の左手をポンポンと宥めるように軽くたたく。


「塔でもたくさん練習したし、今日の招待客は関係者ばっかりだ。いざとなったら俺もリードするから安心しなさい」


 執事さんは私達の会話が終わるのを見計らって声をかける。


「お二人とも、準備は宜しいですか?」


 二人でこくりと頷くと、大広間の扉が開けられると、団長にエスコートされゆっくりと広間に足を進めた。

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