エードルフ、ルドヴィルと合流
ハルナとの契約があるから、少し離れたくらいで気配が追えないと言うことはないのに、今は本当に全く気配がわからない。
こんな事初めてだ。
転移した足元には、ハルナの婚姻の石と、少し離れた場所に魔力の残った白い魔石。
そして気配の消える前に感じた、結界の異変。
多分ハルナは自力で結界の外に出ている。
――ハルナが……いなくなった。。。
『いいですか、殿下! 今、最速で国境越えの準備をさせています。絶対に勝手に転移したりしないで下さいよ!』
ルドヴィルに連絡を取ると、アイツにしては珍しく殴り書きの伝言が転移してきたが、俺はぼんやりと座り込んだまま動けなかった。
――何してるんだ、俺。。。
――そうだ。早くハルナを迎えに行かないと。。。
なのに、手も足も頭も動かない。
どうしてだ?
それに、どこへ迎えに行けばいい?
「……か!」
――ああ、誰かが呼んでる。誰の声だ?
「エードルフ様!! しっかりなさい!!」
バチンと大きな音がして、頬の痛みが俺を現実に引き戻す。
呆けていた俺は、ようやく声の主の姿が目に入った。
「あ……ルドヴィル……か?」
ルドヴィルはほっとした表情で俺を抱きしめた。
「間に合って良かった!! 勝手に転移しなかっただけでも上出来ですよ。殿下の事ですから馬鹿魔力に任せて、ハルナさんの元へすっ飛んで行ったかと思いました」
ハルナ……、そうだ。
迎えに行かないと!!
「ルドヴィル……ハルナが……!!」
俺はルドヴィルにあった事を話す。
ハルナが結界から出た事、今は全く気配も掴めない事。
変な魔石を拾った事。
すべて話し終えると、ルドヴィルの表情は暗くなった。
「状況は理解しました。犯人はオースティ―の人間で、狙いはハルナさんです。本当に申し訳ございません。すべてグリューネヴァルト家の責任です。私がもう少し早く気づいて対処できていたらこんな事にはならなかった……」
ルドヴィルはそう言って唇を噛んで黙り込んだ。
「ルドヴィル、この魔石って何? やっぱりオースティーが関係あるの?」
「大有りです。その魔石はオースティーでしか採れない鉱石を錬金術師が魔石に変えた、魔力調整の魔石です。これを使えば、限界を超える術でも使えるようになります。この魔石を使い、我が国へ強引に侵入したのでしょう」
ルドヴィルはくしゃりと髪の毛を握り込んだ。
「強引に侵入って。国の結界を超える転移なんて……」
そんな事、俺がやってもあっという間に魔物化してしまう……。
「そうか……。国境なら審査の出入りのために結界が弱められてる!」
「ええ。奴らは周到に砦で騒ぎも起こしてましたよ。おそらくワイバーンを呼んだのも奴らなのでしょう」
「オースティーは今、聖女不在、だったな?」
「はい。魔力が溢れてとても不安定です。次の聖女までのつなぎでハルナさんを連れ去ったのでしょう」
「ハルナがいれば魔力は安定し、一応、国内は落ち着くな」
だが、この国はどうなる?
あっちは落ち着いても、こっちだってハルナがいなければまた魔物に怯える日々に逆戻りだ。
そんな事、認めるわけにはいかない。
「ですから殿下。なるべく内密に素早くハルナさんを取り戻します」
ルドヴィルはハルナが連れ去られた事を公にせず、ハルナを連れ戻すという。
「オースティーと外交問題は避けねばなりませんし、それに問い合わせたたところで知らぬ存ぜぬ、勝手に本人が来た、いくらでも言い訳ができます」
「まさか、ルドヴィル……」
行くな、と止める気じゃないよな?
だが、ルドヴィルは俺を止めるどころか唆すようなことを言った。
「殿下には少々無理をしてもらう必要があります。お聞きになりますか?」
「もったいつけるな! 続き早く!!」
俺がルドヴィルを急かすと、ルドヴィルはトラウザーズの隠しから、さっきの魔石と同じ形で透明なものを取り出した。
こうしてよく見るとも綺麗な金の飾りのついた水晶みたいだ。
「これが魔力補助の魔石の本来の姿です。未使用だとこのように透明で、使うたびに白くなり、真っ白になったらもう使えません」
術者の許容量を超えた分を吸収してくれるらしいが、使う術や許容量によっては一本では足りず、一度に何本も持たなければならないこともあるという。
「殿下には今すぐハルナさんの居場所を掴み、そこへ転移して連れ戻してきて欲しいのです。ただ……」
ルドヴィルはそっと目を伏せた。
「魔石はこれ一つきりで、予備はありません。オースティ―の砦を使って負担を少し軽減できたとしても、ハルナさんのそばは難しいでしょう。悪ければもっと離れたところに転移する分の悪い賭けです……」
ルドヴィルは暗い顔だけど、俺にはハルナを取り戻すための道筋に力が湧いてきた。
たとえ片道でも、帰りにはハルナがいる。充分だ!!
「賭けね……。初手の賭けなら勝ったな」
俺はトラウザーズの隠しからハルナの婚姻の石を取り出した。
よく、ハルナは石を置いて行ってくれたと心から思った。
やっぱり聖女にしておくには惜しいくらい、機転が利いてる。
「ハルナの石ならここにある。俺が契約すれば確実にハルナの気配を追って側へ転移できる!!」
ルドヴィルはいつもの苦笑いに戻り、懐から短刀を出して俺に渡す。
「その恰好で行くのはお止めください。青の殿下の名が泣きますよ」
「行かないよ!!!」
好いた女を迎えに行くのに、いくら何でも農作業着じゃ恰好悪いくらい、さすがに分かるぞ。
俺だって迎えに行くなら、ハルナにカッコいいって褒められたいしな。
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