ルドヴィルの推測
私はエードルフ様からの伝言に思わず声を上げてしまいました。
「何ですって! ハルナさんが!!」
信じられません!! ハルナさんが連れ去られたとエードルフ様がおっしゃるのです。
まず私は急いで返信をエードルフ様に送りました。
『対策は考える。その場を動くな』と。
そうでもしないと、魔力量だけは豊富なあの方は、ハルナさんを追ってどこまでも転移してしまいそうですから。
エードルフ様からの知らせによると、結界に異変があったかと思えば、次の瞬間からハルナさんの気配が消えてしまったというのです。
まだ半分とはいえ契約中のエードルフ様が気配を全く掴めない状況など、ハルナさんが国外に連れ出されたに違いありません。
国外では、エードルフ様が追いかけて転移もできません。
いえ、ソフィアの言う通り転移できますが、いくら王族出身で扱う魔力の許容量の多いエードルフ様でも国境越えの転移は相当な負担になります。
大体どの国に連れ出されたかわからないのに、そんな無謀な賭けのような事はできません。
しかし一体誰が、何のためにハルナさんを連れ去ったのか? ハルナさんで何をするつもりなのか?
何にせよ、彼女には大きすぎる利用価値があります。
そう簡単に殺されたりしないでしょう。
(ハルナさんが目的なら、手に入れた犯人はもう動かない)
動かないなら今のうちに取り返す算段ができます。
では、どこへ連れ去られたのか?
どこが一番、ハルナさんを欲しがるのか。
手持ちの情報はオースティ―の聖女不在、魔力補助の魔石、ワイバーン騒ぎ、砦でのヴィラール男爵事件。
(アルトゥールもヴィラール男爵の件を不思議がっていたが……)
貴族なら揉め事は極力避けるはずなのに、あの態度。
その後もヴィラール男爵は申請を出していません。
すべてがつながっているとして、いくら何でもこれは違う意味で疑わしい。
(まるで自分を疑ってくれと言わんばかりのやり口だ。むしろ罠かもしれない)
せめて先にハルナさんの婚姻の石を作っておくべきでした。
そうすればエードルフ様が追う事も、国外の気配を掴むことも可能になります。
(ハルナさんの転移先は確実に国外。いくらエードルフ様でも負担が大きすぎる)
ソフィアの言う通り、国境越えは転移魔術と同時に国の結界越えを行います。
平民であれば道具を使っても耐えられないくらいの魔力を必要とします。
両親の血筋に恵まれたエードルフ様でも、二度国境越えの転移すればその場で魔物化するでしょう。
(一度目で確実にハルナさんと合流して、治療を受けられなければ、そのまま……)
いえ。悲観は禁物です。
国境越えの危険性は相手でも一緒です。
そもそも彼らはどうやって国境を越えたのでしょう。
少なくとも今回以降、国境越えの申請は上がっておりません。
(一度は正規の手続きで、
正規の手続きであれば、誰でも一度は我が国の人間と顔を合わせて訪問目的や場所を話してから、初めて通行許可が下りるのです。
そのため、国境の砦は結界内でありながら、他国の人間も入れるようにしてあるため、接する国同士で少し結界を緩めている場所でもあるのです。
私ははっとしました。
だとしたら、あのワイバーン騒ぎも納得です。
騒ぎに紛れて国の結界を超え、ハルナさんを連れ去ったに違いありません。
(血統に恵まれた貴族なら、魔石2〜3本で国境越えの転移はできる、か……)
となると、やはりハルナさんはオースティーに連れ去られた可能性が高い。
たとえ罠でも飛び込む価値はあるでしょう。
私はソフィアに伝言を送り、例の魔石の未使用品を買い取ることにしました。
とても高くついてしまいましたが、仕方ありません。
一つでもないよりはマシです。
私は次にルーファスを呼び、先触れを命じました。
「ルーファス、ミューリッツに“ルドヴィルが直接、閣下にお会いしたい”と伝言を」
「承知いたしました。早速参りましょう」
「頼みます。私はエードルフ様の元へ参ります。決まりましたら知らせて下さい」
「かしこまりました。いってらっしゃいませ、ルドヴィル様」
私はルーファスに見送られて、東の塔へ転移しました。
エードルフ様が大人しく待っていてくれる事を願って。
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