エードルフ、山へきのこ狩りに出る
「今晩のぉ〜〜♪ メニューはぁ~~♩ なぁにっ♩ かなぁ〜〜♫」
デタラメな節をつけて適当に歌いながら、狙っていた倒木の周辺でキノコを摘みとる。
ハルナの希望は肉厚で香りのいい、プランシューム。
ハルナの国の“マッシュルーム”に似ていて使い勝手が良いんだとか。
その他にも地面から黒や白のダイテリームも顔を見せている。
これもちょっと掘り返して採る。
ハルナの国では超高級品の“トリュフ”らしく、『凄い贅沢!!』とホクホクしながらオイルや塩に漬け込んでいた。
こちらではタイミングさえ合えばいくらでも採れるのに。
あれ、あっちには“ポルチーニ”とかいう、パスタにしたら美味しかった奴!!
頼まれてないけど、干しておけば日持ちするから採っておく。
最近降った雨のせいか、今日は豊作だな。
どれも全部は根こそぎ取らず、少しずつ残しておく。
ついでに次回の目印として、魔術式を刻んで、いつでも転移できるようにしておいた。
タイミングを見て、また取りにこよう。
ああ、だけど昨日食べたパングラタン、とても美味かったな。
横にスライスしてバケットをくり抜いて炙り、パンの中にほうれん草をしきつめて、燻製にした川鱒のクリームソースをたっぷりつめるんだ。
ソースの塩には黒トリュフを漬けていた塩を使ったとか言ってたけど、香りがまたとてもいい。
本当なら、この上にチーズを乗せてオーブンで焼きたかったとハルナはとても残念がっていたけど、これでも充分美味しいし、器ごと食べられるなんてとても面白い。
ハルナの言ってた“映え”とやらがちょっとわかってきた。
いっそ匙も固めのパンで作ったらどうだろうかと提案したら「それいい。皿以外全部食べられるとか、バズりそう」とノートにメモしていた。
うんうん、きっとコレもウチのレストランの名物になりそうだ。
そんな浮かれた気分でキノコを収穫していた俺の元に、一通の伝言が転移してきた。
差出人はルドヴィルだ。
あいつは今実家に戻ってたはずだけど。
封を切って手紙に目を通す。
『団長、お楽しみの所非常に申し訳ありませんが、少々国境が騒がしいので、しばらくはオースティーの砦におります。殿下も身の回りにご注意下さい』
(オースティ―ねぇ。グリューネヴァルト家の領地はシュヴァルツヴァルト家の領地と反対側だし、大丈夫かな)
俺は伝言をくしゃりと握り、魔術で火をつけて灰にした。
あいつの実家、グリューネヴァルト領は南方オースティー帝国との国境に面した場所だ。
確かハルナと入れ替わりか、それより少し前に聖女が亡くなり、今国が荒れていると聞く。
聖女がいなければ魔物に荒らされ、犠牲になるのは身を守る術のない平民たち。かわいそうなことだ。被害が少なければよいのだが。
兄上の娘、リリアーナ姫が嫁いだバルドとは違って、オースティーは魔術研究に優れ、
今、俺たちが使っている魔術式コンロも元はオースティーが作り始めた物だ。
そのような機械を作りだしたり、調整や整備をするものを
オースティー帝国はブラウルム王国との国交はあまりないが、貴族の婚姻や留学者の交流、物のやり取りはあるからゼロではない。
ルドヴィルが気をつけろと言うのだから、気を付けた方がいいのだろうが。
(一応結界も張ってあるし、滅多なことはないと思うけど……)
ハルナとの時間を邪魔されたくなくて、元々塔内だけだった人除けの結界を畑の周辺まで広げてあるし、畑のすぐ側には魔の森が迫っている。
ここまでくる物好きは俺達に用のある町の者か、ルドヴィルくらいだろう。
心配しすぎてこの滞在を楽しめないのはつまらない事だしな。
「そうだ。デザート用にできて、栽培できそうな苗木を探してみようかな」
リンゴや栗、桃やイチジクみたいに栽培用として市販されていないものがいい。
グミとかコケモモ、木苺みたいな、この辺でしか食べられなくて、山に入らないと採れないちょっと珍しい果実とか。
と、次の栽培果樹を考えていたら、ビキンと結界に反応があって……。
「ハルナ?」
つぶやいた次の瞬間、契約以来初めてハルナの気配が一気に薄くなって消え、俺は完全にハルナの気配を掴めなくなった。
青くなって慌てて塔に戻り、気配の残滓をたどると足跡と白い魔石、ハルナの婚姻の石を拾った。
(一体何が……ハルナ!)
がくりとへたり込み、呆然と光を放つハルナの婚姻の石を握り込んだ。
後はもう、ルドヴィルに会うまで何をしたのかあまり覚えていなかった。
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