ハルナ、品種改良する

 団長が夜明け前に迎えに来て、私は団長と一緒に転移陣で塔へ帰ってきました。

 東の塔は今、私達が住むための住居とレストラン施設にするため改築中で、出来上がったら客室もある施設に生まれ変わりの真っ最中。

 私が使っていた客室も、団長が使っていた執務室も今はない。


「急に決めちゃったから、野営用の携帯ばっかりだけどね」


 団長は苦笑いで私達の私室にするつもりの部屋を開けてくれて、私は足を踏み入れた。

 がらんとした部屋には団長の言う通り、簡易のベットが2台と背の低い小さなテーブルと魔術式の携帯ランプ、小さな丸椅子があった。

 これはアレだ。


「じゃあご飯は例の魔術コンロだね? ますますキャンプっぽいご飯にしなきゃね!」


 例の魔術コンロとは、フライドポテトの出店で使ったやつだ。

 そうだ。魔術コンロ使えるならオイルフォンデュとかチーズフォンデュ、ポトフとか熱々の鍋料理もいいかも知れない。

 フライパンでパニーニや餃子っぽいのもいいかも。

 でも初っ端は王道の焼肉かな。

 お醤油はないけど、玉ねぎと香草、柑橘系の酸味で塩レモンだれ的なのつけて食べたら美味しそう。

 これはフリーチェさんのお店で腸詰とお肉、買いに行かないと!

 ホットプレート料理って、楽しいからね。


 ホクホクしながらキャンプ料理を想像していたら、

「地下の保管庫は前のままだから食材もあるよ」

 と団長は教えてくれた。

 保管庫がそのままなら、きっと未開封のジャムやソースは食べられるかも。

 キャンプ飯にいいアクセントだ。


「出発が早くて寝足りないでしょ。一眠りしてから見に行くといい」


 団長が寝不足の事を言うから、私も急に眠気が襲ってくる。


「そうだね。さすがにまだ眠いかな」


 ふわぁっとあくびを一つして、私は団長の言葉に甘え、毛布をかぶって簡易ベットに潜り込んだ。


 ※ ※ ※


 目を覚ますと私は、裏の畑に直行した。

 団長から一畝貰ってミニトマトへの品種改良の挑戦中だったのだ。

 経過は時々、団長から聞いていたけれど、ようやく実物を見に来られたのだ。


「話には聞いてたけど……。ようやく小さめの中玉サイズって感じだなぁ。ミニトマトまでまだかかりそうだね」


 元のトマトが私の両手サイズだったから、まずはサイズを小さくするところからスタートした。


「十分早いペースだよ。5回目で元々の半分以下になってるんだから」


 団長は剪定バサミでトマトをひとつもいで私に渡してくれる。


「どう? 味はミニトマトに近くなってる? 小さくなってるから多少味も変わったと思うけど……」


 私は団長に言われるまま丸ごとかじり、味を確認する。


「うーん……、味はまだまだだなぁ。甘みも酸味も大きいトマトのままな気がする」


 私の知ってるミニトマトは、もっと濃くて甘かったような気が。

 このトマトは全体が薄味だ。

 果肉部分も厚みがもっと欲しいな。

 まだまだ改良の必要ありだ。道のりは険しい。


 団長はちょっと考え込む表情をしながら、

「今日魔力あげたら一度種を取って、次は味の改良やってみようか」

 と言った。


 品種改良は魔力をあげて少しずつ形などを変えては種を取り、また一から育てて次は色を変えてと少しずつ定着させていく。

 そのため手間も時間もかかるものだ。

 魔力量や土地の魔力との関係、水分や土地の養分で出来上がりもちょっとずつ変わってくるから、誰が作っても一定になるように、そこは改良者の腕の見せ所なんだって。

 でも、この世界は魔力での促成栽培もできてしまうから、現代日本の品種改良よりはずっと早いペースだ。

 土地の魔力に恵まれてるとはいえ、私が育て始めて3か月かそこらで、5回の収穫ができているのだから。


「次はもう私の魔力だけかぁ。大丈夫かな?」


 品種改良には繊細な魔力調整が必要で、魔力をあげすぎてもダメ、あげなさすぎてもダメ、この調整がすごく難しい。

 実は5回のうち3回、枯らしてしまったり、実がつかなかったりしている。


「これだけ変化してるから大丈夫。今晩、婚姻の石も作るし、俺からの借り物じゃない、ハルナ自身の魔力ならもっと変化させやすいはずたよ」


 そう。今日は1の白の月。婚姻の石を作る事のできる日です。

 解除は満月であればいつでもできるのに、婚姻の石だけは1の月だけだそうです。

 と言っても月2回もあれば充分だけれども。

 団長との契約解除の条件が、解除前に婚姻の石を作ること、だったのです。


「いよいよですねぇ。なんか結婚って気がしてきましたよ」

「いよいよ、だね。ハルナの石はどんな色になるか楽しみだ!」


 いや、期待されても多分残念茶色だよ。

 目も髪も茶色だから。

 せめて日本人らしい黒髪とかなら多少は映えたのに。


 ところで何で先に石作るんだろ?

 日付け的なものなのか、縁起がいいとかなのか、と尋ねたけれど、理由ははっきり言わず、団長にはぐらかされてしまった。


 むーー。ずるーーい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る