エードルフ、兄上から呼び出される
俺は机に置かれた
封蝋には王家の紋章、二つの月に向かい女性が跪いて祈る姿のシルエットが押されている。
これを使えるのは国王である兄上だけ。
怯えながら中身を改めると兄上の名前で日付と時間、話があるから王宮へ来いと言う事を貴族らしい言い回しで書かれた招待状が入っていた。
要約すると『すべてネタは揃っている。おとなしく出頭せよ』だ。
「あああ……。兄上が怒ってるぅ……。やっぱりハルナの事がバレてるんだぁ……」
ウチの団で不用意に話す者はいないし、実家であるシュヴァルツヴァルト家には口止め済み。
ちろりとルドヴィルを見上げるが、さすがにコイツが話す訳がない。
「意外と早かったですねぇ。もう少し誤魔化せるかと思ったのですが」
ルドヴィルは封筒を手に取り、招待状を取り出して目を通す。
「“早かったですねぇ”じゃないよ! 見つけたのは確実にお前の親父殿だろ!!」
「いいえ。おそらく嗅ぎつけたのは父の部下のミューリッツでしょうね。あの人は無駄に優秀な人ですからねぇ。仕方ないので覚悟を決めてお逝き下さい、殿下」
お前の親父でもミューリッツでも、俺にはどっちも一緒だ。
大体、主人に向かって覚悟を決めて逝けとはどういう事だ?
俺は死ぬのか? ルドヴィルよ。
「冗談ですよ。でもお心はお決め下さい。殿下」
ルドヴィルは封筒を元に戻して、机に置いて静かに言った。
「だからもう殿下じゃないと何度言えば……一体何の話だよ」
俺にはルドヴィルが言うことがさっぱりわからなかった。
「ハルナさんをどうするか、ですよ。殿下はこのまま陛下にすべてをお話しになってハルナさんを手放すのか、殿下がハルナさんの居場所になるのか、今、お決め下さい」
「今決めろって……。そんなの……」
無理だよ。ハルナに聞く暇もないじゃないか。
「そうですか……。困りましたねぇ……」
ルドヴィルははあ、とため息をついて、困った顔をし片手を左頬に当てた。
「父の事ですから、王宮に出向くと同時にエードルフ様から適当な理由でブローチを取り上げて、サクッと契約解除、殿下に見捨てられた可哀想なハルナさんは、その間に父の手の者に連れ出されて、誰かと強引に契約させて縁付けられ、どこかの屋敷に押し込められて、ここに帰る事は決して叶わないでしょうし、殿下はハルナさんと話す事すら出来ないまま、王籍に戻されて、消えたはずの入婿話を承諾する羽目になるでしょうね。ああ、本当に困りました。どうしましょうか?」
「おいおいおい……。そんな無茶苦茶な事……」
俺は振り返って、窓から月を確認する。
そういや今日は青の3の月の日。
明後日が青の月の満月、契約解除のできる日だ。
「私の父ですよ。やらないと言い切れますか? しかも明後日は“青の5の月 ”、ちょうど契約解除のできる満月ですねぇ……」
おい。
それじゃあ俺はブローチは戻らないまま勝手に契約解除させられ、ハルナとの接点も完全に失い、ハルナは知らない男と結婚させられて、俺はハルナ以外の女と結婚?
さあっと血の気が引いた。
「ハルナさんには、一体どれが幸せでしょうか。ねぇ、殿下?」
ダメ押しのようにルドヴィルは囁く。
「そんな八方塞がりの殿下に耳よりな作戦を思いついたのですが、ご入用ですか?」
「いるっ! ぜひ教えて下さい、ルドヴィル様!!」
今言え、すぐ言え、早く言え、とっとと言え。
そしてこの窮地を救ってくれ。
救ってくれたら一生分のデザート奢ってやる!!
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