ハルナ、とうとう借金を完済する

 そんなこんなであっという間に4か月目。

 ごきげんよう、ハルナです。

 髪を上げることはまだできませんが、大分長くなり、団長が買ってくれた髪留めが大活躍しています。

 団員や団長との生活も日々順調です。

 

 そして……。

 なんと……。

 やっと……!!


 苦節4ヶ月と少し。


 食べたかったものをじっと我慢し。

 欲しかったアクセサリーも買わず。

 雨の日も晴れの日も買い出しにはお弁当を持参して、徹底的に節約した日々。

 給金をすべて仕入れに回してのプルファ祭の出店で大勝負。


 どれもこれも今ではすべてはいい思い出。

 蛍の光よ。

 これで綺麗な身体で新たな道に進める。


 そう。待ちに待った借金なし!

 今日は初めて団長からは前借天引きのない、満額のお給料を手にできる日なんです!!


 おーっほっほっほっ!! 見たか、この華麗な“ざまぁ”を!!

 

 ルドヴィルさん悪徳闇金は『良かったですねぇ』と表向きニコニコしてましたが、きっと影ではギリギリしてたに違いない。

 

 今更もっと借りろと言われてももう遅い!

 もう騙されないもんね。

 

「はいこれ。今月分。いつもありがとう、ハルナ」

 

 団長はいつもの革袋に入れて私に手渡してくれる。

 小銭ばっかりだった今までと、今日は音がちょっぴり違う。

 チリンチリンと金貨がこすれ合う音って最高のサウンドよっ。

 

「ありがとうございます、団長」

 

 私はこっそりと妄想で皮袋に頬擦りする。

 ようこそ金貨ちゃん。これから仲良くしましょうね。

 

「ホント、ハルナはよく頑張ったよ。明日のお休みは町で買い物?」

「そうですねぇ。買い物も魅力的ですが、明日はお散歩がてら部屋を探そうと思ってます」

 

 その下見ですと私は言ったら、団長は一瞬固まって、ものすごく焦っていた。

 

「ちょっ、えっ? まっ、待って! 何? ハルナはここ辞めるつもりなの!?」

 

 お給料が足りなかったのか、お休みがもっと欲しいのかとか、もうちょっと家事手伝おうか、とか言ってくれたけど、本当の理由は別のところにある。

 これ以上好きになって困らせたくない。

 だってこんなにも帰りたくないって思ってる自分がいるんだもの。

 そろそろブレーキを掛けないと、本当に戻れなくなってしまう。


「いいえ、辞めませんが通いにしようと思って。借金も終わったから家賃も払えるようになったし、私がここに住み続けるのは、やっぱり団長の結婚にも差し障りがありますよ」

 

 にこりと笑って、もっともらしく聞こえるよう私は考えておいた理由を言う。

 団長は養子で末席とはいえ貴族で、貴族はそういったことを嫌うとルドヴィルさんが言っていた。

 特に女性関係にだらしがないと思われれば、破談になりかねないし、私だってそんな男は嫌だ。

 

「そんな輩はほおっておけばいい。別に後ろ暗いことはしてないし。ハルナはここの……その、立派な使用人だよ。堂々とここに居ればいい」

 

「ダメですよ。私のせいで団長が結婚できないのは困ります。あ、今日のお夕飯は団長の好きな塩豚焼きですから、早く帰ってきてくださいね!!」

 

 じゃっと言って私は強引に部屋を出た。

 今ならまだ傷が浅い。団長から少し離れよう。

 通いの距離に慣れたら、町で仕事場を見つけて、ここも辞める。

 少しずつ団長と距離を置けば、それほど辛くない。


(大丈夫、大丈夫。きっと平気になるから。大丈夫)

 

 私はキッチンで玉ねぎを切るまで泣かなかった自分をほめた。

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