第3章 居心地のいい逃げ道
その頃の王宮3
グリューネヴァルト公より重要な報告があると先触れがあり、夜遅くに私の私室の執務室へやって来た。
椅子を勧め、酒か茶を頼もうと近侍を呼ぼうとしたが、公はそれを断った。
随分と急ぎの話のようだ。
「夜分に申し訳ございません。ですが早急にお耳へお入れせねばと……」
「口上はよい。報告とは何であろうか?」
公は、ひとつため息をついてとても信じられぬ事を口にした。
いかん。あまりに唐突すぎてついていけない。私の頭がおかしいのだろうか。
「すまぬ……今、何と申したのだ? 公」
「エードルフ様が召喚された聖女様と既に契約を終え、存在を隠しておられる、と申し上げたのでございます、陛下」
何をしておる、
女に全く興味のなさそうな
それは喜ばしいのだが、相手が聖女、しかも契約済み。
エードルフからは保護の報告の一つも寄越されていない。
一体、何故? どういう事だろうか。
どうしてそうなったのか、私にはさっぱり想像がつかない。
私の知るあやつは、心根が真っ直ぐで腹芸の一つもできぬ、嘘をつけぬ男なのに。
こういった事に手抜かりのないグリューネヴァルト公がここまではっきり言うと言う事は。
「公の元には……既に証拠が揃っておるのだな?」
「はい。聖女様はエードルフ様の元に囲われておいでです。ミューリッツが姿を確認しております」
「な……」
なんて事を!! 私は驚きで言葉を失った。
何故、聖女の婚姻に王家が関われぬのか知らぬ訳ではあるまいに。
いや。あれは聖女を婚姻でこの地に縁を結ぶ事に反対しておったからな。
むしろ聖女を帰すために保護して、帰還の術式がわかったら一人で帰す気なのかも知れぬ。
いずれにせよ止めねばならない。
「エードルフからは仔細な事情を聞かねばなるまい。早急に王宮へ召喚を。聖女は保護せよ」
私はグリューネヴァルト公に命じた。
「承知致しました。聖女様のお相手は慣例通り当家で引き受けましょう」
「うむ。そなたの息子だと……四男か?」
確かルドヴィルと申したかの。
エードルフと共に騎士団へ入り、魔術も剣術も腕前は相当なものだと聞く。
歳は4つ下だが、随分とエードルフの助けになっておると褒めておった。
「左様でございます。3人とも既に結婚しており、五男はまだ成人前。四男のルドヴィルを縁付け、適当な領地を割譲する予定でございます」
「うむ。新たに家門を立てねばならぬな。必要なら直轄領も考慮しよう」
「ありがたきお言葉、痛み入ります。四男に代わって感謝いたします」
公はさらさらと何かを紙に書きつけて、閉じると顔を上げて言った。
「今後の予定ですが、陛下とのお約束通りエードルフ様は王籍へお戻り頂き、リリアーナ妃殿下よりの婿入り話を進め、聖女様は婚姻の石との契約後、息子ルドヴィルとの婚姻を進めましょう。よろしいですか、陛下」
「あいわかった。エードルフの事で迷惑をかけてすまない、公」
グリューネヴァルト公は首を横に振り、椅子から立ち上がり、片膝をついて首を垂れた。
「いいえ、陛下。愚息がついておりながらエードルフ様をお止めもせず、聖女発見の報告も寄越さず、このような事になって面目次第もございませぬ。陛下のお怒りは当然の事。お叱りはいかようにもお受けする所存でございます」
「そのような真似は止めよ、グリューネヴァルト公。二人とも分別がつかぬ子供ではない。まずは二人の話を聞いてから判断すべきであろう」
「仰せのままに。我が君」
偉そうに言ったが、今回はエードルフが無理を言ってそなたの息子は巻き込まれたに違いない。
白金貨をかけても良いぞ。
これは黙っておくがの。
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