裏の畑のピクニック(ハルナ)

 あのあと結局一日お休みし、すっかり回復しました。

 おはようございます! 異世界の使用人Lv.2のハルナです。

 ステータスオープンはできませんが、きっとステータスには“こなれた異世界人”と書かれていると思います。


 今日は社長、いや団長からお昼は外で食べたいとリクエストされて、お弁当を2人分詰めた籠を片手に、ピクニック気分で裏庭へ向かう。

 ここには団長の趣味と団員達の食糧庫を兼ねたご自慢の立派な畑がある。

 トマトにレタス、キュウリにカブ、玉ねぎ、ナスにほうれん草。

 ほかにもたくさんの種類を植えてある。

 お野菜大好きな私には天国のような場所だ。

 魔の森が近いから土地も肥えてるし、土地自体にも魔力が満ちているから季節も気温も関係なく、手間いらずでいいものがわさわさ採れるんだって、畑責任者の団長が言ってました。

 つまり植え放題、取り放題、食べ放題。

 畝の外側には適当に生え散らかっているハーブの類もあって冷蔵庫いらずの充実ぶり。


「クックック……。どいつもこいつもピッカピカで美味しそうだのう。どう食ってやろうか!」


 悪役さながらにニヤニヤしてパンパンに真っ赤なトマトをもいで、丸々としたカブを抜き、外葉まで美味しそうなレタスを採る。


「きゃーっ。ウチの子たちをどうするつもりなの? ひどい事しないでっ!!」


 団長はひっこ抜いたカブにアテレコする。


「ぐへへへへ。お前たちはまとめてサラダになるんだぜ。おとなしく団員たちの腹に収まるがいい!」


 私はレタス片手に返した。

 って何やらせるんですか。


 二人で収穫作業や手入れを一通り終えると、丁度お昼時。

 ブランケットを敷き、籠のお弁当を広げて、葡萄酒を木苺水で割ったサングリアっぽいドリンクをカップに注ぐと、団長がカップにむかってバラバラと魔法で氷を浮かべてくれる。

 私はアルコール弱いから、木苺水は多めにした。


「お、いつもの遠征弁当より豪華!」


 団長は並べられた品数の多さに反応する。

 ふふん、今日のメニューはちょっと頑張った。

 お礼も兼ねてるからね。

 予算に限りがあるから、残り物も多いけど。


 ・塩豚焼きと焼きズッキーニのトマトガーリックソースサンドイッチ

 →トマトガーリックソースは昨日のニョッキのソース。塩豚は残しておいたもの。

 ちょっと塩豚が足りなかったので、ズッキーニのスライスを入れて嵩増し。

 塩豚のカリカリ塩気とズッキーニのジューシーさにトマトソースがよく合う一品!

 団長、トマト好きだしね。


 ・冷たいにんじんポタージュ

 →野菜出汁で煮潰して牛乳とバターを入れて伸ばして塩で味を整えた。

 こっちは生クリーム混じりの牛乳で濃いので、優しい野菜出汁で十分美味しい。

 ビシソワーズみたいにキンキンに冷やしておいた。


 ・フライドポテト、サルサソースとヨーグルトソース

 →出店で出したのをもう一度食べたいと団長のリクエスト。

 ん? もう一度って?? 団長いつの間に食べたのかな。


 ・色々野菜のスティックサラダ、きのこディップ添え

 →お野菜は採りたてを少し切る。サルサソースとヨーグルトソース、プラスきのこを細かく刻んでニンニクと葡萄酒を入れて煮詰めたもの。半熟卵をつぶして混ぜながら野菜につけて食べる。


「んーー。きのこディップ美味しい。これねパメラさんに教わったの」


 きのこのうま味に卵黄のまろやかさ、確かにディップだけじゃ勿体ない。

 パメラさんはシチューのベースにしたり鶏肉の丸焼きの詰め物に使ったりしているという。


「ねえハルナ。これさぁ、俺、クリームソースに混ぜてニョッキで食べたいなぁ」


 うんうん。

 こっちの牛乳は濃いからいいかも。


「いいですねぇ。かぼちゃニョッキなら色合いもきっと綺麗で良さそうですね。私はパメラさんの言ってた鳥の詰め物にするやつもいいなぁって」


 じゃがいもや人参、玉ねぎなんかを詰めるとき、一緒に混ぜて炒めたものを詰めるのだそう。

 そうするときのこの香りがチキンにも染みてとてもおいしく仕上がるそうだ。


「ああ、それも美味しそうだね。これは一度魔の森のキノコ狩りに行かないとな」


 団長は何やらホクホクしながら頭の予定表に組み込んでいる。

 しかし、お貴族様は毒知識的にキノコにも詳しいものなのか、それとも騎士として野営食の毒キノコに詳しいのか。

 ……騎士の方かしらね。多分。


「団長は本当においしい物が大好きですねぇ。作り甲斐がありますが」

「そうかなぁ。多分こだわってるのはハルナの方じゃない? 俺は何食べても美味しいって思うから」

「へー。じゃあ団長的に今までで一番不味かった物って何ですか?」

「そうだなぁ。不味いものってないなぁ。命の危機を感じたのはあったけど」

「命の危機……。一体何を食べたんです?」

「夜中に城のキッチンに忍び込んで、大量にお菓子と牛乳持ち出して隠した。で、ある夜中に食べてお腹壊した」


 たはは、と団長は笑っていた。

 おおぅ。常温に置いた牛乳飲むなんてチャレンジャーなお子様。


「その牛乳、変な味とかしなかったんです? さすがに子供でも気づくと思いますが」

「んー。確かになんか変だなぁと思ったけど、気にしないで飲んじゃった。ほら、具合悪ければこっそりと魔力水飲めばいいと思ってたし」


 ああ、確かに。


「で、やっぱりお腹痛くなって魔力水をこっそり飲んだんだけど全然効かなくって。どうなってるんだと思ったよ」


 団長が手に取った瓶は魔力の混じってないただの水だった。

 自分で魔力を混ぜればよかったのに、当時8歳の団長はそれを知らなくて、朝まで苦しんだそうだ。

 で、翌朝お母様に白状する羽目になり、お母様は『食べ物を粗末にするんじゃない』と腹痛明けの団長に往復ビンタを食らわせ、1日食事抜きにしたそうだ。

 なかなかワイルドなお母様です。


「さすがに牛乳は気を付けるようになった。あの時は死ぬかと思ったよ」


 と、しみじみと団長は語って、思い出し笑いから盛大に吹き出してしまいには大笑いしていた。

 釣られて私もお腹の底から笑った。


 ねぇ、団長。

 私、団長と一緒にご飯食べて、他愛ない話をして。

 今、すごく幸せだよ。

 この先もずーっと一緒にいたいよ。

 でもダメ、なんだ。

 私じゃ、団長の子供を産んであげられないかも知れないんだから。

 いつ私、帰るのかな。

 いっそ帰る方法なんて見つからなければいいのにと、ちょっと濃くしたサングリアもどきを一息にあおった。

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