エードルフ、看病する
もう夜更けだし、女性の部屋だからと一旦戻ったが、返事がない事がとても気になり、ドアを開けて目を剥いた。
具合が悪くて、どうして寝台で寝ていない!!
ハルナは何故か寝台端にしがみつき、床にぺったりと座っていた。
シルヴァンからは風邪で発熱してる、寝ているから後で魔力水飲ませてやれと聞いていたのに、様相が全く違う。
慌てて額に手を当てればまだ熱くて、熱も下がってない。
顔色は真っ青で、唇だって紫色だ。
苦しそうな呼吸をするたびに変な音がするし、何よりその呼吸が今にも止まってしまいそうだ。
「ハルナ、聞こえる? もしかして返事もできないくらい息苦しいのか?」
ハルナは首を動かして答えた。
どうする? どうすればいい?
場所が特定できないと、泉の水が作用しない。
背中越しに手を当てて、さすりながら魔力を流してみるが、やっぱり水なしではうまく魔力が混じらない。
(こんなに苦しそうなら、水だって飲み込めない……。飲まずに体の中へ水を取り込む方法、方法……)
背中をさすりながら必死で考え、一つ思いついた。
(そうだ、
「ハルナごめん、ちょっとだけ待ってて!」
俺は自室に駆け戻り、魔力の入った小瓶の水をコップに移し替えていく。
1本じゃ全然足りない。コップ半分くらいになるまで何本かの瓶から移し替えると、ハルナの部屋に取って返した。
部屋に入るとコップに霧の魔術をかけ、泉の水が霧になるようにして、ハルナの顔の前にコップを押し込んだ。
本来なら聖水や毒を霧にして、アンデッドや魔物に浴びせて使う術だが、泉の水を霧にして吸わせ、外側から魔力を混ぜれば、今のハルナにも効くかもしれない。
「ハルナ、それ吸って。そうしたら魔力もうまく混じるから!」
背中をさすりながらもう一度魔力を流してみると、今度は少しずつだが、魔力が流れていく。
流れる魔力が大きくなるほど、楽になるのか、唇の色にも赤みがさしてくる。
「も、平気……。発作も大分収まった。ありがとう、団長……」
「よかった……。本当に。もう苦しくない?」
こくりとハルナは頷き、よろめきながらも立ちあがろうとするので、支えて寝台に腰掛けさせた。
「驚かせないでくれ。ハルナが死ぬかもと思ったぞ」
コップに残った分をハルナに手渡して飲ませ、おでこに手を当てると、まだ熱がある。
泉の水を飲ませたから、じきに熱も下がって楽になるだろうけど、明日の仕事は休ませた方がいいだろう。
「明日の事はいいから少し寝なさい。目が覚めたら気分も良くなってるから。いいね?」
俺の問いに首を縦に振り、ハルナは言った。
「うん、そうする。ごめんなさい、団長」
「プルファ祭に普段の仕事に瓶詰め売り、あんまり寝てなかったんじゃない? 倒れて当然だよ。あまり無理しちゃダメだ」
ハルナが俺達の世話や食事にはとても手間暇かけていて、メニューだって毎回変えてる。
頼めば配達してくれるというのに、最近はパンも手作りしている。
その上で販売用の瓶詰めやお菓子までとなると時間がいくらあっても足りないだろう。
「ううん、違うの。出張料理と間借り売り、団長に相談しなかった事。私、団長に相談してから決めるべきだったなって……」
ああ、そっちか。
「俺も一方的な言い方で悪かった。でもハルナを信用してないから調べた訳じゃない。それを分かってくれればいい」
ハルナは少しほっとしたような顔をした。
「さあ、冷えるから、もう横になりなさい」
俺はハルナを寝台に押し込んで毛布を掛けた。
余程疲れていたのか枕に頭をつけるとあっと言う間に寝息を立てて寝入ってしまった。
眠れないようなら眠りの魔術をと思っていたが、このままでも朝まで眠ってくれそうだ。
こちん、と額におでこをくっつけると、水が効いたのか熱はだいぶ下がった。
ほっと息をつき、唇の近さで我に返った。
(いやいやいやいや、そういう意図はない。純粋にハルナが心配だったんだ!!)
でも、これだけ深い眠りなら、ちょっと触れても気づかない。
プルファ祭の続きをしてもいいかな。
俺は左手の人差し指をたてて自分の唇につけて、願いを込める。
(今宵、私の心が貴女と共にありますように)
そのままハルナの唇にそっと人差し指をつけた。
今宵だけではなく、永遠になればいいと願って。
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