エードルフ、ハルナと言い争う
とは言え、どう言えばいいものか。
相談してこなかったところを見ると、ハルナはこの件を話したくないと言う事なのに。
俺たちの都合でハルナをがっかりさせてしまうのか。
ナスの剪定をしながら、はあ、とため息をつき、せめて気を悪くしないような言い方はないものかと想像してみる。
「ねぇ、ハルナ。何か俺に話すことない?」
「ありませんよ。あっ、今日の晩御飯ですか?」
いかん。これではハルナに丸め込まれてしまう。
却下。
「ハルナ。最近毎日町へ行っているようだが、何をそんなに買う必要があるんだ?」
「最近、葡萄酒の減りが早くって」
すまん、最近暑くてつい、な。
……じゃなくて。
「これでは肝心な事が聞けーーん!!」
「団長、何を聞くんですか?」
「うわっ!」
驚いた俺は、ぱちん、と残す部分まで切ってしまった。
「ああ、ハルナか。びっくりさせないでくれよ」
「団長こそ何ですか? 急に話があるって呼んだの団長じゃないですか」
「ハルナ、今度の休み、城へ一緒に行かないか? ほ、ほら。一度城の中、見学したいって言ってただろ?」
何を言う、俺!
ち・が・う・だ・ろ・!!
「すみません、団長。今度のお休みは私、隣町に行かないと。ちょっと用事があって……」
ハルナは言葉尻を濁した。
ああ、やっぱり出張料理引き受けたんだな。
……俺に何の相談もせずに。
「……フィルマール商会の出張料理?」
ねぇ、それって俺より大事なのか?
「どうして知って……。まさか私のこと勝手に調べたんですか?」
途端にハルナは嫌そうな顔をして、不満気に言う。
「ハルナが相談してくれてれば調べなかった。ハルナが悪いんだよ」
俺はハルナの言い草に少しイラついた。
先に言ってくれればこんな事、俺だって言わずに済んだのに。
「そりゃあ言わなかったのは悪かったと思いますが、まだ返事をしただけで、向こうとは話し合いもしてません。ちゃんと引き受けると決まってから言うつもりだったんです」
何だよ。それじゃ断る気はなかったって事じゃないか。
俺の気も知らないで。
ますます俺はイラついて、つっけんどんに言ってしまった。
「出張料理の話は俺が断った。隣町も行かせない。宿屋の瓶詰め販売もやめること。話ってこの3つ」
「そんな勝手に……。販売もダメとか。なぜダメなんですか!? これは私が取ってきた私の仕事よ! 勝手に口を出さないで!」
「ダメなものはダメ。勝手に調べたって言うけど、俺は雇い主で身元保証人だよ。俺にはハルナの行き先を知り、行動を制限する権利がある」
ハルナは言葉に詰まったような顔をし、
「そんなずるい言い方しないでよ!! 私の事、信用してないって言えばいいじゃない!!」
と言って、顔を背けた。
俺はハルナの左手首をつかんだ。
「違う! 俺はハルナと……」
離れたくないんだ!
だってハルナの正体を知られれば、ハルナはここにはいられなくなるんだぞ。
そんなの俺が嫌なんだよ!!
「もういい!! 団長の事信じてたのに!!」
ハルナはつかまれた左手を強引に振りほどき、引き止める間もなく塔に戻っていった。
言い捨てられた言葉は若干上ずって……いたような。
あーもぅ!!!!
最悪の結果じゃないか。
俺はガシガシと頭を掻きむしって、肩を落とした。
…………ハルナを泣かせてしまった。
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