エードルフ、アーヴィンの報告を受ける
プルファ祭も終わって年も改まり、また普通の日常が戻って……来る訳ないだろう!!
何だよ、「解きたい?」って!!
解きたかったに決まってるだろ。
何だよ、時間切れって!!
何故あの日に限って兄上が来たんだ。兄上さえ来なければ時間切れにならなかったのに。
そしてハルナ!!!
なんという不届き者だ。俺の気持ちを弄んで。
あれはサキュバスか? 実はハルナに化けたサキュバスだったのか!?
あれがサキュバスなら遠慮なくぶった切ってやるのに。
いやサキュバスじゃなくてもいい。どっかに魔物が出てくれれば遠慮なく剣を揮ってこの気持ちも少しはすっきりするだろう。
報告終わったら魔の森に行って、ちょっと発散してこようかな。
だけどハルナのお陰で魔物が激減してるからなぁ。
大剣で木を切れと?
「いかん。そんなつまらぬ物を切っては……」
「団長、どうしましたか?」
しまった。
今はアーヴィンの定期報告の時間。
話を聞かないと。
「ああ、すまない。続けてくれ」
「……報告は以上です。最後に報告とは別で気になる事があるんです」と、アーヴィンは言った。
俺とルドヴィルは珍しい事もあるものだと顔を見合わせ、話を促す。
「団長、ハルナさんが最近、よく町に出かけてますが、その内容をご存じでしたか?」
「町なら買い出しだろ。それ以外に何かある?」
「いえ。ハルナさん、どうやら宿屋の土産物売り場に自分の作った物を置かせてもらってるようなんです」
アーヴィンの話だと、ハルナは自分の作った菓子やパン、この前のサルサソースなどを置かせてもらい、売れた分の何割かを貰う形で商品を売っているという。
「いや、俺は聞いてない。ルドヴィル?」
「私も初耳です。一時期返済を止めてらしてましたが、また返済額が増えていましたので貯金から返済されているのかと思ってました……」
売上自体はその店に合算されてしまうから、ハルナ自身が税金を払う必要が必要ない。
手数料として何割かしか取れないのなら、総額にしても大したことはないし、領主や組合に届け出の必要もない。
「うーん。でもそれだけなら特に問題はないよね。違法な物でも売ってるならともかく……」
「そうですねぇ。ハルナさん、日々の仕入も予算範囲内ですし、元々大きく備蓄を減らさなければ好きにしていいとの約束ですからね」
「ええ。それだけなら問題はないのですが、最近はハルナさんの作ったお菓子やパンが好評で、結構遠くからも買いに来ている者もいるそうです」
悩まし気にアーヴィンもため息をつきながら、状況を話してくれた。
中には貴族の使いの姿もあったという。
「貴族の使いなら大抵平民で、ハルナが聖女だって事には気づかれないだろ?」
貴族達は基本、屋敷や城に商人を呼び、その場で買う。
もしくは依頼を受けた側仕えが使いを出して買ってきてもらうのが一般的。
まぁ、俺は出向いて買う方が好みだ。
王宮だけじゃなく、国を支える市井を知れとの母上からの教えもあったしな。
「ですが注意は必要ですね。後で確認しましょう。他には?」
少し考える表情でルドヴィルは調査すると言う。
ハルナにまた言えない事が増えるな。
「こちらが問題なんですが、ハルナさん、隣町の商会に呼ばれて貴族と接待の料理、請け負ったらしいんです」
商店街の店主達には結構な評判になっていますよ、とアーヴィンは言う。
「ハルナさん、プルファ祭の売上コンテストもまあまあな成績でしたものね。どちらの商会ですか?」
「隣町のフィルマール商会と。出席する貴族は不明。ですが、貴族絡みとなるとハルナさんが聖女である事が知られるのではと気になりまして……」
確かに貴族が直接近づけば、気配でハルナが聖女だと一目で知られるからな。
うっかり『料理人に礼を』なんて展開でバレてしまうのが予想できる。
平民には貴族の誘いを断れないのだから、ハルナが呼ばれれば、出ていかざるをえない。
「フィルマール商会なら、シュヴァルツヴァルト家へも出入りしてる。俺から断って代わりを出せば問題ない。ついでにどこの家と会食するのか聞けば教えてくれるだろ?」
フィルマール商会は確か貴族向けの服飾関係を取り扱う店だ。
シュヴァルツヴァルト家経由で俺も何度か依頼をしているし、代わりは城の料理人を貸せば良いだろう。
「いいえ、団長。今回は私の名でお断りしておきます。今はエードルフ様のお名前を出したくありません」
ルドヴィルは何やら考えているようで、自分の名を使いたいという。
「わかった。ルドヴィル、頼むよ」
「承知しました、団長。アーヴィンも知らせてくれてありがとうございます。これで
方向は決まった。だがなぁ……。
これだけの評判になったのは、ハルナの頑張りなのに、それを認めてやれないのは悔しいな。
(ハルナには悪いが、販売も止めさせないといけないな)
出張料理も販売も禁止だなんて、きっとハルナはがっかりするだろう。
ハルナの存在を知られないためとはいえ、こんな事を言わねばならない事に、俺はとても気が重くなった。
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