ハルナ、元金の一部返済と間借り売りを始める

 結局団長は何もせず、部屋まで送ってくれて、何事もありませんでした。

 結構いい雰囲気だったと思うけど、何もナシかぁ。

 団長は淡白なのか、それとも私はタイプじゃないのか……。

 結構頑張って誘ってみたんだけどな。

 やっぱりこう……、もっと色っぽく誘うべきだったのかな?

 でもなぁ、こっちの色っぽさの定義がよくわからないのよね。

 何せプロの誘い仕草が『スカートたくし上げの生脚見せ』だもの。

 しまった。そういうこともパメラさんに聞いとけばよかったじゃない。

 私の馬鹿バカ!!

 あ、そういえばweb小説にもあったわね。貴族モノで閨への誘い方。

 何だっけ? えーと。


(情けをくれとか……だっけ?)


 そもそも、なろう貴族知識ととここの貴族作法は違うかもしれないだろうけど。

 大体、団長は貴族の規格外すぎてどうしたらいいかわかんないわよ。

 こんな事、恥ずかしくて同じ貴族の悪魔ルドヴィルさんには聞けないし。

 そんな事を思いながら、悪魔の執務室の扉をノックして開けると、団長もいた。

 おおう。この前の事を思い出し、ちょっと動揺しちゃった。


「ルドヴィルさん、これが今回の返済よ。さあ、さあ、さあ! 数えてちょうだい!!」


 私は満面のドヤ顔で皮袋から金貨と銀貨をルドヴィルさんの机に積み上げた。


「わぁ、すごいなハルナ。ちゃんと儲かったじゃない!」

「確かに金貨15枚と銀貨8枚。これで利子含めて現在の残高はちょうど金貨5枚ですね」


 ルドヴィルさんは帳面につけて、引き出しから金庫を出して開け、金貨と銀貨をしまう。

 この金庫、ルドヴィルさんと団長しか開けられないそうなので、気軽に机の引き出しにポイっと入ってる。

 引き出しに鍵はないので、箱ごと塔の外に持ちだされたらどうするのかと興味本位で聞いたら、持ち出した者を確実に追えるような印が付くらしい。

 シルヴァン君曰く「とってもエグい印だよっ♡」と言っていたから、めっちゃホラーな感じなのかもしれません。

 南無阿弥陀仏。


 はい。最終的に。

 仕入 2,500リーブル

 売上 20,550リーブル

 と言うことになりました。

 シルヴァン君のバイト料は1枚上乗せして金貨2枚にしました。

 ここで一括返済も考えたけど、ちょっと考えていることもあって、少し貯金に回しました。

 残り金貨5枚。本当にあとちょっと。

 トイチの利子が憎いけど、元金減ってるから利子も減る。

 様子を見て、利子が響くなら一括返済しよう。

 それにまだ秘策はあるのよ。内緒だけど。


「と、言うことでルドヴィルさん。次回の給金、返済は1回お休みしたいの。ちょっと欲しい物があって」


 返された空っぽの革袋をエプロンのポケットにしまい、私はにっこりと笑って言う。


「よろしいですよ。お休みの間でも、利子は増えますから、ご承知おきくださいね」

「ええ、もちろん承知しておりますわよ。おほほほー」


 私は悪役令嬢並みの高笑いをルドヴィルさんに聞かせると、さっそうと1階のキッチンへこもった。


 ※ ※ ※


 あくる日、私はキッチンにこもって作ったものを籠に詰め、ルンルンで町へ向かう。

 今日のお迎えは靴屋のスティーフェルさん。団長達の靴のメンテナンスに来てくれたので、帰りに乗っけてもらった。

 プルファ祭はフライドポテトだけでなく、私の名前も売れた。

 何と売上コンテストでは堂々の第7位!

 やったね、ハルナさん。これでド貧乏脱出よ!!


 この成績を実績として見てもらえた結果、今は宿屋のお土産スペースを少し間借りして、作ったものを売る事ができるようになりました。

 そこで少し返済を減らし、貯めていた貯金とこの前の儲け、お給料を使っていろんなものを作っている。

 いずれ塔から出て自立するための資金づくりと仕事にするためだ。

 いつ帰れるかわからなくても、ずっと団長達にお世話になりっぱなしって訳にもいかないし。

 最初は日持ちするクッキーや寝かせて美味しいパウンドケーキから始まり、今では葡萄酒酵母を使ったパン、瓶に詰めたジャムやサルサソースなんかを置いてある。

 これらが評判になり、中には近隣からも買いに来てくれる人がいるくらいの評判になった。

 おかげで毎日納品しないと売り切れで迷惑をかけてしまうくらいだ。


 宿屋の裏口で呼び鈴を鳴らすと、ご主人が出てきてくれた。


「よぉ、ハルナちゃん。来たな。入れよ!」

「お邪魔します。ガスティーさん。ごめんねぇ、遅くなって。持ってきたよ~」


 私はぎゅう詰めの籠をドンとテーブルに乗せた。

 早速ガスティーさんが籠から品物を出してチェックしていく。

 空になった籠を持って、いつものように買い出しに出ようとすると、「なあ、ハルナちゃん。今、ちょっと話せるか?」とガスティーさんはちょっと改まった言い方で私を呼び止めた。


「いいけど、どうしたの?」

「あのな、ハルナちゃんのパンとケーキ食った商会の商人が、ぜひともウチでも販売させてほしい、ハルナちゃんに会いたいって話と、それとは別に貴族向けの接待で出張料理を頼みたいって話があるんだよ。どうする?」


 何ということでしょう。

 私にご指名が入りました!!


「勿論やる! 絶対に引き受ける!!」


 勢いこんで言う私にガスティーさんは引き笑いしながら了承してくれる。


「わかったよ。先方に話、通しておくな。打ち合わせなんかは隣町になるが、俺が送っていってやるよ」


「わぁ。ありがとう! ガスティーさん。じゃあ好きなの2つ持って行って!」

「んー。じゃこのマフィンとチーズケーキ貰うよ。うちのチビ共が好きなんだ」


 ガスティ―さんはにかっと笑い、娘さんたちのために、マフィンとチーズケーキを手に取る。

 お姉ちゃんがマリーちゃんで、妹がセシリアちゃん。

 双子でとてもかわいい看板娘なのだ。


「じゃ、私、買い出し行くね。精算は帰りにまた寄るよ!」

「ああ。向こうの話も精算も任せとけ!!」


 私はガスティーさんに手を振って宿屋を出ると、気をよくして次の納品メニューの事を考えていた。

 すべて順調、こともない毎日です!!

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