ハルナ、酔っぱらう(祭の夜)

 プルファ祭の日中は子供が楽しむもの、夜は大人が主役、特に男女のための祭りなんだって。


 紫色の月が天頂に上るまでの数時間は無礼講、広場にある大きなライラックの下ではお酒やおつまみが出ていて、今日の出店や一年の労働をお互い労いあう。

 この日を境に年も変わるから、年末カウントダウンパーティーみたいなものね。

 ちなみにお子様たちはみーんなスヤスヤ夢の中。

 この日だけ食べられる特別なお菓子があって、親がそれに魔力を込めて食べさせると、朝まで目を覚まさないんだって。

 だから大人たちは安心してパーティーに参加できるって寸法です。


 そして私、勧められるままにお酒を山ほど飲んで、すっかり出来上がっています。

 いつもの葡萄酒に透明なキツ目のやつに、ビールっぽいエール、ウイスキーみたいな色のやつ。

 今日だけは勧められたら、絶対断ってはいけない決まりなんだそうです。

 断っちゃいけないなら飲まないとね。


「うへへへーっ。たーのしぃー!!」


 はい。私あっさりと出来上がりました。

 二日酔い? そんなの例の魔力水で一発解消。ありがたい世界ですよ。


「おっ、ハルナちゃん、まーだリボンつけてるじゃねぇか! 時間切れになる前にその辺歩いてこい。いい男いるかもしれねぇぞ!!」


 肉屋のフリーチェさんが私のコップにどぼっと葡萄酒を注ぐ。

 ムキムキの左手には、ひげ面に不似合いなピンク色の可愛らしい色のリボンが結ばれてる。


「そうよぉ~~。ハルナちゃん若いし独身なんだから楽しまないと!! 結婚しちゃうと遊びにもいけなくなるし、髪留め一つだって買ってくれなくなるわよ~」


 フリーチェさんの奥さん、ピンクの髪の毛をアップにまとめたパメラさんがご自慢の腸詰を片手に、エールを呷る。

 このパーティ、ちょっと変わってて、女性は左手に自分の髪の色の布をリボンにして結んでおく。

 これを紫の月の光の下で男に解かれると、既婚未婚関係なく、お持ち帰りに同意した事になるんだってさ。

 一日だけとはいえ、堂々と不倫してもいいなんて。

 随分と未開の文化ね。引くわ。

 でも、夫婦はよっぽどの事でもない限り、フリーチェさんとパメラさんみたいに、さっさと奥さんのリボンを片手に巻いて二人で酔っぱらっている人がほとんどっぽい。

 さすがに奥さんに手を出されるのは嫌なのね。独占欲とかカワイイじゃないの。

 ちなみに断る場合や声を掛けられたくない場合は、ライラックの木の下にいるか、逃げ込めばセーフ。

 だからここは安全地帯。


「うるせぇ! お前はいつもねだってばっかじゃねぇか!!」

「ああん? 腸詰だって燻製肉だってアタシが作った方が売れてるわよ!」

「そのひき肉はどっから調達したんだ。俺が心と魔力を籠めてミンチにしてんだよ!」


 結論。

 結局仲いい。見せつけやがって、チクショウめ。

 むなしくなってコップの葡萄酒を一息に飲み、言えない秘密を心にこぼした。


(大体若いって言っても、見た目だけ。私、中身は40歳なんだよねぇ……)


 こればっかりは団長に言ってない。

 だってコソ泥って呼ばれた時点でブローチの効力発揮済み。

 団長は私のピチピチ25歳姿しか知らないんじゃ、実は40歳なのだと晒す勇気が……ない!


 ああ、そういや団長、「迎えに行く前に木の下から出たら、ハルナの給金減らす!」とか言ってたらしいけど、馬鹿よね。誰かが声をかけてくるとか、そんなのある訳ないじゃない。

 でもなぁ、お持ち帰りはともかく、迎えに来た団長とデートくらいならしたいかなぁ。

 せっかく25歳なんだもん。

 そろそろパーティーもお開きの時間だし、歩いてるうちに酔いもさめて、団長も来るかな?

 よしっ!


「ちょっとイイ男、探しに行ってくる!!」


 飲みかけのコップを置いて、フラフラと大通りに出ようとすると、アーヴィンさんが私の腕をつかんで引き止めた。


「わーっ。ハルナさん、騙されないでくださいよ。出歩いたら私の給金も減らされるんですよ!」

「かーっ。もう、固てぇ事言うなよ、アーヴィン。今日は国王陛下であろうと命令しちゃなんねぇ日だぞ! いいから歩いてこい、俺が許す!」


 引き止めるアーヴィンさんの手を、フリーチェさんご自慢の腕力で引っぺがしてくれる。


「っし! じゃハルナ、行っきまーす!!!」


 自由になった右手をあげて敬礼すると、私はフラフラと大通りに向かって歩き出した。

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