嘘つき達の夜(ハルナ)

 うふふーん。酔ってまーす!

 すごいよねー異世界。

 でもいいんだぁ。今日だけは何かあっても無問題。


 それは何故かっていうと……。


 昔、ある領主様が、プルファの儀式の忙しさでうっかり税金徴収を忘れてしまった。

 今更計算するのも回収も面倒くさくなってしまい、領民には「今日だけは売上0と報告せよ」と命じ、王様には『この日は我が領民の安息日、売上などありません』とすっとぼけて報告したのが始まり。


 売上がなければ税金を納める必要も報告の必要もないもんね。

 瞬く間にこの領主の行いは国中の民に広がって、我も我もと各地の領主に求める事態になり、国王様も折れ、祝いとして税金を免除する日になったそうだ。

 平民はそれにあやかって今日だけは何があってもなかったことになる日、になったんだそう。


(だけどイイ男どころか、もう人間が歩いてないよ、パメラさん……)


 すっかりお持ち帰りの波は引いて、紫色の妙にムーディーなライティングの街並みだけ。

 時々猫がフラッと姿を現してくれて、ちょっと楽しいけど、すぐに飽きてしまった。

 ちえっ。団長も全然来ないし、ハルナさんすねちゃうよ。


「悪い子ハルナはぁー、言いつけやぶっちゃうもんね!!」


 てぃっとライラックの木の下から出た。

 さあ、来るならどっからでもかかってきなさい。

 おねぇさんが相手をしてやるわよ。

 RPGの通常戦闘曲を口ずさんで、敵とのエンカウントを待ちながら、ぷらぷらと歩く。

 冷たい夜風が吹き抜けると、火照った体が冷めて気持ちがいい。


(フラれたばっかりで早速他の男漁りとか。私ってホント悪い子だぁ……)


 左手首のリボンを紫色の光越しにひらひらさせる。

 こっちに来てから忙しくて賢二の事、全然考える暇もなかった。


「賢二、どうしてるのかなぁ」


 今ごろは若い女の子捕まえて楽しくやってる?

 それともおっさんだって、若い女の子に毛嫌いされてる?

 そっちの方が胸がすくけど。


(私、あんまり賢二の事、悪く言えないかも知れない、な)


 だって私が団長なら、やっぱり子供欲しいって思うもの。

 子供産めないかもしれないって、貴族制度で成り立っているお国柄ではマイナス要因だよ、確実に。

 日本の庶民のように子供が独立しておしまいって訳じゃない。

 ましてや団長はお貴族様。いずれちゃんと結婚して子供を持って、家と血を残していかなきゃならないんだから。


(やっぱり、私じゃダメだよなぁ……)


 唯一良かったのは、団長は今後誰とも契約できないから、私の若返りと共に付き合いはこれからもずっと続く。

 こちらにいる限り、私と団長の関係はきっと続けられる。

 将来、団長に奥さんがいても大手を振って団長に会える理由がある。

 それだけでも感謝して、帰れなかった時のために若さ以外のスキルを手に入れて、何とか生きていけるようにしないと。

 ああでも、せめて中身が30代で出会えればワンチャンあったかもとちらり思い、若けりゃなんでもクリアできると考える自分を脳内でぶん殴る。


「こーら。襲うぞ。この酔っ払いめ!」


 すっかり考えこんで立ち止まっていた私の前に、いつの間にか団長がラーメン屋さんみたいな腕組みをして仁王立ちしてました。

 敵モブも前座もすっ飛ばして、いきなりラスボス登場です!


 さぁて次回の『ハルナさん』は


『ハルナ、団長を諦める』

『ハルナ、団長に襲われる』

『ハルナ、団長に嫌われる』


 のどれかでお送りしまーす。

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