ハルナ、フライドポテト無双する

 ……じゃがいも職人の朝は早い。。。

 ……彼女はまだ夜も明けきらぬ時間に起き出し、大量のじゃがいもを洗っていた。。。


 ――ハルナさん、こんなに朝早いのは辛くないですか?

 ――ええ、辛いですよ。でも私には借金を大幅に減らせるチャンスなんです。何としても今日は成功させないと……。


 ……じゃがいも職人は言葉少なに語って、大量のじゃがいもを丁寧に洗い続けていた。。。


 ちゃちゃちゃーらーらー、ちゃちゃちゃらららら……。。。

(40歳・女性・塔の使用人)


 まだ外は真っ暗ですが、おはようございます。ハルナです!

 朝から脳内なんとか大陸風でテンション上げて頑張ってます!


 ついに来ました。年に一度のプルファ祭!!

 今日は私の運命の一日です。

 勝てば繰り上げ返済、負ければ悪魔の借金上乗せの大勝負!


 団長とルドヴィルさんは辺境伯様のところで儀式のお手伝いが少しあるそうですが、下々の私には儀式は関係なく、お祭りに専念しますよ!

 私の10日分のお給料を全部仕入れに回し、出店で大勝負に出る事にしました。

 メニューは「フライドポテト」です。

 本当はトルネードにしたかったんだけど、手動で切るのに時間がかかりすぎるため諦めました。


 調査したところ、この地域はベイクドポテトが主流のようで、フライドポテトは見かけない。

 ここに来た頃、付け合わせで出したらものすごくウケたんだよね。

 ディップもちょっと辛いサルサソースとヨーグルトソース、2種類用意しました。

 辛すぎたら二つを混ぜるとマイルドになるのよ。

 これならお酒のおつまみにも、子供のおやつにも、どちらでもいける、はず!


 ここで大きく稼いで借金を大幅に減らすのよ!!

 八百屋さんのと塔の畑のじゃがいも、両方で試作したけど、塔の畑のじゃがいもがやっぱり美味しくて、思った以上の出費になったけど、仕方ない。

 よーく見てなさい、悪魔ルドヴィルさんめ!!

 web小説読み込んだこの私自らが、華麗な“ざまぁ”見せてあげるわよ。おーっほっほっほっ!!


 ※ ※ ※


 この世界は便利なもので、食材や道具など持ち込みはすべて転移陣でパッと瞬間移動させるらしい。

 必要なものを転移陣の上に置き、出店場所で転移陣を広げて“呼べ”ば道具も材料もそろって到着。

 なんて便利な世界でしょう。

 ちなみに移動は今日のバイト、シルヴァン君が手伝ってくれました。

 バイト料は金貨1枚とフライドポテト食べ放題です。

 転移陣あればぱっと送って受け取れるのに、何故塔にはわざわざ馬車で配達するのかと尋ねたら、


「平民の魔力では自分の婚姻の石サイズの転移が限界、それ以上の大きさの転移陣を動かすには貴族くらいの人間でないと、魔力消費の大きさに身体が耐えられないんだよ」


 ちなみに耐えられない量の魔力が身体を流れた場合、身体が魔力に飲まれて、そのまま魔物になってしまうそうです。

 ひぃっ。怖い!!


 卓上IHヒーターみたいな魔術式の書かれた台を出店にセットして、鍋の油を温めておく。

 こっちにもちゃんと家電っぽいものがあり、動力は魔力というファンタジーなものですが。

 この魔力、団長との契約中の今だけは例のブローチ経由で私も使える。

 こういったコンロをつけたり、オーブンをつけたり、魔力ランプをつけたりとか、魔術式というものが組み込まれている物に限ってですが。


 私の出店の場所は、お隣は都合よく酒屋さんのエールや葡萄酒とお肉屋さんの腸詰やベーコンを焼くにおいに挟まれたポジション。

 ちょっと飲食スペースまでが遠いけど、結構いい位置じゃないかな。


 傍らのじゃがいもはいい感じに乾き、小麦粉も準備が済んだ。


「さてと……。準備はいいかな、シルヴァン君?」

「いっぱい食べるから、ばんばん揚げてね、ハルナっ!!」


 揚げた芋を入れるための油紙を両手に持ち、しっかりと臨戦態勢のシルヴァン君だ。

 いつの間にやらエールのジョッキを傍に置いていた。

 いや、シルヴァン君はまだ食べちゃダメよ。


「ハルナっ! ほら鐘の音。始まったよ!」


 シルヴァン君が指差す方向からポツポツとやってきたかと思うと、人出はあっという間に道を埋め尽くし……。


「何で……どうして隣ばっかり行列なのよ!」


 いくら新規参入にしても酷くない? ちょっとくらい来てくれてもいいじゃない。


「そりゃあみんな毎日食う芋より、エールと腸詰が好きだからだろ? ほら、ハルナちゃんも食えよ、腸詰!」


 ドヤ顔でフリーチェさんがカリカリに焼けた骨付きの腸詰を突き出したかと思えば、


「確かに腸詰にはエールだな。ハルナちゃん、飲めよ!」


 どんっとベトランさんが私の前にエールのジョッキを置く。


「わぁ、良かったねぇハルナ! タダ酒だよ!!」


 呑気にシルヴァン君はうらやましがる。

 君はバイト料、要らないのか? 売れないとバイト料はなしだぞ。


「きいっ。くーやーしーいー!!」


 私は骨付き腸詰をかじり、エールを呷った。

 くっ。確かに美味いわね。でもウチのフライドポテトだってエールに合うし、腸詰の邪魔をしないのよ。美味しいのよ。

 だけどこのまま売れないと悪魔の思うつぼ、祭りの後に悪魔ルドウィルさんが「おや、残念でしたねぇ。では借金上乗せですね♡」と言って、私の心をへし折りに来る。

 それだけは避けないとダメっ!!

 そしてひらめいた。隣が売れるなら便乗すればいい。

 私は2つ分を揚げ、油紙につっ込んで腸詰の列に殴り込みをかける。

 さくさく食感と芋のホクホク感。これが伝わればいい。

 味は塩だけで十分。


「さあ、腸詰とエールのお供にフライドポテトはいかがですかぁ? 今ならお試しでお配りしてまーす!!」


 私ははみ出た行列に配り歩く。

 “ ご一緒にポテトはいかがですか?”作戦だ。

 こうやって好きな人と分け合うことができるのも、フライドポテトの魅力よね。

 配り歩いた結果、ようやく4歳か5歳くらいの女の子が買ってくれた。


「おねぇちゃん、ひとつください!!」

「ありがとう。熱いから気を付けるのよ」

「うん!」


 小さな女の子は大事そうに抱えて、立派な身なりの男の人のところへ走っていった。

 なーるほど。ああいう人達は子供に買わせて受け取り、子供はお駄賃受け取るのね。

 それがきっかけで順調に売れ出し、お昼までには結構な量がはけていた。


「ねぇ、ハルナ~。ボクの分は?」


 振り向けば、空っぽの油紙を持って、不満そうなシルヴァン君の顔。

 はけ過ぎて、結局シルヴァン君の分が残らなかった。

 ゴメン。

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