第10話 深夜のガールズトーク!?

第三章


十 深夜のガールズトーク!?


「やべぇ、全然眠くなんない」


――深夜。


 いつもならとっくに寝ている時間なのに、今日に限って全く眠れる気配が無い。


 ベッドサイドにはロッソから貰った帝国の本が数冊。

 全部一度は目を通したし、いくら眠くないからって、この時間から読むには内容が重めだ。


「起きてるかなぁ? ってか、寝るのかな?」


 本を読む気にもならないし、よっと反動を付けて起き上がると、独り言を呟きながら鏡台に近づく。


 ピンク色の可愛らしい布をめくると、鏡の中に居るお姫様の魂はこんな時間でも当たり前のように起きてた。


『あら、ヴィオ。こんな時間にどうしたのですか?』


 オレに気付いたお姫様はニッコリ微笑んでくれる。

 毎回思うのだが、同じ顔なのに全然違う。

 やっぱり、仕草とか染み出す気品とかそういう物が違うのだろうか?

 お姫様の方が全然可愛いんだよな。


「いやぁ、何だか寝付けなくて。っつーか、お姫様は寝ないの?」


『たまにウトウトする事はありますが、ここは朝晩とか無いので、規則正しい生活とはなりませんわ』


「そっかぁ」


 鏡の世界はなんと言うか、その時々によって風景が微妙に違うんだけど、基本的にファンシーでドリーミィな世界なんだよな。

 お姫様の意識の世界とかなのかな?

 寝るときは普通のベッドでは無くて、お花のベッドや虹のベッドが登場しそうな雰囲気だ。

 絶対似合うと思うから、是非見てみたい。


『それで、ヴィオは眠れないのですか?』


 鏡の中の生活に意識を向けていたら、お姫様が心配そうにオレを覗き込んできた。

 くっ、行動一つ一つが可愛すぎる。


「あっ……ああ。普段そんなに緊張するタイプじゃ無いんだけどさ、何だか寝付けなくて」


『この状態になって初めての遠出ですしね。しかも、婚約者候補殿と一緒ですものね』


「そう……なんだよな。遠出は楽しみなんだけど、これって結婚話が進んじゃうだろ? お姫様はオレの判断に任せてくれるって言ったけど、不安にはなっちゃうよな」


『マリッジブルーですか?』


「まだマリッジまで行ってねーだろ!? 大体、行って良いの!?」


 お姫様のぶっ飛んだ発言に思わずソッコーで切り返してしまう。

 以前だったらこんな風に強く言い返したら涙を浮かべていたのに、お姫様も強くなったものだ。

 オレの慌てた様子を見て嬉しそうに目を細めている。

 良い性格してるよ、全く。


『まだ……ですか。レオーネ様のこと気に入ってらっしゃるんですね』


「何でそうなるんだよ!?」


『ですが、嫌いでしたら北の森には行きませんわよね?』


「うぐっ。確かに嫌っては居ないけど……。お姫様はさぁ、分かってると思うけど、オレ元々は男なのね。だから、ロッソのことは一緒に絡んでいて面白いとは思っているけど、そう言う対象にはならないというか、何つーか、部活の先輩みたいな感じって言うか……。そもそもさ、あいつ直ぐ人に手を出してくるんだよ。しかもいっつも偉そうだしさぁ……って、あれ? あいつ良いところ無いんじゃないか?」


 何か隙あらばチュッチュ、チュッチュされてるし、やたらからかってくるし。


 そんで、

 自分は年上で余裕有りますから~。

 顔してるし。


 くそっ!

 腹立ってきたぞ。


『うふふ。ブカツって言うのは何だか分かりませんが、レオーネ様は結構律儀なところもあるじゃ無いですか』


 微笑みながら姫は掌をベッドサイドに向ける。

 そこにはロッソが帝国から持ってきてくれた本が数冊。


「まぁ、持ってきてくれた本は面白かったけど……」


『元々ヴィオの居た世界は随分違うようですが、こちらの世界では本はとても貴重です。国境を越えて持ってくることはかなり大変だったと思いますわ』


「そうなのか」


 暫く前に本を渡されたときも、

「ほらよ」

って、軽い感じだったから、まさか大変なことだとは思わなかった。


『ですが、荷物の中に入れていないと言うことは、これらの本は置いていくのですか?』


「ああ、流石に全部持って行くと荷物も増えちゃうしな。一冊だけ薄くて小さい絵本っぽい詩集があってさ、それだけ荷物に入れておいたよ。オレ、寝る前に何か読みたい方だからさ」


『あらぁ、では持って行かない本は、この鏡台の引き出しにしまっておいた方が良いですわよ。鍵もかかりますし』


「そうだな、一応異国の本だし、そうさせてもらうよ」


 朝起きた時だとバタバタしてしまいそうなので、今のうちに言われた場所にしまって、しっかり鍵をかける。鍵は明日持って行くポシェットに入れておく。

 オレはもっとサコッシュっぽいデザインの方が好きなんだけど、エミリィちゃんに軽く却下されてしまった。


『ねぇ、ヴィオ』


 鍵をしまい終わったタイミングでお姫様が声をかけてくる。


「どうしたんだ?」


『レオーネ様のこと、良いところが無いって言っていたけれど……私が言うのも変だとは思いますが、多分、それを知るために北の森まで行くのかも知れないですね』


「良いところを知るための旅? まぁ、確かに城で会っているだけじゃあ、よく分かんないもんな。でもさ、良いところ見つからなかったらどうする? それに、良いところが有ったってこれ以上婚約話を進めたく無いってなったら……」


『その時は解消すれば良いじゃありませんか。ヴィオならまだまだ沢山素敵な方に出会えますわ……もしかしたら、もう出会っているかも』


 う~~ん、オレとしては女の子と出会いたいんだけどね。

 ってか、オレ自身、本当はただの男子高校生だし、彼女がいたことも無いから、相手が男だろうが何だろうが、そもそも結婚なんてまだ考えられないし、例えもっと大人だったとしても、絶対にしなきゃいけないものだとは思っていないんだけど……。

 この世界でお姫様っていう立場だと、きっとそうも行かないんだろうな。


 だけど、そんな中でも、もし気に入らないなら婚約を解消すれば良いと言ってくれたのは、お姫様なりの精一杯のエールなんだろうな。



「それにしても、これ以上男と出会うのはゴメンだよ」


『まぁ、もう結構出会っていますものね』


「え?」


『レオーネ様の補佐の方も素敵じゃありませんか』


「はぁ? ルーカ? あいつは年上好きらしいから、オレは圏外だろ。っつーか、こっちもあんなにチャラい陽キャはお断りだ。って、どうしてルーカの容姿までを知っているんだ?」


 その日の出来事を話す中で名前は何度も出ていたけど、具体的な容姿の話は殆どしていなかった筈だけど。


『お母様の形見のコンパクト以外にも、古い鏡の幾つかにちょっとだけ移動できるようになりましたの』


「へ? そうなの? そう言うことは早めに教えてくんない? ビックリするんだけど」


『本当はもっと色んな事が出来るようになってからビックリさせたかったのですけれどね』


「いやいや、折角力を付けてきたなら、そのままこの身体に戻れるようになって欲しいよ」


『うふふ』


 笑ってごまかす顔も可愛いじゃないか。


「それにしても、ロッソとルーカかぁ……」


『ヴィオの周りには他にも既に……』


「ふわぁぁ」


 お姫様が何か言いかけたのに、大あくびをしてしまった。


『あら、眠くなってきたのですね』


「ああ、急に。っつーか、ゴメン。今、何か言いかけてなかったか?」


『いいえ。明日も早いですし。おやすみなさいヴィオ』


 もっと話したかったのに、眠気には勝てずそのままベッドに潜り込む。


『あなたは誰を選ぶのでしょうね?』


 遠のく意識の向こう側でお姫様の声を聞いたような気がした。


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