第11話 やわらかクッションに望みをかける
第三章
十一 やわらかクッションに望みをかける
――出発の朝は抜けるような青空だった。
どうやら
とは言え、体感だけど、
暦だと丁度春。
ただ、向かうのは帝国との国境沿いの北の森。
国の宝でもある
一応、文を送れば返事をくれるようなので、賢者というのは居るらしいのだが、どんな人物なのかも分からないし、
「それにしても、思ったより少ない人数で向かうんだな」
姫と言う立場故なのか、それとも色々知らせるとオレが
なので、城の前の馬車と従者たちを見て、ついポロッと口を吐いてしまった。
国の宝であるお姫様が旅に出るのだから、もっと大名行列みたいな者を想像していたんだけど、二頭立ての馬車が二台、
帝国側は何と婚約者候補のロッソとその右腕のルーカの二人だけだった。
この後、出発前に国王たちが顔を出すようだが、まだ少し時間があるので、
「あくまでも国内旅行ですからね。それに、北部は国境を通れる街道沿い以外は田舎道で治安も悪くないですから」
聞こえていたのは側で控えていたエミリィちゃんだけだったようだ。
「そう言うもんなのか」
オレが周りを見渡していると、エミリィちゃんがより一層声を潜めて来た。
「あとは……、まだ婚約を国内にアピールするのは時期尚早ですから、目立たないようにと言う意向も有るみたいですよ」
「あっ、成程ね」
先日の話ではもっと沢山の同行者がいそうな気配だったけど、そういう事情もあって相当人数を絞ったのかもな。
確かに、この旅行で婚約話自体が無しになるかも知れないわけだし、もしGOサインが出たとしたら
「レオーネ様、ルーカおはようございます」
一応、他の人の目もあるので、ちゃんとした言葉遣いで挨拶をする。
「ああ、おはよう。顔色がイマイチだが、昨日はしっかり眠れたのか?」
王国の者たちが慌ただしい中、帝国の二人は支度もすっかり終わっていて落ち着いた様子だった。
いつもだったら意地悪くからかってくるロッソも一応TPOは
こっちも敬語で話しているんだから、お互い様かも知れないけどさ。
「まぁ……少し寝付きは悪かったですが、最終的には眠れました。ですが、寝不足なので馬車で寝てしまうかも知れません。って、レオーネ様たちは馬車に乗らないのですか?」
馬車が二台有るから、てっきり王国側と帝国側で別れて乗るのかと思ったけど、一台目の馬車にはオレとエミリィちゃんの手持ちの荷物が置かれていて、二台目はどうやら第二王子ベージュが一人で乗るようだ。
ロッソたちの傍らには立派な馬がスタンバイしている。
自分で馬に乗るって事なのか?
婚約者候補なんだし、国賓とまでは行かなくても、大切なお客様じゃ無いのか?
「本当はもう一台馬車を出すか、ベージュ王子と一緒に乗ると言う話も出ていたのだが、自分で馬に乗る方が性に合っているからな」
「そう言えば、帝国の騎士団長なんですもんね」
「そう言えばって、失礼だな。そちらこそ、馬車は大丈夫なのか?」
「え?」
「いや、だから北の森までは結構距離があるが、馬車には強いのか?」
ん?
そういやオレ、馬車なんか乗ったことないや。
中学の頃、修学旅行の自由行動班で人力車にだったら乗せて貰ったことがあるけど、あんな感じなのか?
いや、あれはそもそも人力だし、道だって舗装された観光地だった。
今回は馬だし、道だって元いた世界とは違うだろう。
さっき、エミリィちゃんが田舎道って言っていたし。
「あのさ……馬車って酔うの?」
心配のあまり敬語を忘れてしまう。
「その辺は体質だが、慣れないと尻は痛くなるぞ」
ロッソが不穏な言葉を放ったタイミングで、城から国王を始め王族たちが見送りにやって来たので、皆がそちらに目を向ける。
第四王妃イザベラ様と第五王妃ローザ様が小さく手を振ってくれる。
特にイザベラ様からは大事な手紙も預かっているので、目立たないように小さく頷いてみせる。
他にも幼い弟妹たちが手を振ってくれる。
国王からは言葉は無く、代わりに第一王子ネーロが話し始めた。
「こうして良き日に旅立てることを天と
「アメジスト国王、まずこの様な機会を賜り感謝します。ネーロ王子、お気遣い痛み入ります。ヴィオーラ姫のことは全身全霊でお守りいたします」
先日の子供みたいな言い争いとは打って変わって、しっかりとした挨拶を交わす二人。
うわ~、この二人って一応ちゃんとした大人なんだな。
って、ちゃんとはしてないか、色々。
でも、こうやって決めるところ決められるんだからオレより大分大人なんだな。
感心していると、国王が口を開いた。
「ヴィオーラ姫」
「はっ、はい!」
急に声がかかりビックリする。
「元気になったのは良いが、くれぐれも無理をしないように。ベージュ王子の言うこともしっかり聞くように」
もう少し話したそうな様子だったが、側近に耳打ちされ、言葉はそこまでで終わってしまった。
王様は中々自由に発言できない立場のようだ。
姫って言うのも窮屈だけど、王様もなかなか大変だな。
「分かりました。元気なままで帰ってくるとお約束します」
そして、どうにか本当のお姫様をこの国の皆に返してやりたい。
気持ち的には拳を突き上げて決意をアピールしたいところだけど、この可愛らしいお姫様の外見でやってしまうのは、なかなか衝撃的なので、お姫様らしく優雅にお辞儀をする。
このスカートの端を掴むお辞儀もやっと少し様になってきた。
その後、王国側の騎士団長とベージュと手短に挨拶を交わし、馬車に乗り込む。
幸い、座席はクッションが敷かれていて柔らかい。
大丈夫……だよな?
一抹の心配(主にお尻方面)を抱えつつ、いよいよ北の森へ向かって出発する。
馬車の窓から城が見えなくなるまで手を振った後、ポシェットの中の姫の魂が入ったコンパクトを指先でそっと撫でる。
鏡の中のお姫様にとっても、オレにとっても良い旅になると良いな。
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