第8話 結局夜中まで一緒じゃないか!
第三章
八 結局夜中まで一緒じゃないか!
ってか、普段
女の人相手には
普段はこき使われたり、ろくでもない扱いを受けているからあんまり気にならなかったんだけど、
何気に睫毛も長いし、瞳もちゃんと見るとやっぱり凄く綺麗。
整った顔の人に真顔で見つめられると男女関係なく緊張してしまう。
あ~、全然頭が働かない!
「やっぱりネーロ王子は優しいですね」
空っぽな頭から出てきた台詞は、正直な感想だった。
「どういう意図で言っているのだ?」
オレが急に変なことを口走ったので、ネーロの唇があと数ミリの距離で止まる。
ちょっとでも顔を動かしたら重なってしまいそうなんだけど、こっちは顎を掴まれているし、迂闊に動かせない。
それに、意図と言われても、思ったことを言ってしまっただけなので、慌てて相手に分かりやすいように言葉を追加する。
「えっとー、それはですね……ネーロ王子の立場だったら私の気持ちをそんなに気にする必要は無いんじゃないですか? 恐れ多い事ですが、もし私を気に入ったなら、直ぐに自分のものに出来るんじゃないですか?」
「成程。そなたの意思を確認したことを優しさだと捉えたわけだな。面白い視点だ」
ふふっと軽く笑うネーロの吐息がモロに唇にかかる。
「違うのですか?」
「確かにそなたが言うとおり、気に入った娘が居て、もし平民ならば、それなりの出身だと偽装して、側室にする事はそう難しくは無い。だが、他に将来を誓った者が居るのにそれを奪ってもお互い悲惨な目に遭うだけだ。こういう立場だと幼い頃から嫌と言うほど目にも耳にもしている。つまり自己保身だよ。最低限の危険回避だ。別に優しいからでは無いよ」
凄く自嘲気味に微笑むので、何だか胸が締め付けられる。
子供の頃からそんなハードな生活環境だったなんて、高校生のオレだってそんな様子を目にしたら辛いのに……。
ネーロの辛そうな顔を見て、どうして良いのか分からないけれど、自然とその頬に手を当てる。
オレより大分体温が低いのか、その頬は冷たい。
「無理強いした結果を悲惨だと感じるのですから、やっぱりネーロ様は優しですよ――えっ?」
言い終わるのとほぼ同時に世界がひっくり返る。
――バサッ。
ファイリングを待つのみだった書類の束が音を立て花びらのようにヒラヒラと落ちていく。
天井からぶら下がる魔法式の明かりがゆらゆらと揺れる。
その明かりを遮るように現れるネーロの顔はオレを見下ろしている。
――ん?
もしかしてだけど、オレ、押し倒されている?
あまりのことに認識するまでに時間を要してしまった。
気付いたら、オレの上半身は仰向け状態でテーブルに押し倒れていた。
「それで、そなたの返事は?」
「えっ? あっ……」
っつーか、この姿勢かなりヤバくない?
まぁ、さっきからずっと全部ヤバいんだけどさ。
「将来を誓った者や、心に決めた相手は居ないのか?」
「えっとー……」
将来を誓った者と言うと、嫌でも思い浮かぶのがロッソの顔。
仕方ないだろう、あんなのでも婚約者候補なんだから。
でも、オレじゃ無くて鏡に閉じ込められた姫の魂はどういう気持ちなんだろうか?
たまたま空っぽになってしまった姫の身体を間借りしているオレが、どこまで答えて良いものなのだろうか?
ってか、このままだと兄妹で色々してしまいそうなんだけど、それって良いの?
そもそもオレは女の子が相手の方が良いんだよ!
ああもう!
どうして良い感じに手が重なり合ってるんだよ!?
どうして心臓がこんなにうるさいんだよ!
魂は男子高校生だけど、身体は女の子だからなのか!?
それにしたって、相手は
しっかりしろよ、オレも姫の身体も!
思考がグルグルしてまとまらないオレの様子を見て、ネーロは面白そうに目を細めるとオレの耳元へ唇を近づける。
「このまま答えないなら、続けるぞ……ヴィオ」
「えっ?」
「バレてないと思ったのか?」
押し倒した格好のまま意地悪そうに微笑まれる。
「……お兄様、悪趣味ですよ。いつから気付いていたんですか?」
「ぶつかった瞬間は分からなかったが、その後少し話したときには普通に気付いたぞ」
「どうしてですか?」
「ハッキリ言うのもやや気が引けるが、背格好も特徴有るし、それにいくらその眼鏡で顔を隠しても、頭を下げたときとか横顔で分かるだろう」
ああ、確かにこのお姫様、小柄でありつつ胸のボリュームは申し分ないという珍しい体型だった。
それに、横顔かぁ。
「分かっていたなら早く教えて欲しかったです。私が将来を誓った相手が居ないと言ったらどうするつもりだったんですか? 全く」
「それも面白かったかもな」
「え?」
小さな声過ぎて良く聞こえなかったけど、ネーロは何か呟くとオレの耳たぶを軽く噛んでからパッと身体を離した。
「おっ、お兄様!」
「相手が居るとも居ないとも言えないのが、今のヴィオの答えなのだろう。……賢者の森とコンタクトを取れるのは魅力的だが、嫌になったらいつでも戻ってきなさい」
頭をポンポンと撫でられると、ネーロは散らばった書類を広い、隣の椅子に腰掛けた。
「お兄様?」
「さてと、残り少ないし、書類を片付けてしまおう」
「それは私の仕事です!」
「とは言え、書類を崩してしまったしなぁ。揃って夕飯に遅れると王妃たちも心配するだろう」
「ですが……」
量は多いけど、ただのファイリングをこの忙しい第一王子に手伝わせてしまって良いものか?
「夜中まで二人っきりで居たいなら構わないぞ」
「一緒に作業、お願いしまーす」
「素直で宜しい」
◆ ◆ ◆
その後は変な雰囲気になることも無く、書類整理に
ただ、穴開けパンチと紙ファイルの話をしたら大層興味を持たれてしまい、オレが私室に着替えに戻るときも、その後の夕食の際も付いてきて、ずーっとその仕組みについて質問されてしまった。
ってか、オレは別にオフィス用品の専門家じゃ無いんだってば。
それに、前々から思っていたんだけど、この
食後になっても質問は尽きず、結局夜のティータイムまで突入したんだから、結局夜まで解放されなかったことには変わりないのである。
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