第5話 王妃たちのチームプレイ
第二章
五 王妃たちのチームプレイ
聞き間違いかも知れない。
一番初めにそう思った。
否、そう願った。
だって、一国の第四王妃と第五王妃ともあろう方々が声を揃えて
「「
なんて訊くか?
これは、あれか?
もしかして、下世話な話では無く、お上品にどこかへお出かけしたとか、そういうことを尋ねているのか?
そうだよなぁ。
うん、そうに違いない。
とは言っても、別にどこへも出かけてないからなぁ。
外で会ったのだって、オレが城を抜け出した初日だけだし。
しかも、あれは内々に処理されて秘密扱いっぽいしなぁ。
「レオーネ様とは城内の応接間や図書室でお会いしただけですのでお出かけとかは特に……」
「どこへ出かけたなんて訊いていませんわ」
「しかも、お城を抜け出して会いに行ったことだって知らない筈がないでしょう?」
「うぐっ」
取り敢えず上品な仮面を被り、どうにかやりすごそうとしたオレの陳腐な作戦は、第四王妃イザベラ様と第五王妃ローザ様に容赦なく一刀両断される。
イザベラ様がビシッと指摘して、ローザ様が優しく逃げ道を塞ぐ。
とても連携の取れたチームプレイにより、速攻で土俵際に追い込まれる。
まだ、座って数分しか経ってないよ。
それに、まだお菓子だって食べてないし。
「えーと、それではどこまでって一体何のことやら……」
取り敢えず、落ち着いてお茶を頂こう。
そうだ、そうしよう。
「もう契ったのかしら?」
「ブーーーー!!!」
お茶吹いたよ。
よく、SNSとかで見る奴だよ。
まさか自分がそんなことをするとは……。
せめてもの救いは、王妃達にもお菓子にもお茶がかからなかったことだ。
いや、こんな変な質問ぶっ込んでくるイザベラ様には少しかけても良かったのかも。
だって、ケラケラ笑ってるし。
「イザベラ、直球過ぎよぅ」
一応、イザベラ様を窘めてくれてるけど、ローザ様も口元押さえながら笑ってるじゃねぇか!
「何よ、ローザだって気になっているでしょ? しかも、少し遠回しに訊いているじゃない」
遠回しか?
夜の営みはもう済ましてるのかって訊いているんだろ?
ってか、他の意味に聞こえないし。
「しっ、してません!」
「あら、そうなの? 城を抜け出してまで会いに行ったのだから、てっきりその辺は済ましているかと思っていましたわ」
「レオーネ様って、結構紳士なんですわねぇ」
「誰が紳士だ。あんなエロ騎士!」
はっ、しまった。
口からつい本音が零れてしまった。
オレの言葉を聞き、王妃達の目が光る。
「あら? 面白そうな単語が聞こえてきましたわね」
「どんなことがあって、そんなニックネームなんでしょうねぇ? うふふ」
「うぅぅぅ」
綺麗なお姉様方に詰め寄られるって、本当だったらかなりポイント高い状況なのに、全然嬉しくない。
だって、勢いが怖いし。
話の内容も修学旅行の夜みたいだし。
「大方、ディープキスくらいでしょ」
「意外と他のところも色々キスされているかも知れないわよぅ」
「色々って何ですか! 脚だけです!」
ぎゃー!
またバカ正直に答えてしまった。
でも、このまま変な想像をされる方が怖い気もする。
「ヴィオ様! そんなことまでお許しになったのですか!?」
テーブル脇で控えていたエミリィちゃんが驚きの声を上げると、イザベラ様がお付きのメイド達に視線を移す。
「ちょっと、貴女たち、ヴィオ様のメイドちゃんにもおもてなししておいて」
「「畏まりました」」
「あっ、ちょっと自分はヴィオ様に話が……」
王妃のメイド達にサロンの片隅に連れて行かれてしまうエミリィちゃん。
お茶を注がれたり、おもてなしを受けている。
エミリィちゃんが静かになったのを確認して、二人の王妃は好奇心に溢れた顔をオレに向けてくる。
「脚舐めってレオーネ様ったら、堅物そうに見えるのに意外とマニアックね」
「イザベラったら、ああ言う融通の利かなさそうな方ほどネチっこい攻め方が好きだったりするのよぅ」
いつもあんなに偉そうなロッソも、年上のお姉様方にかかれば、かなり好き勝手言われるんだな。
攻め方まであれこれ言われるなんて……オレが言うのもなんだけど、ちょっと気の毒だ。
ってか、ガールズトーク怖いよ~。
修学旅行の男子部屋より内容が濃いよ~。
オレも元の身体の時に彼女とか居て、キスとかそれ以上のことをする機会があったら、ガールズトークの餌食になったのかなぁ?
そう言う意味では、異性関係がクリーンで良かったのかも……って、良くねぇよ!
キスとかそれ以上は女の子としたかったよ~。
ついつい、自分の過去と現状を嘆いて現実逃避してしまった。
意識を目の前に戻すと、イザベラ様とローザ様はそのままルーカについても噂していた。
まぁ、帝国騎士団は何名か見たけど、あの二人が群を抜いて格好いいもんな。
それにしても……普段の食事で会うときとは、大分雰囲気が違うなぁ。
イザベラ様は三人、ローザ様は四人のお子様が居るから、いくらそれぞれに乳母やメイドが付いているとは言え、普段はもっとなんと言うか母親っぽいんだよな。
だけど今は、気の合う友達とお茶を飲む普通の二十代女子に見える。トークの内容はさておき。
「何か普通の女の子みたいですね」
十歳くらい離れた相手を女の子と呼ぶのは変かも知れないけど、そう見えたのだから仕方ない。
出されたお菓子をやっと口に入れつつ呟く。
あっ、このお菓子美味いな。
「まぁ! ヴィオ様ったらお世辞がお上手だこと」
口ではそう言いつつ、イザベラ様も悪い気はしていないようで、長い足を組み直してお茶を飲む。
「それとも、平民の会話が珍しいのかしらぁ?」
胸を寄せるように色っぽく頬杖をついて、ローザ様が少し意地悪な表情で微笑む。
本当は寄せられた胸の谷間に注目したいところだったけど……
「平民ですか? あれ? お二人は確か、子爵家と男爵家のご出身と伺っていますが」
鏡の中のお姫様から教えて貰った家族構成を思い出す。
「流石に平民の家からそのまま王宮へは上がれませんから、子爵家や男爵家へ養子に入ってから王室へ入ったのですわ」
「ご存じありませんでしたか?
お姫様からもそんな話は聞いたことないし、知らなかったんだろう。
「お二人のご出身の件は知りませんでしたし、例え知っていてもそれを理由に避けたりはしませんよ。ガールズトークがキツすぎてこれから避けるかも知れませんけど」
不敵に微笑んでみせると、イザベラ様が吹き出した。
「あら、まだキスくらいだって仰るから、手加減しておりますのに」
「えっ……」
「ヴィオ様ったら、本当に可愛らしいですわねぇ」
ローザ様も笑いを堪えて薄ら涙が浮かんでいる。
しかし、何でこの二人はこんなに仲が良いのか、ほんの少しだけど分かった気がする。
平民出身で、王室に入ったらきっと苦労が絶えなかっただろう。
現に一般庶民のオレだってお姫様に転生してしまって、今現在メッチャ苦労している。
年の近い王妃同士ってライバルになりそうだけど、この二人の場合は一番理解し合える立場なのかも知れないな。
異世界に一人で放り込まれたオレからすると、ちょっと羨ましいかも。
「不躾な質問かも知れませんが……」
「どうぞどうぞ、わたくし達の方こそ、色々面白い話を聞いてしまっておりますし、何でも訊いてください」
オレが気まずそうに切り出すと、イザベラ様が手をひらひらさせて了承してくれたので、お言葉に甘えて、素朴な疑問をぶつけることにする。
「どうしてお二人は王室に入ることになったのですか?」
確かにイザベラ様はスレンダー美女だし、ローザ様はふんわり美女だけど、わざわざ養子にしてまで王宮入りさせなくても、貴族出身でそういう人は居なかったのかな?
我ながら、ごくごく普通で当たり前な疑問だと思ったのだが、二人の王妃は目を丸くした。そして、ちょっと考え込んでからローザ様が口を開く。
「それは『
意外な言葉に、オレの心臓が一瞬大きく鼓動した。
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