シロウ・バース〜Lead ０〜

第17話 恐竜とタキシード猫

　影城・城内広場

　上空に投げ出された死肉キュウビはさすがアンドラスの兵器というのあって華麗に着地する。その後シルベスターとワイバーンは爆液の伸縮性を活かして勢いよく穴から飛び上がって追いつく。空中で周りを見回すと外だった。割れた大地から見える空と下は石造りの床に周りには武器が置かれている。どうやら城の砲台・見張り台のようだ。こちらに迫ってくる巨獣アモンが見える。それを全員で止める獣士たちも。

「大分近づいてるね。」

　ワイバーンがシルベスターにつぶやくと突然鋭利な何かが２人に向かって飛んできた。間一髪でそれをかわす。死肉キュウビの方を見ると、腕を前に伸ばしている。掌から白い鋭利な針が見えた。それを見た時２人は先ほどの何かがヤツの骨であることを察した。

「全く……アンドラスもいい趣味してるよ……。オイラ達の戦い方より」

「でもあくまで形だけ、中身は何一つ同じじゃない！！」

　死肉キュウビは目の前に転がっていた槍を拾い上げる。２人もそれに対して構える。お互いに見つめ合い出だしを伺う。ククリと爆液対飛び道具を使える槍。ただ２人はキュウビとの関わりが少なかったため、レオン達のようにひどく感情を揺さぶられることもなかった。

　ガキン！！

　そのため躊躇いで反応に遅れることもなかった。ワイバーンに向かい勢いよく突進してきた死肉キュウビの矛先はシルベスターのククリによって防がれる。ワイバーンの体色が瞬く間に緑から赤に変わる。

「ヤアアァ！！」

　シルベスターが抑えている時に回り込み、気合と共に放ったワイバーンの拳は死肉キュウビの脇腹にめり込む。拳からついた爆液は脇腹に付着した直後に爆発した。脇腹の肉は飛び散る。

　キシャアァウ！！

　体勢を崩した死肉キュウビの金切り声が響き、喜んだのは束の間。ブレード状になった腕がワイバーンに襲いかかる。鞭のようにスナップを効かせた斬撃はワイバーンのガードした腕を斬りつけた。メテオモードが持つ頑丈な体でも傷をつけ、ひるませられるほどの切れ味と威力。シルベスターは抑えた槍を払い、ブレードになった腕を切り落とそうとした。しかし、死肉キュウビは目視していないのに彼の刃を受け止めた。動揺したその一瞬を死肉キュウビが見逃すはずもなく、槍を持っていたもう片方の手を離し、シルベスターの腹に肘打ちをきめ、シルベスターの武器を握った手をはなさせるほどだった。打ち込んだその腕は勢いを乗せ、ワイバーンの顔面に拳を叩き込む。２人はそれぞれ違う方向へ吹き飛ばされた。壁にヒビと身体の跡が残るほどの威力だ。２人がうめく中、死肉キュウビは自身に近いシルベスターの方に落とした槍を拾い上げてとどめを刺しに向かう。歩幅は大きく、動きも力だ入っている。

「シリー……！！」

　霞んだ声で相棒の名前を呼ぶも、当然届くことはない。シルベスターも立ちあがろうとしているが、脇腹を打ち込まれたせいで呼吸と身動きができずにいた。

　ガン！

　なんとか注意をそらそうと、ワイバーンは近くに落ちている石をぶつけた。見事頭に命中し、ヤツは牙を剥き出してワイバーンに目標を変えた。背中の痛みに耐えながらゆらゆらと立ち上がり構え直す。

「オラ来いよ……こっちはまだピンピンしてるぞ！！」

　苦しさを紛らすように相手に笑顔を見せつける。

　■■■■！！

　死肉キュウビは槍を投げる。銃弾のような速さだが、一直線に飛んでくるものをいなすことなどワイバーンにとって造作もない。そして２人とも一歩で間合いを合わせ、互いの拳をぶつけた。身体の勢いを乗せてたのもあり風圧も生まれていた。

　■■■■■■■■■ーーー！！！！

「ウオオオオオオォォォーーーー！！！！！」

　互いに吠えるとラッシュが始まった。その攻撃は相手の体に打ち込むものであると同時に、自分に向かってくる拳を止めるものでもある。フィジカルタイプであるメテオモードは近接戦有利のタイプだが、死肉キュウビはそれを凌ぐ力と速さでワイバーンを圧倒していた。

「(ヤバい……このままだと……負ける！！)」

　この瞬間（ラッシュ）において勝敗の鍵は集中力である。そして一撃一撃の重さであり、疾さであり、精密さである。ただし……

　ズバッ

　死肉キュウビは何が起きたか全く理解できなかった。前に出そうとした腕が出ない。そして、引こうとした腕は地面に落ちていく。

「もらった！！」

　ワイバーンの気合いと共に放たれたのは拳ではなく尻尾だった。真っ赤に染まり、炎ともう一つの光を纏った尻尾は死肉キュウビの胸部にクリーンヒット。攻撃が当たった瞬間爆発し、回転しながら吹き飛んた。石造りの壁には穴が開き、奥の塔の壁を突き破るまでの威力だ。砂煙が白の内側から出ているところから、反対側を突き破っていないことがわかる。死肉キュウビは両腕を切断、そして心臓・脊髄・頭を破壊され自己修復が不可能となり、二人が感じていた邪気は消えた。

　先程の話だが、あくまで一対一（タイマン）の話であり、二対一の場合では愚策以外何者でもないのだ。気配を消すのが得意なシルベスターおいては特にである。

「ホント……起きてくれてよかった。あのままだったらボク負けてたよ。」

「起きてたさ！　でも息できなくて動けなかったんだよ。そっちこそ負ける感じなかったけど？」

「勘弁してよ。あのままだったら今頃ボクはミンチだよ。」

　そう言ってお互いに笑顔を見せる。いつも緊張感をなくして戦うのが二人のスタンスなのだ。

「じゃ、僕たちは巨獣の方に向かおう。」

「おう。ところでワイブ……。」

　シルベスターはワイバーンの尻尾を眺めながら言う。

「まだ尻尾燃えてるぞ。」

「ン？」

　尻尾を自分の見える位置に持ってくる。赤みはメテオモード本来の淡い赤色に治まったが、炎はそのままだった。そして、動かした拍子にたまたま近くにあったシルベスターの尻尾の毛に点火してしまった。

「「……アチアチアチアチアチ！！」」

　お互い一瞬目を合わせてから大慌てで消火した。その時、何かの紐に火が移った。